第60話 勇者覚醒
上位スキル・勇者覚醒の効果は身体能力と魔力潜在量の倍増。
レオの動きが急激に速くなったのはこの為だ。
発現条件は以下の3点。
1.一定量以上の身体能力と魔力量を持つ者。
2.自分が勇者であることを強く自覚している者。
3.自分の弱さを受け入れている者
1は既に満たしており、2,3は凡太の姿勢と言葉から条件を満たすことができた。
勇者とは字の通り、勇ましい者の事。
自身が圧倒的な強さを持っていれば勇ましくなる必要はない。
勇気を振り絞らなくても楽勝だからだ。
つまり強さは勇者とは関係がない。
反対に弱いとちょっとの障害でも勇気を振り絞って立ち向かわなくてはならない。
少し情けない感じがするがこれこそ本来の勇者の姿だ。
自分の弱さを知っていても、困難な方向へ進める者こそ発現する資格がある。
このスキルを設定した神はそのような考え方だったのだろう。
なお、スキル持続時間は基本30分らしいが、訓練次第で伸びていくのだとか。
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「あっという間に精鋭3人を…レオのあの変化は一体…」
ワレスがレオの圧倒的な強さを見て呆然とし、立ちすくんでいた
「あと97人…」
「ひっ…」
レオのカウントダウンに怯える騎士。
次は自分だと考えると足が震え、動けなくなる。
レオが高速移動の為、地面に力を溜め、踏ん張る。
思い切り蹴った。
ゴリュ!
地面が靴跡の5倍のサイズで抉れ、深い溝ができる。
バキッ!バキッ!バキッ!……
凄い勢いのまま、木を10本ほど体当たりでなぎ倒していく。
「行き過ぎた…力加減が難しいな。次はもっと抑えないと」
「あ…ありえない…」
(とてつもない速さと力だったぞ!?あれでまだ本気でないというのか?こちらには奴と対等に戦える者がいない。圧倒的に強すぎる…)
「邪魔だな…」
レオは剣を鞘にしまい、居合する姿勢になった。
辺りが緊張で静まり返った次の瞬間、
レオが一閃だけ放ったように剣を振り終わった姿になる。
すると周辺の木が一瞬で粉になった。
その数50本以上。
こうして見晴らしの良い簡易的な広場が完成した。
驚愕の事象はこれだけではない。
周りにいた騎士97人は無傷だったのだ。
自分達が無傷と知れた騎士は安堵したが、すぐに絶望する。
彼らは気づいた。
自分達があの粉になった木のようにいつでも粉微塵にすることが可能なただの造形物に過ぎないことを。
「よし、これで思い切り動けるぞ」
絶望する騎士達を余所にレオが楽しそうに言う。
「いきますよ」
言い終える瞬間には騎士の前に高速移動していた。
「うおぉー!!」
自らを鼓舞することで恐怖により動かなくなった足を無理矢理動かそうとする。
が、その努力虚しく、
シュッ! 峰内一閃
「あと96人…」
「なめるな!集団戦法だ。10人で同時にかかれ!」
開けた場所があだとなり、前後左右から攻め立てられるレオ。
シュッ! 峰内十閃
しかし、今この男に数は関係ない。
「あと86人…」
差が圧倒的だからだ。
こうして先程切られた木のように次々と倒れていく騎士達
残るは、
「あと一人…」
ワレス一人となった。
「いやー見事だったよ、レオ。ここまで強くなっていたなんてびっくりだ。兄として誇りに思うよ」
(時間を稼いでいる間に何か打開策をみつけるのだ…その為に会話し続ける)
「どうだ?昔のように一緒に暮らさないか?お前のような強者がそんな男と一緒にいるのは勿体ない。是非そうすべきだとは思わないか?」
わなわなと震え出すレオ。そして、
「…そんな男だと!?彼こそが強者であり、僕の勇者だ!」
「…!?」
自分の発言がレオの逆鱗に触れ、怯えるワレス。
「僕なんか彼の足元にも及ばない…現に彼の足止めのおかげで騎士全員の魔力はほぼ空だった。自己強化魔法の使えない者の相手は楽だった。彼のおかげだ…」
反論の余地もなく聞き手に回るしかないワレス。
「これだけでも大功績なのに騎士全員の体力も3分の1ほど削ってくれていた。だからこそ早く終わらせることができた。彼のおかげだ…」
「僕が勇者覚醒を発現できたこと。僕一人じゃ無理だった。きっと彼が僕を勇者だと信じてくれたからできたんだ。だから僕は自分を勇者だと信じられた。彼のおかげだ…」
「これで分かっていただけましたよね?今日のこの状況と結果はすべて彼の力によりつくられたものだということを。僕より彼の方が遥かに強いということを」
(レオは圧倒的に強い、それに昔から頭も切れる。その男にこれほどまで尊敬される男の実力とは一体どれほど高いのだ?私が測り切れるものなのか?)
ワレスはレオに恐怖した。
しかし、レオが自分より遥かに強いという男に対しては測りきる事かできずさらに恐怖した。
圧倒的な差の上にさらに圧倒的なものを被せられ押しつぶされて立ち上がれない状態。
ワレスは自身の敗北を認め降参しようとしたとき、首筋が痛み出す。
「まただ!反省しようとするといつも痛み出す。なんなのだ」
その様子にレオが反応し、ワレスの首筋に隠蔽解除魔法をかける。
すると首に拳サイズの蜘蛛型寄生生物が現れる。
それを剣で切断するとワレスが気を失った。
「そういうことか…」
何かに納得したレオはワレスが気絶しただけで他に損傷個所がないことを確認してから凡太の方へ向かう。
回復魔法をかける。
重症だった為、傷や腫物はほとんど完治した。
「レオか…ということは勇者様が伝えてくれたんだな、俺の言葉を」
「うん。しっかり伝えてくれたよ」
周りを見渡して驚く凡太。
「騎士達が全滅?これも勇者様がやったのか?さすがだ」
「ああ、君の勇者は強かったよ」
「“君”の?どういうこと?」
今までの経緯をレオから聞かされる。
「勘違いだったわけだ。思い出すと恥ずかしくて死にそうだ…」
「その勘違いでスキルを発現することができたのだし、結果オーライだよ」
「そうだな…」
(トラウマ克服が目的だったけど克服はできなかった。代わりに上位スキル発現で主人公の能力の大幅向上が叶った。本当に結果オーライだな)
~30分後~
気絶していた騎士達が起き上がる。
もう戦う気はなく敗北を認めているようだった。
ワレスも起き上がり、思い出したかのようにレオの下へ走ってくる。
「すまなかった!私怨で今までお前にとんでもないことをしてきた。その罪を償わせてくれ!なんなら私の命を取っても構わん」
土下座の態勢で謝罪する。
「別に気にしてないので何も償わなくても大丈夫です。あと当時は修行のように思っていたのでむしろ感謝していますよ」
「ありがとう…本当にありがとう…」
レオは寛大に応答し礼を言う。それに連なるように礼を倍返しするワレス。
(そういうところだよ。お前が勇者だと思った理由は)
凡太が納得した表情をする。
決闘は結果オーライを挟んだが、終わってみればあの無能男の策通りに終わったのであった。




