第82話 凡太VS団長
明日からは、午前は学園で授業を受け、午後からは研究所で働くということになった。
今日のところは、この後何も予定がなかったので、城内の騎士訓練所を使用させてもらい、トレーニングを開始した。
アップをしてから本トレに入る。ウエストポーチからサムウライ製的を1個取り出す。このウエストポーチも特製で、どこかのネコ型ロボットのポケットほどではないが、ポーチ内に大きい段ボール箱一個分くらいの別空間があり、そこに物を色々と収納できるようになっている。
周りに人がおらず十分なスペースを確保した場所で的当てを開始する。
設定はいつも通り上限MAXで制限時間5分だ。
球体が予測不能の瞬間移動から気弾攻撃をしてくるのを慣れたようにかわしながら、自身の念動弾を当てていく。今回も両手打ちをしている為、着弾数を高速で稼ぎ、2分ほどでクリアした。
他の騎士達が訓練している為、的を2個にするとかなり邪魔になりそうなので今日は1個のみとなった。1時間ほど的当てをした後、加圧ベルトを着けて素振りや筋トレをした。ラストにタバタ式をやって今日のトレーニングを終了した。
相変わらず、トレーニング後は汗ダラダラで息を激しく乱す、大変見苦しい状態になっていた。その様子をみて騎士達がドン引きしていた。
(この程度の負荷で情けないって反応だな。やはり王国騎士団はアイの言っていた通り超一流ってことか。特待クラスにはこのレベルの人がゴロゴロいることを考えると恐怖だな。戦闘練習もあるだろうから、ボコられる覚悟はしておこう…)
騎士達の引き具合をみて、凡太が自分の実力のなさを情けなく思いながら訓練所を後にしようとしたところを呼び止められる。
「よろしかったら戦闘試合をしていただきたい」
振り返ると体格の良い男性が立っていた。グレントン戦で見た顔…。ラコン王国の騎士団長だ。
凡太が返事をする間もなく、男性の近くにいた小柄な男が凡太に体力回復魔法をかける。おそらく団長の部下だろう。このように他人から急に何かを与えられた場合でも、庶民なら何かお返しをしなくては申し訳ないという気持ちが働くものである。故に凡太はこう答えるしか選択肢はなくなる。
「分かりました…」
こうして試合を行う事となった。
了承してしまったのだからしょうがない。
凡太は心の準備をして、対峙する試合前の光景を想像していると……
「はじめ!」
小柄な男の合図で急に試合開始。
「え?対峙しないでいきなり始めるの?」
凡太は予想通りじゃなかった展開にあたふたして、戦闘準備が全く整っていない。その様子に一切同情することなく、高速移動して目の前から消える団長。そして――
「背後からの分かりやすい一撃、ありがとうございます」
そう言って団長の木刀での横の一振りをしゃがんでかわす。団長はそのまま空振りの遠心力を利用した形で回転し、速度を増した下段の横の二振り目をくりだすが、凡太にジャンプされ、かわされる。
それに対し、何も驚くことなく再び高速移動し消える団長。
「今度は真上ですよね?」
凡太の脳天にめがけて振り下ろされた縦の一振りは横スライドでひらりとかわされる。団長が地面着地の際、膝に溜められた力を利用し、横振りするも、地面を横に転がられ、かわされる。
この後も凡太にとって分かりやすい攻撃が繰り返された為、一切当たることなくかわし続けることができた。
ここで1つの疑問が発生する。
凡太はなぜ団長の攻撃をかわし続けることができるのか?という疑問だ。
ラコン王国騎士団の実力はフレイフ王国騎士団よりも上(凡太はこの事を知らない)。団長となればさらに実力は高いはず。その団長よりも弱いフレイフ王国騎士団に多勢とはいえ、攻撃をかわし切れずにボコボコにされていたので、今回も団長にボコボコにされるはずだ。
この謎を解くヒントは、フレイフ王国騎士団との戦での凡太の目的が相手の体力や魔力を削る為の時間稼ぎだったということ。あの魔改造的レベルの攻撃をしかけてくる相手はそうはいない為、本来の凡太なら騎士団の攻撃をかわすことは容易だった。しかし、はじめからかわし続けていれば、凡太の攻撃が非力であることは知られている為、無害なので放置されて村を襲撃される恐れがあった。そうならない為に、体魔変換で魔力を増大させ警戒させつつ、適度に攻撃に当たりに行くことで何分か粘れば倒すことができるという終わりの形をみせて離れられなくしていたのだ。
今回の試合の目的に、時間稼ぎという項目はないので、団長の攻撃を存分にかわせているということだ。
凡太は、団長の攻撃をかわし続ける中で思考の余裕ができていた。その余裕を使って、現状の分析を開始する。
まず、団長の実力について。どの程度かはまだ分からないが、アイの言う通り、ラコン王国騎士団が超エリート集団ならその中の最上位の団長はムサシマル並かそれ以上の実力者である可能性が高い。グレントン戦では、凡太やレオをわざわざ前線に立たせてくれていた。それは成長させる為。これは余裕があるからこそできる行動だ。余裕があるということは、グレントンを倒せる実力を持っていたということに他ならない。そんな彼らからしたら凡太は当然弱者。自分達なら余裕で倒せる相手に対し、死力を尽くして戦い両腕まで失った凡太の哀れさを気の毒に思ったのだろう。そういうことならこの異常なまでの手加減は納得できる。となると、この試合はこういう意図か?グレントン戦で鞭を与えたのだから今度は飴をやらなくてはと、凡太のモチベーションを維持させる為にわざわざ接待試合を計画し、実行してくれた可能性が高い
(なんて優しい人なんだ…)
凡太は団長の心遣いに感動し、感謝する。が、すぐさま別の感情が芽生え始める。団長に対しての怒りだ。
なぜ、感謝した相手に怒りを覚えたのか?
それはこの男が助力本能の持ち主だからだ。
(ふざけるなよ!成長の機会を与えてくれた恩人に、アフターフォローまでしてもらって、このまま気持ち良く終われるわけないだろ!?絶対にこの接待を阻止してやる…)
凡太は怒りに体を震わす。
(いや、阻止じゃ生ぬるい…。今度はこちらが接待してやる)
最適な案を思いつき、邪悪なニタリ顔をする。
こうして、各々の思いやりの心をかけた接待合戦が静かに幕を開けた。
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これは凡太が魔改造的当ての攻略にてこずっていた頃の話である。魔改造的は瞬間移動に近い高速移動をしつつ、何千通りの中から決められたパターンの動作をする。はっきりいって、どれだけ分析し、数をこなして慣れたところで、移動速度と攻撃速度が速すぎて体が反応できないので、かわすことも攻撃を当てることもできないのだ。
なんとかならないか、あれこれ試行錯誤を繰り返すが、何も浮かばずに諦めて、投げやり気分で的当てをしていると、自分の魔力がずっと放出されている状態だったことに気づく。無意味な魔力の放出はただの垂れ流しなので無駄なことだが、ムサシマルやノーキンのような強者ほど、体から放出される魔力の探知が鋭く、力量を見極める手段として頻繁に利用しているので、魔力放出量をつねに多くしておけば、強者に警戒されて味方の囮として機能できるのではないかと考えた。この考えが見事にはまったのが、フレイフ王国騎士団戦やグレントン戦である。どちらの戦も自分に注意をひきつけることに成功していた。
そのとき、魔力の探知できるなら、動きや気配の探知はできないかという発想が浮かぶ。
人は動きや気配を何で感じるか考えた時、五感が思い浮かぶ。味覚と臭覚は関係なさそうだ。視覚は前方しか認識できないから、頭上や後方からのような死角攻撃に対応できない。聴覚では音もなく瞬間移動してくるような相手の攻撃は防げない。認識はできそうだが、反応が遅れる問題は解決できそうにない。残るは触覚。触覚の範囲は自身の皮膚上のみの為、ゼロ距離だ。
(一見これも駄目そうに思えるけれど、仮にこの触覚の範囲を広くできるのならどうだろうか?皮膚兼空間膜のようなものが体の周りを覆うようなイメージ…)
凡太の頭の中でイメージした通りかは分からないが、自身の姿が2倍化した半透明の虚像が自分の身体の周りに膨らんだように現れた。
丁度そのとき、その虚像の左頬に蠅がぶつかる。
(うわっ!蠅だ)
肌に蠅がつく感覚で思わず左頬に手をやり振り払おうとする凡太だったが、本体の左頬には触れておらず、触れたのは虚像の左頬だけ。
(これは、もしや…)
きっかけを得た凡太はこの感覚を忘れない内に、虚像の生成練習を何度も繰り返す。しかし、その後30分程度で体力が限界まで減った為、この日の練習は強制終了した。魔力をつねに全力で放出しながらそれを成型する作業。例えるなら全力疾走しながら、解いたことのない数学の問題を解くようなもの。慣れない作業の為、力の加減や負荷に体が対応できていないのだ。
次の日からは、メイン修行を終わらせた後、この虚像生成練習をするようになった。メインの前にやると、1時間もしない内にその日一日は何もできなくなるからだ。1カ月ほどで自身の2倍の虚像を30分維持することに成功。今度は維持時間の延長を試みる。全力放出をやめて必要最低限の放出ですむような最適強度の模索に練習対象を切り替える。放出加減は1%か100%の単純感覚しかなかったので徐々に調整していく作業にかなり苦戦する。何度も失敗する中で少しコツを掴めてからは調整がし易くなっていく。そして、77%くらいが最適放出強度であることをつきとめる。この後はひたすら虚像の拡大と77%虚像維持時間の延長の練習を繰り返す。結果、虚像は自身の10倍拡大した状態で1時間維持することが可能となった。なお、使用後の体力消費量が多いのは相変わらずだが、使い切ることは無くなった。1時間維持が限界となっているのは一時的に集中力が切れるような感覚になる為である。一応レオ達との模擬戦でこれを使ったが、レオ達には虚像が見えないそうだ。
こうして、死角からの攻撃に反応はできるようになった。
次にいかにして反応後、反射的に回避するかだ。触覚や視覚で認識してから動く従来のやり方のままでは、常人レベルの身体能力で高速攻撃の回避は不可能。可能にするためには反応してから動作するまで短縮できるものを探すしかない。
反応・動作について掘り下げる。
例えば、ボールをよける時。
視覚情報(刺激が信号として他の神経に伝達)→脊髄(中枢神経。信号を受信し、どういう指令を脳に伝えるか選別される。ここでは“ボールがきていて危ないのでよけたいんですけど”と脳に要請)→脳(脊髄からの要請を受け取り、脊髄に対し最終命令を出す。ここでは“ボールをよけろ”という命令)→脊髄(ボールをよけるために両足の筋肉に動作信号を発信)→筋肉(動作担当。ここでは“膝を曲げた反動で足を動かして横に飛ぶ“という脊髄の指令を再現)という流れで反応・動作が行われる。通常はこの流れなのだが、例外がある。それは明らかな危険に対する反応である(脊髄反射)。例えば、熱湯が入ったコップを握ってしまった時に思わず手を引っ込める動作をするようなもの。このとき先程の信号伝達経路が、感覚情報(触覚)→脊髄→筋肉(腕)となり、脳までの伝達を短縮できて、かつ脊髄の再確認作業を短縮できる。これによって短縮できる時間は、実際数秒程度だが常人が超人に対抗する回避手段としては充分な利点となる。
ここで先程の虚像とこの話を組み合わせ、想像してみる。
高速移動するものが虚像後頭部に触れたらどうするだろうか?
反射的にしゃがむか体をスライドさせてかわそうとするだろう。つまり脊髄反射がされるわけである。高速移動からの攻撃という、常人からすれば脅威にしかならないこの攻撃は、明らかな危険とみなされたことが仇となり、常人に回避時間の短縮という利点を与えてしまったのだ。




