第84話 超接待
凡太の全力宣言を聞いてから団長の気分は高揚していた。今まで単調だった試合に大きな変化が現れ、面白くなると考えたからだ。その気持ちに同調するように団長の攻撃が徐々に速度を増してきた。
再開当初はくぼみを警戒しつつ回避成功を繰り返していた凡太であったが、団長の攻撃速度上昇と比例するように顔や腕に擦り傷が増え始める。これは攻撃回避がギリギリになり、団長が凡太の動きをとらえつつある証拠だ。
そのことについて団長が凡太に指摘する。
「さっきより回避が遅くなっていますよ。もしかして体力切れですか?攻撃がもう少しで当たりそうになっていますよ?まさかもう全力回避の時間は終わったわけではないでしょうね?」
「残念ながら体力切れでもないし、これが私の全力ですよ。あなたが速くなっているのです。ここにきて私の全力を超えてくるとは、さすがですね」
「そんなこと言って、何か隠しているのでしょう?あなたがこの程度で終わるわけがない」
「何も隠してないし、本当にこの程度なのです。だけどこのまま終わりたくない。だから、最後まで足掻かせてもらいますよ!」
「良い心意気です。期待していますよ!」
団長の変化にお気づきだろうか?
あの無口だった彼が凡太に煽り文句を言って、最後は試合を楽しんでいるような声色で返答した。これは団長が自身の勝利が間近となり、気分が高揚している為である。つまり、凡太の接待が成功していることを意味する。
凡太は苦しい表情をしつつもこの変化に気づき、心の中でガッツポーズをする。最後の捨て台詞も言い、あとはただやられるだけで接待は完了する。困難な仕事を9割やり終えたら晴れ晴れした気持ちになるはずだが、凡太の心はまだ晴れきっていない。
(俺の接待は本当にこれが限界なのか?)
団長の言葉に触発され、最後の最後に足搔きスイッチが入る。
(団長が何かに期待している…。本当の接待は相手に期待させては駄目だ。期待される暇がないほど、完膚なきまで相手を満足させるものなんだ。だったら、絶対にこのまま終わられねぇ!)
凡太の決意と共に、おそらく最後になるであろう攻防が開始する。
相変わらず、凡太の回避と共に攻撃速度が上昇していく団長。
さて…
凡太の性格分析を完了している人であるなら、もうとっくにお気づきだろう。
そう。
団長の緩やかな速度上昇は凡太の肉体強化魔法によるものである。団長への強化魔法の使用は、接待返しを決断した攻防時から開始される。肉体強化魔法は緩やかに、少しずつ効力を高めていくことを徹底していた。急に大きく能力を高めては、団長に気づかれ、接待が台無しになるからだ。だからこそ、接待に気づかれない程度の絶妙な効力調整が必要だ。これまで、団長にその自覚がないことから凡太の微調整は成功していたといってもよいだろう。
また、徐々に効力を高めていく手段は目的達成に近づく高揚感の演出効果も兼任している。人は自分の成長を実感できるとうれしくなるもの。その体験の場をここで作り出したのだ。もちろん団長自身の高揚からくる能力向上もあっただろうが、もはやそれすら凡太の接待演出の一部となっている。
最も驚くべき点は、凡太の回避技術だ。団長の攻撃速度が徐々に上がっていくということは回避側も徐々に回避速度を上げていかないといけない。回避速度を極端に上げると相手が無理ゲーと判断し、やる気をなくす。これでは接待の意味がなくなる。反対に、回避せずにボコボコにされる演出だと、簡単に勝てるものだと判断してしまい興が削がれる恐れがある。達成できるか達成できないかわからないが、若干達成できそうな方寄り。そんな絶妙なラインであるほど、人はその達成の為に夢中になって行動しようとする。現に団長の段階的攻撃速度上昇が、まさにそれだ。凡太はその絶妙なラインを維持させつつ、自身の回避速度と団長の攻撃速度の難しい調整をやってのけたのだ。
凡太は今回の攻防でも先程同様、徐々に強化魔法の効力をかけていくのかと思いきや何か思考中。
(あれをやってみるか)
“あれ”とは?
そんな疑問を解く間もなく、団長がパターン通り、背後へ高速移動からの木刀での横振りを行う。その横振りは、これまで蓄積された強化効力によりとてつもないスピードになっていた。それをギリギリしゃがんで回避する凡太。あまりのギリギリさに髪が木刀に擦れていた。そして、団長お得意の遠心力を利用した二撃目の横振りがしゃがんだ凡太を狙う。
この時、団長は2つの未来を想像する。
1つは、凡太がいつも通りギリギリでかわす未来。
もう1つは、攻撃が腹に直撃して凡太がもだえ苦しむ未来だ。
どちらでも自分にとっては嬉しいが、予想できてしまえば興は半減するもの。団長がそんなつまらなさを若干感じつつ、攻撃の行方を見守る。
凡太の腹に木刀が触れる。
「後者だったか」
予想通りの展開。つまらない顔をしてつぶやく団長。それを聞いた凡太が、心の中でつぶやく。
(残念でした。はずれです)
その瞬間。
団長の顔がすぐに変化するような予想外の展開が起こった。
自身の攻撃速度・威力が、大幅に増したのだ。急な覚醒に驚き、この土壇場でのさらなる能力向上に、この試合で最高の高揚を実感し、歓喜する。
そして、その団長の歓喜の気持ちをすべて受け取るように凡太の腹へ横振りが直撃する。とてつもない威力と速度が凡太に伝わり、そのままの勢いで後ろに吹っ飛んでいく。振り子運動で勢いのついた重い鉄球がコンクリートの壁に衝突するような激しい衝撃音と共に壁へとめり込んでいく凡太。壁はコンクリートのような材質で厚さは5mほどあったが、それを突き破り、訓練所の外に放り出される。ズザーっと地面を何か力の強いものに引きずられるようになったところで、ようやく勢いが止まる。
薄れゆく意識の中で凡太が言葉をひねり出すように言う。
「これが…俺の接待…だ」
言い終えたのと同時に気絶した。




