第66話 女の友情
魔物対策は着々と進んでいた。
レオが王国との交渉により騎士達300人の援軍が決定したようだ。
さらにフレイフ王国の同盟国であるラコン王国が100人援軍を送ってくれるそうだ。
なんでも王女メアリーも来てくれるとか。
サムウライは300人。特にムサシマルとノーキンがやる気満々だ。
戦準備があるのでこれらの援軍は前日に集結するらしい。
中日の今日。
凡太が早朝からルーティン運動を行うためアップから入っていた。このときアイとレイナもなぜか参加してきたので一緒に一式トレーニングをすることになった。
2時間後トレーニングが終わり、汗だくになる3人。
軽く風呂に入ってから朝食をとる。
ここで風呂を出て合流した時から気になっていたことを凡太が質問する。
「なんで2人とも俺の腕にくっついてんの?」
「離れたくないからよ」「離れたくないからです」
同時に答える二人。
「ボンタが嫌がっているじゃないですか。離してあげたらどうですか?」
「そちらの方こそ。腕に強くしがみつき過ぎでは?ボンタ様が苦しそうです」
「あのー、朝ごはん食べられないんですけど…」
「しょうがないわね…はい、あーん」
「モグモグ…離してくれるとしょうがない事はなくなると思うよ…」
「食事中よ。黙って食べなさい」
「う、うん…」
「ボンタ様、あーん」
「モグモグ…気を遣わなくていいよ。面倒でしょ?離してくれたら自分で食べるから」
「これは奴隷の務めであり、主人の務めでもあるのです。諦めてください」
「そ、そうなの?覚えておくよ…」
こうして微妙に気まずい雰囲気のあーん合戦を耐え抜いた凡太。
しかし、さらなる試練が彼を襲おうとしていた。
折角アイとレイナがいるということで、凡太が2人の身体の状態を見て最適なトレーニングを考案する流れになった。
まずはアイの身体の状態を確認する。
「さすが…。こんな指関節の部分にタコなんてできないよ。あの試合以降も“三重”の練習を毎日やっている感じだね」
「うん!そうなの。成功確率をもっと高めたかったのとどんな状況でも出せるようにしておきたかったから基礎トレーニングが終わった後は何度も練習していたわ」
「練習はいいけどタコが痛々しいね。感覚は覚えてきていると思うから、しばらくは“三重”とかの斬空破系は控えて高速移動とかの足系の鍛錬に切り替えた方がいいよ」
「分かった。それ中心でやってみる。ありがとね!」
アイが嬉しそうな顔で指示を受けた鍛錬に入った。
次にレイナ。
「この左足の太ももの太さは競輪選手並み…ごめん、俺の世界の達人のような人物並って意味ね。とにかく凄いよ。ここまでの太さにするには数回でもきつい様な相当な負荷のトレーニングを何度もやらないといけないはずだし。よく耐えられたね」
「より高みに行く為には当然です」
「でも太ももの血流状態がおかしい。圧迫させ過ぎたせいで痙攣状態からの戻りが遅く回復していない証拠だと思う。これ以上酷使しても効率悪いと思うから回復するまで安静にしつつ太もも周辺の血流をよくする為、カーフレイズやヒップリフトとかでふくらはぎや臀筋群を刺激しときますか」
「確かに少し酷使している感じがしていたのでご指摘助かりました。太もも周りのトレーニングはあまりやってないのでご教授お願いします」
「ああ、分かったよ」
ヒップリフトから教える凡太。
芝生の上で仰向けにさせ、両膝を立てて足を少し開いてもらう。
「じゃーお尻を持ち上げてみて」
「こうですか?」
「そう。で、お尻の上側の部分が張っているような感覚があれば大丈夫だよ」
「この辺ですか?」
「そうそう」
「もう少し負荷が高くてもいけそうです」
「異世界の人からしたら今の負荷は軽過ぎるからお腹に重りを乗せてやってみるのもありだね。ただ、今日は初日だから感覚を覚えて慣れることが目的だから、やっても片足をあげるパターンだけにして」
「分かりました」
遠くで様子を見ていたアイが近づいてきた。
「さっきから何でレイナさんのお尻を何度も触っていたの?」
「あ、ごめん。つい説明に集中していて注意をおろそかにしていたよ。レイナの方が俺より強いのだから次むかついたら殴ってもいいからね。なんなら今殴ってもいいよ」
「いいのです。指導するために仕方なかったのは分かっていましたから。それより私の身体に振れたことで不快になりませんでしたか?」
(不快?あー呪いの影響でひどい状態になった皮膚の事か…)
「女性には申し訳ないけど肌の状態とか俺は気にしていないよ。それより今はどういう風に受け止めているかといった姿勢の方が遥かに重要だしね。レイナの場合、呪いの傷の上に新しい傷がたくさんあるだろ。それはレイナが今も呪いと向き合って戦っていることの証明書のようなものだし、立派な傷だと思ったよ」
そう言って称賛するように傷を撫でながら力説する凡太。
「ありがとうございます…この呪いの傷ごと褒められたのは初めてです」
「普通この傷のセットをみたら凄いってならないか?皆、あまりの凄さに嫉妬して褒められなかったとかかなぁ…?」
「ふふ…それはないですよ」
「そうかなぁ…絶対気づく人はいると思うんだけどなぁ」
2人のやり取りをみて先程まで怒っていたアイから怒りが流れ落ちていく。
この男は下心なく接し、純粋に助力していただけなのだ。
アイは今までそれを何百回とみてきて散々理解していたはずなのに、嫉妬心によってそれを忘れてしまった自分に少し腹を立てた。
少し反省した後、レイナに質問する。
「レイナさんはボンタのことをどう思っていますか?」
少し考えてからの返答。
「どうしようもない人だと思っています」
笑顔でそう答えた。
凡太はその不評を聞き、嬉しそうにしていた。
(今の言葉と表情ではっきり分かった。レイナさんもボンタをちゃんと理解していたんだ)
自分の仲間ができて急に嬉しさが溢れる。
アイがその嬉しさを具現化したような言葉で返答する。
「私もそう思います」
アイも笑顔でそう答えた。
それを聞きレイナも笑顔で応答した。
以降、2人の中で友情が芽生えたらしく、いつのまにか敬語やさん付けは無くなっていた。
代わりに大きな信頼関係が生まれたようだ。
夜の就寝前、凡太が着替える為にシャツを脱いでいた。
ふとレイナがその姿を見ると、そこには鬱血した両腕が…。
今日の2人の腕抱き着きが原因の模様。
転移人と異世界人の力と耐久力の差に凡太の腕が耐えられなかったらしい。
「ごめんなさい」
これにはレイナも本気で謝ったが、凡太は笑顔でこう返す。
「いいんだよ。むしろ俺への嫌悪感を目に見える形にしてくれて嬉しいよ」
「そうですか…」
(この人がめんどくさい人だったのを忘れていました…今更勘違いを正すのも骨が折れるのでこのまま流しましょう)
うっ血の件は次の日にレイナからアイに伝えられ、腕抱き着きは暫く自粛されるようになった。
こうして本人の知らない内に腕切断になる未来が回避されたのであった。




