第68話 奇襲テンプレ
時刻は深夜2時。
大学教授のように白衣をまとった身長175㎝の中肉の男性が村近くの森上空を浮いていた。その男性が召喚魔法を発動すると体長190cmほどの大量の狼男が現れた。その数1000体。
「あの村を滅ぼしてきなさい」
その命を受け、群れはガンバール村に向けて突進していった。
奇襲の基本は相手が一番油断していて力が発揮できない時を狙うことが鉄則である。つまり、狙うなら朝や昼などの視界良好で活動的な時間帯でなく、視界不良で非活動的な夜の深夜。丁度今頃である。
男性は欠伸をした。村の様子が遠目で見て静かなことを確認して、奇襲の成功を悟り余裕ができたからだ。普通警戒をしているのであれば村の偵察者が奇襲を伝え、緊急防御態勢になり、慌ただしくなるはず。その様子がないということは気づかれていないし、警戒もされていないということになる。
「所詮この程度の相手でしたか」
男性が残念そうに俯いた瞬間。急に群れの突進音が少し静かになる。
不審に思い顔を上げると群れが別集団からの奇襲を受けていた。その集団は次々と出現し、群れを狩っていく。村の反対側である狼男の背後の森から。
「こちらが逆に奇襲を受けているだと?こちらの背後から現れたのを見るに動きを最初から読まれていたのか…」
男性はあたりをキョロキョロし、誰かを探している。
そして動きが止まる。見つけたようだ。
その人物の前に高速移動した。
「奇襲を仕掛けたのはあなたですね?タイラ・ボンタ」
「名前を知っていただけているようで光栄です。奇襲を仕掛けたつもりはありません。奇襲のテンプレ通り動いている間抜けな集団が隙だらけで前を走っていくのをみたのでちょっとつつかしてもらっただけですよ」
凡太は像のお告げ話を聞いてからゲールに森周辺の偵察を依頼した。相変わらず凄く嫌な顔をされたが、バンガルのいつもの押しに負け渋々引き受けてくれた。そして、森に結界がかかった魔物を発見。ご丁寧に結界解除までの残り時間が表示されていた。今回はそれを大いに利用させてもらい、その解除1時間前に全員が魔物背後に隠蔽魔法を使って準備万端の状態で潜伏していたのだ。
「召喚前から背後の森で隠蔽魔法を使って待機しているような用意周到な者の言う台詞ではありませんね。初めから読んでいたからこそこちらの奇襲に奇襲を被せられたわけでしょう?」
「そんな大層なことはしていないつもりでしたが…あまりに基本的なことをやっているのでこれ以上レベルは落とせないのです、申し訳ない…。ところであなたが像のお告げの“とてつもなく強い魔物”ですか?うーん…。この程度の力量ではとてつもなく強いというより、とてつもなく弱い部類だなぁ。すみません、人違いだったようです。失敬失敬」
ニタニタと嫌な笑い方をしていつも通り圧倒的なウザさを炸裂させる凡太。
その姿を見て男性が怒りで震え出す。
「人違いではございませんよ。私はグレントン。一応とてつもなく強い魔物ということになっていたのですが、あなたの言う通りとてつもなく弱い魔物だったようです。少し質問があるのですが、聞いてもよろしいですか?」
「どうぞ。とてつもなく弱いグレントンさん」
「もし仮に、そのとてつもなく弱い魔物に負ける者がいたら、それはなんと呼ばれるのでしょうか?」
「“とてつもなく”より下だから最弱者とかでしょうか」
「なるほど…ということはあなたが最弱者となるわけだ」
グレントンが全身に力を込めると周りの空気が重くなっていく。
レオ達の顔をみるに明らかに能力が大幅に上昇したようだ。
(第2形態突入ってところか。あと3段階くらいの形態変化を想定しているから今の段階でこのレオ達の反応ということは相当まずいな。やっぱり異世界も甘くないね…)
凡太がよく敵を煽るのには理由があった。バトル漫画好きだった彼は敵が奥の手のように何度も形態変化してくるということを1種のテンプレのように認識していた。故にそのような敵に勝つ為にはさっさと奥の手である形態変化を出し尽くさせないといけないと考えていた。だから、煽ることで形態変化する状況をつくり出していたのだ。
グレントンが再び狼男の召喚魔法を唱える。300mほど離れた場所に召喚された狼男はさっきの倍の2000体で、骨格がより硬そうな形状をしており、凄みを増していた。どうやらグレントンの能力上昇に比例するように狼男の個体種のレベルも上がっているようだ。
「師匠、ノーキンさんお願いします」
「「御意!」」
ムサシマル率いるサムウライ軍団が狼男の群れを迎撃しに行った。
グレントンがまだ召喚魔法を唱えている。するとサムウライ軍団の左右からそれぞれ100体の狼男が召喚された。このままでは挟み撃ちにされてしまう。
「兄者、メアリーさん頼みます!」
「任せてくれ!」「任せて!」
左にワレス率いるフレイフ王国騎士団。
右にメアリー率いるラコン王国騎士団。
それぞれが迎撃を開始する。
グレントンと対峙するのはレオ、凡太、アイ、レイナ、モーブの5人である。
バンガル達は戦闘力の差を考慮すると守り切れなくなった場合、足手まといになることが考えられたので村で待機中だ。
「さて、こちらも始めましょうか」
グレントンの背中から枝のような触手が無数にはえてきた。触手が枝分かれするようにどんどん増殖していく。
「大体どんな攻撃してくるかは予測できるな…。レイナ、アイ。レオとモーブに強化魔法をかけてやってくれ」
「嫌です。私はボンタ様にしかかけるつもりはありません」
「こんなときに勝手なこと言えるものかね?頼みますって!」
「嫌なものは嫌なのです」
「分かった。それなら…アイ。すまんが少しの間、負ぶってもらっていいか?」
「どういうつもり?まぁいいけど…」
この状況下での無能おっさんが負ぶられる姿はまさにお荷物そのものである。
「これでアイと俺は運命共同体。アイがやられれば俺もやられる。だからアイに強化魔法をかけてやってくれ」
レイナは数秒思考し諦めたのか、アイに強化魔法をかけ始める。
「しょうがないですね…。アイ、そのお荷物を落とさないようにしっかり運んでくださいね」
「うん。任せておいて」
この間にレオ、モーブも自身に強化魔法をかけ、各々の準備が完了。向こうも触手の増殖が終了。
「では、いきますよ!」
グレントンのスタート合図により2回戦が始まった。




