第72話 無能の真骨頂
凡太が念動連弾を放ち続けて20分経過。
膨大だったグレントンの魔力がつきかけ瀕死状態になっていた。
あと少しだ。
凡太も念動連弾と体魔変換・開により体力・魔力をかなり消費していたが、グレントンに止めをさすまでもつ余力はあった。
「これで終わりだ」
凡太の決め台詞と共にあっけなく消滅するグレントン。
消滅させたというのにまだ緊張を解かない。
「さすがですね。こんな勝ちが確定した気の緩む状況でも隙を見せないなんて」
木陰からグレントンが現れた。
しかも無傷で。
「日頃のマイナス思考の影響で、こんなに簡単に終わるわけがないと思ったからですよ。ただタコ殴りにされて反撃もなく不自然極まりない状況でしたしね。分身や分裂とかもできるんですか?」
「分裂です。個体能力は落ちていくので短期決戦向きではありませんが、あなたのように長期決戦に弱い相手には非常に有効な特性だと思います」
言い終えると後ろから100人のグレントンの分裂体が現れる。
隠蔽魔法を使い潜んでいたようだ。
個体能力は落ちているとはいっても第5形態の分裂体。
ムサシマル達よりも能力はまだ上である。
つまり対抗できるのは凡太だけであり、凡太が先に倒れれば負けが確定する。
それ故慎重にならざるを得ず、体力・魔力を温存しながら戦うことが余儀なくされる。
誰もが長期戦を覚悟した。
この男を除いては…。
「体魔変換・全開」
20秒間だけの魔力の大幅増強。
「正解!長引けば長引くほど分裂され、さらに不利になるだけですからね」
(本当は不正解。分裂は1日に200体だけ。考え過ぎるというのも問題ですね)
表情には出さず心の中でほくそ笑む。
そんなこととは知らず、凡太が高速で分裂体に念動連弾を叩き込む。
“全開”のおかげで弾の量が大増量し、次々と消滅させていく。
残り10秒――
分裂体は50体にまで減っていた。
この異常な速さにグレントンが焦り始める。
しかし、そんなグレントンの対処よりも速く消滅させていく。
残り5秒
分裂体は25体。
残り1秒
分裂体は8体。
残り0秒
分裂体は1体。
ここで凡太が気絶する。
“全開”の20秒後は体力が1になる為である。
「おしい!あと少しだったのに。残念です」
そう言って、分裂を開始。
再び100体の分裂体がこの場に揃う。
「まだ息があるようですね。丁度隙を与えて頂いたので今度はこちらがその厚意に甘えさせて頂き、叩き込みますね!」
凡太に気功破の標準が合わされ、放たれる瞬間――
ザンッ!
斬空破が後方より放たれグレントンの攻撃を阻止する。
放ったのはムサシマル。
ムサシマル、ノーキン、メアリー、ワレス、アイ、レイナが凡太の近くに高速移動し立ち塞がる。
「わざわざ近くまで来てくださってありがとうございます。殺す手間が省けてよかったです」
「礼には及ばぬ。残念だがもう少し手間がかかると思うぞ」
構えるムサシマル達。
最後まで足掻く気満々だ。
その心意気は今後ろで気絶しているあの男のようだ。
「かかりませんよ。なぜなら――」
力を溜める姿勢になると殺気が増し、周りの空気が重くなる。
すると、皆が恐怖を感じ次々と膝から崩れ落ちる。
ノーキンのスキルと同等の効果のようだ。
「結局は弱者が強者の前に跪く形になるからです」
言い終えるとムサシマルに向かい触手を振り上げる。
「最後まで諦めない姿勢は実に見事でした。では、さようなら」
ムサシマルが目を瞑り、死を覚悟する。
その時、ふと何かを思い出す。
(前にもこれと似たような光景を見た覚えがある…確か動けないアイ殿に向かいパウワが槍を投げた時だ)
触手がギリギリと張力を溜めている。
(あのときは最後どうなった?……思い出した)
凄まじい勢いで振り下ろされる触手。
グサッ!
触手が刺さったのはムサシマルではなく地面だった。
「やはりな」
謎の男に抱えられ、ムサシマルは触手を回避していた。
男はムサシマルをそっと地面に下ろす。
そして呟く。
「ニゲタイ…ラクニナリタイ…コワイ…カエリタイ…」
「忘れていた…。ここからが彼の真骨頂ではないか!これは面白いものが見られそうです!」
謎の男にノーキンが興奮する。
「なぜ立ち上がれるのですか?気絶するまで体力を使い果たしたのではずでしょう」
「体力を使い果たしてからが本番なのだ」
師匠が弟子を誇るような口調でグレントンの疑問に答えを添えた。
「ここからが本番とはどういう意味ですか?こんな状態で何ができる!」
「彼ならできるのよ。無能だと知っているからこんな状況でも足掻けるの」
アイの言葉に呼応するかのように謎の男から気力が溢れ、それが体力に変換されていく。
その様子をみて驚くグレントン。
「どこにそんな力が…」
「自分の為じゃなく他人の為だからこそさらに死力を尽くせるのです。本当は止めたいですけど今回はあなたの勝手を尊重します。どうか自分の生死の中でも足掻き切ってください。必ず生きて帰ってくることを信じていますから!」
男に対し、レイナが誇るように自分の主人を送り出すような言葉をかける。
驚いていたグレントンが時間の経過と共に冷静さを取り戻す。
「現状は力を出し尽くした死にかけの無能一人がじたばたと醜く這いずり回っているだけ。このような圧倒的有利な状況を作り出せたのは、主役が脇役に全能力を与えるという最大のミスを犯してくれたおかげです。感謝しますよ」
そう言ってレオに感謝と皮肉を込めたお辞儀をする。
距離があった為、レオにはグレントンの言葉が聞こえていなかったが、意味をくみ取り返答する。
「最大のミスを犯したのはあなたの方ですよ。主役は彼で、脇役は僕だ。これから起こる現象を目の当たりにして、あなたはきっと後悔する。さっさとあの男を殺しておくべきだったとね。さぁ舞台は整った…。主役の出番だ」
レオの言葉に呼応するようにあの男が呟きを開始する。
「ニゲタイ…コワイ…カエリタイ……タスケタイ!」
今後の行動が本能により決断された。
これより、無能男の反撃が始まる。




