第74話 希望はいつも足元に
抹殺の前に悔しがっている顔を拝みたくなった趣味の悪いグレントンが凡太の顔を覗き込む。
そして、恐怖する。
男が攻撃手段を失ったにも拘らず、不気味な笑みを浮かべていたからだ。
(この圧倒的不利な状況下でどうして笑えるのですか)
「あなたが潜んでいることには気づいていました。テンプレ通りの真面目な敵なら、必ず私のまいた種(攻撃手段そのものを破壊)に反応し、利用してくると思ったのです。潜伏していたあなたには隙が無かった。隙が無いなら隙をつくればいい」
「まさか…その為にわざと両腕を差し出したというのですか?自分の唯一の攻撃手段ですよ!?確かに私に隙ができましたが、攻撃手段がないのであればそれはただの愚策です」
「攻撃手段がないと本当に思っているのですか?」
「どういう意――」
凡太の足元から半透明の砲弾サイズの弾が発生。
「まさか…足でも可能なのですか?」
黙って頷く凡太。
足での念動弾は凡太が的当て3個を攻略する為に編み出した秘策であった。奥の手は最後まで必要だと考えた凡太は敢えて戦闘中に足での念動弾を封印していたのだ。敵は奥の手を何個も隠し持っているというバトル漫画脳が役に立ったのだ。
「最後に1つ訂正を。私はあなたの行動を読んでいたわけではありません。私がこういう相手だったら手強くて苦戦すると勝手に想像していたものがたまたま当たっただけに過ぎません」
「その思考はありえない…。人間はもっと楽観的な思考のはずだ!だから普通は自分が都合の良い方…つまり楽に勝てることを想像するものではないですか?」
「残念ながら私は悲観的なんですよ。だから相手はつねに自分の一歩先を行くように勝手に想像してしまうのです。そもそも現実も異世界も甘くないに決まっていますからね」
両腕を切断された激痛に苦しみながら不気味な笑顔を浮かべ続ける男の顔をみてグレントンが一言。
「あなたは化け物より化け物らしいですよ…」
「そいつはどうも。もう一度言いますが、あなたが私の想像通りだったからたまたまこの結果になっただけなのです。だから、手強い相手でいてくれてありがとう」
台詞を言い終えると同時に足元の念動弾をボールのように蹴る。
念動弾は目の前の戦意喪失したグレントンに直撃。
グレントンは満足そうな顔でゆっくりと消滅していく。
まるで自身の持てる策を出し切り完全燃焼したかのように。
貧血でフラフラして倒れそうになったところをアイとレイナに支えられる。いつの間にか両腕の止血も終わっていた。
「これで遠慮なく隣に居られるわね」
「もう少しこっちに体重を預けても大丈夫ですよ」
(そんなに近くに寄られても困るんだけど…そうだ!)
「これ以上近づくっていうのなら完膚なきまでお触りするぞ?」
「「どうやって?」」
「ぐぬぬ…」
こうして、何も抵抗できないまま、大人しく2人に介護されるおっさん。
別の事を考えようとグレントンとの戦を思い返す為、消滅した場所を確認する。
すると、そこには手の平サイズの白い箱が光っていた。それをアイに拾ってもらうと箱がしゃべり出す。
『タイラ様、討伐おめでとうございます。賞品として願いを1つだけ叶えることができます。ただし、能力向上系や圧倒的に自身に有利に働く願いは禁止です。それでも実行しますか?』
「します!」
切断された腕や足の治療は魔法ではできないのでアイとレイナは両腕をなおしてもらうことを願うのだと考えていた。
「レオにレミさんのスキルによって移動された能力すべてを戻してあげてください」
『畏まりました』
凡太とレオの身体が光り、少しすると光が消えた。
完了を知らせるように白い箱も消滅した。
アイとレイナは驚いていたが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。
「あんたらしいわね」
「それでこそ私の主人です」
なぜか自分の事のように誇るように言う2人をみて凡太が優しく笑う。
そこへレオが凄い勢いで突進してきた。
「この大馬鹿者!!僕は君にこそ相応しいと思ったから何の躊躇もなく全能力を渡したんだ。それをわざわざ返す意味が分からない!それに何で自分の腕をなおさなかったんだよ。こんなくだらないことに大事な願いを使うのは馬鹿げているよ!」
「馬鹿はレオの方だよ。能力の相応しさならどう考えても君だろ?もとの持ち主でもあるしさ。無能がどんなに強い能力をもらっても使いこなせないから無駄なんだって。腕に関しても無価値な奴の一部がなくなっただけだからそれに大事な願いを使うのは馬鹿げてるし、くだらないだろ」
「くだらなくない!」
「くだらない!」
どちらも譲らない口喧嘩が勃発。
凡太を支えていた2人が少し笑いながら止めに入る。
「兄さんその馬鹿と言い争いしても時間の無駄ですよ」
「私もそう思います。彼はいつも勝手ですから」
「…。確かにその通りだ。二人ともありがとう。少し向こうで頭を冷やしてくるよ」
そう言って去っていく。
入れ替わりにムサシマル達がやって来ていた。
「腕は大丈夫か…?」
「はい。止血してもらいましたから問題ないです。元が弱すぎる為にあってもなくて一緒だったからかもしれません。むしろ軽量化ができて良かったかも」
そう言って笑いながら話す凡太にムサシマルは少し驚くが、すぐにいつもの表情に戻る。
「お主らしいな…。それにしても最後の技は見事だった。さすがに私もあそこまでは予測できなかった」
「ご謙遜を。絶対分かっていましたよね?あ、弟子を褒めて伸ばす育成手順でしたか。ありがとうございます!もっと精進します!」
「そういうことではないのだが…」
今度はノーキンが話しかけてくる。
「ボンタ殿、最後の一撃見事でした。3日後に是非再戦をしていただきたい」
「絶対に嫌です。それに腕がないので全然勝負にならないと思いますよ」
「ならば、私も両腕を落とします」
「絶対にやめてください」
ノーキンと何回か再戦するやり取りを続けていると、ムサシマルがノーキンを引きずりながらサムウライ軍団の所へ戻っていった。さすが保護者である。
入れ替わりでメアリーとレミもやって来た。
「タイラ君、腕は大丈夫かい?」
「大丈夫です。2人に止血してもらった上に両手に花状態なのでウハウハですよ」
(勘違い調子乗りおっさんのこの発言はさぞかしキモかろう。もう気を遣わないで離れてもいいんやで…)
「分かっているじゃない」
「私は醜いです。だから花という比喩は納得がいきませんが、そう思って頂いているのであればそういう事にしておきましょう」
おっさんの発言に引くどころか寄ってくる二人。
どうやらおっさんの策はまた裏目に出た様だ。
その様子を見てメアリーが何かを悟ったかのように微笑む。
「良い花を持っているね、大事にしなよ。それにしても凄い戦いぶりだったね」
「あれは全部レオとレミさんのおかげですよ。私はレオがやるはずだったことを代役でやっていただけに過ぎません。主役がレオ、演出がレミさん、代役が私です。ご理解いただけましたか?」
「うん。つまりタイラ君が凄いってことだよね。もちろん理解しているよ」
「1ミリも理解されていないのですが…。レミさんはちゃんと理解されましたよね?」
「最弱…最強…」
「…?」
「ごめんね。レミはさっきからずっとこの調子なんだ。ちょっと待ってて…」
そう言うとレミに猫騙しをした。
「あれ…?メアリー様…私は何を?」
「よかった、目が覚めたみたいだね。丁度タイラ君の戦いぶりの感想を言っていたところなんだけどレミも頼むよ」
「タイラ様ですか…。彼は…最強の最強なのです!」
「だ、そうだ」
「私に返さないでくださいよ。最強の最強って何なのですか?」
「最強の最強なのです!」
「だ、そうだ」
「わざとやっていませんか?2人とも」
メアリーは笑いながら、やや暴走思考気味のレミを制御しつつ、自軍の騎士達の下へ去っていった。
入れ替わりにワレスがやってくる。
「腕の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
両腕を失ったのにもかかわらず、失う前より嬉しそうな凡太に対し疑問を投げかける。
「なぜ、そんなにも嬉しそうなんですか?」
「レオの身代わりになれたからです。今回たまたま私がレオの気狂いで圧倒的な力を借りられたわけですが、通常ならレオが今回の勝負を決めていたはずです」
「どこまでも謙虚な方だ…。しかし、今回は誰がどう言おうとタイラ殿の活躍あってこその勝利だと思いますよ」
「私は何もしていません。レオのおかげですよ。勇者覚醒時なんか、彼輝いていたでしょ?あれこそ真の勇者ですよ」
「レオが輝いているのはいつものことです。そのレオの輝きが今日は一段と増していた…。要因となったのはあなたの行動です。だからこそ見事なのです」
「ありがとうございます…」
(評価ベクトルは怪しいが、結果的にレオが凄いってなっているからいいか)
この後、軽くレオの輝きエピソードを交え、満足したワレスは自身の騎士団の下へ戻っていった。
遠くの山から朝日が昇ろうとしていた。
差し込んだ光が凡太達の足元を少し照らす。
絶望と希望は表裏一体。
絶望が目の前にあれば、その近くに希望も必ずあるものだ。
いつもどこかに2つある。
今回はその“いつも”が足元にあった。
ただそれだけのこと。




