第59話 俺の勇者
20分経過。
体魔変換・開により得た大量の魔力を使い、足止めをしつつ念動弾の大量放出・着弾を行い騎士全員の魔力を大幅に削ることに成功した。
同時に凡太の体力も“開”により大幅に削られ、限界を迎えようとしていた。
体魔変換・開が強制解除され両膝を地面に着く。
急に力尽きた状態になる凡太に驚く騎士達だったが、すぐに攻撃を再開する。
威力1の念動弾で削れるのは魔力のみ。
体力の方は変わらずほぼ満タン状態だ。
凡太の顔面に狙いを定め、騎士の鋭い右拳ストレートが放たれる。
ボグッ!
右拳が炸裂。
太木に。
紙一重でかわしたのだ。
「貴様そのフラフラな状態でまだ動けるのか?」
「このフラフラの状態からが俺の真骨頂なもので…お手数をかけますが、もう少しお付き合いしてもらいますよ」
「下らん。すぐに終わらせてやる」
既に凡太はすべての力を使い果たし、足止め役も即降板されるような無力な状態であった。しかし、わざと余裕があり、奥の手を隠し持っているような姿勢をもち続けることで、騎士たちにまだ脅威であるという錯覚をさせているのだ。
(削るんだ…彼らの体力を…削られるだけ…削るんだ…)
フラフラの状態だが防御姿勢を崩さず、鋭い目線を放ち緊張を解かない。
その姿から感じる底知れぬ気迫に恐怖するも確実に攻撃を当てていく騎士達。
騎士達の体力が削れる度に、凡太の命が削られていく。
最後に残るのはどっちだろうか。
~~~
(急がなくては!)
レオは凡太の意図に気づいてから本来の力を取り戻し、城跡での決闘を終えていた。
すぐさま村に向かいモーブに凡太が向かった場所を聞き、そこへ移動中。
(既に2時間以上たっている。生きていてくれよ!)
~20分後~
レオが息を切らして到着。
騎士達100人はほぼ無傷の状態でそこに立っていた。
ワレスもいる。
そしてボコボコに殴られ腫れものばかりになった顔の男が1人地面に横たわっていた。
この状況を何も知らない第三者が最初に見たとしたら男が多勢にやられて敗北したつまらない状況だと思うだろう。
しかし、この場には何も知らない者など存在しない。
つまり、
「君は…君はたった1人で100人の足止めを成功させたのか…実力差もあっただろうにどうやって…やっぱり君って本当に凄いよ」
敗北したかに見えた男を勝者のように扱うレオ。知っているからこそできる反応だ。
先程からそれを知らされ続けたワレスが、
「なぜだ…なぜ我が国最強の騎士団が止められたのだ。相手はたった1人。しかもこちらより身体能力が劣る弱者だぞ…」
まるで敗北したかのような顔で悔しがっている。
レオの腕に抱かれた凡太が力のない声でしゃべり出す。
「あ…あなたは…誰ですか」
「レオだよ」
「この場所に…こんな状況で現れるなんて絶対勇者しかありえない…あなたは勇者様ですか?」
「聞こえていないのか?」
(耳から大量の出血が…道理で聞こえないわけだ)
「静かだ…奴らはもう行ったみたいだしもう助けを求めても大丈夫そうだ…」
「それに目も…腫れがひどすぎてほとんど見えていないのか」
「私の親友が今危ないのです…すぐに助けてあげてほしいのです…場所はここから南へいくと村があるのですが、その村から東にまっすぐ行った城の跡地です」
「危ないのは君の命の方だろ?なんでそんな状態なのに他人を気遣えるんだよ…どうして…いつも君はそうだ…」
目から溢れ出るものを垂れ流しながら凡太の体を支え続ける。
「その親友に会ったらこう伝えてほしいのです…『弱かろうが強かろうが関係ない。俺にとっての勇者はお前だよ』って…いつか伝えようと思っていたけど恥ずかしくて言えなくて…彼は自分が強くないことに嘆いていたみたいですけど、そこから逃げずに自分の弱さと戦い続けた強い人です…その弱さと向き合える力こそが彼の強さ…だから弱くてもいいってことにもっと早く気づいてほしかった…すみません…あなたに言っても訳わかりませんよね…」
「ああ、しっかりと伝えておくよ…訳は、分かった…」
ゴホッ、ゴホッ
凡太は喀血しながらもレオに肉体強化魔法をかける。
弱々しく効力はほとんど無いに等しい無意味な強化。
「頼みました…勇者様…」
それを言い終え、気絶するかと思いきやいきなりブツブツ呟きだす。
気絶しまいと必死に堪えているのだ。
微々たる強化魔法の効力を消さない為に。
その姿を見て沈黙するレオ。
そこにワレスがやって来る。
「戯れは済んだのかい?」
「お陰様で。待ってくださりありがとうございました」
「兄は寛大でないとね。さぁここからは久しぶりに剣を交えようじゃないか。今回は模擬戦ではなく実戦だがね」
「…」
お互い剣を構え対峙する。
レオの剣が少し震えている。
トラウマはやはり消えていないようだ。
その様子を見て勝利を確信するかのようにワレスが続ける。
「昔を思い出すなぁ…あの頃は私の圧勝だったよな?そして今回も同じだ!」
剣は振り下ろされたが、防御姿勢すらとらない。
棒立ちだ。
(勝った!)
ビュッ!
剣が何かを切る。
レオの脳天ではなく空気の方だ。
「どこへ…どこへ消えた!」
前方を見渡しレオを必死に探すが見つからない。
まさかと思い後ろを振り返ると、棒立ちを続けるレオの姿があった。
「いつの間に…速すぎて見えなかった」
レオの急な変化に驚く一方で脅威を感じる。
(思わしくない事態だ。明らかに以前のレオの動きを超越している。この急激な変化は危険だ。その根源はあの男にあると見た。ならその根源を先に断つのみ)
「皆の者、そこに横たわっている男を早く殺せ!」
「やめろ!」
レオの体は震えていた。
(先程の変化はまぐれか…)
ワレスが少し安堵する。
レオは凡太の下へ駆け出すが、騎士が3人集まり剣を振り下ろしている際中だ。
(間に合いっこない!)
レオが諦めかけたその時、凡太の微々たる肉体強化魔法の感覚が伝わる。
「そうだった…」
なぜかレオが足を止める。
しかし、振り下ろされた剣は止まることなくその勢いのまま、
ゴカッ
“太木”に下ろされる。
「またか…どこへ行った!」
辺りを見渡すワレスと騎士達。
そしてレオを見つけた。
場所は北に50m離れた場所だった。
「一瞬であんなに遠くへ…ということはこの変化、まぐれではないな」
再び脅威を感じる。
その脅威がこちらに向かって歩いてくる。
「は…ははは、だがお前はまだトラウマを克服できていないはずだ。残念ながら勝つのは私だよ。お前より私は強いのだ!」
現実から目を背けるように自分を鼓舞する。
そんな兄の姿を見て脅威がしゃべり始める。
「そうだ。僕は兄上よりも弱い。トラウマも克服できないし、一生弱いままだ」
「分かっているじゃないか。ならば今すぐ死ね!」
レオの前に高速移動し剣を振り下ろす。
が、またかわされる。
今度は西に10m離れたところまで瞬間移動していた。
「こ…こんなことがありえるか?あってはならない!兄が弟に劣ることなど」
「どっちでもいいじゃないですか。劣っていようが優れていようが。僕の最も信頼する人が弱かろうが強かろうが良いと言ってくれました。そしてこんなに弱い僕のことを勇者だと言ってくれました」
「…まずい!早くあの男を殺すのだ!」
嫌な空気を察し、焦って指示を出す。
指示を聞き、再び凡太の抹殺に向かう騎士達。
「僕は自分を信頼できない。でも彼の言う事は信頼できる。だから――」
ピピピ… レオのスキルボードに変化が。
凡太に再び剣が振り下ろされる。
「僕が勇者だ」
システム音声『上位スキル発現“勇者覚醒”起動します』
シュッ!
剣を振り下ろした騎士3人が気絶し倒れていた。
峰内をくらったようだ。
レオが剣を片手に持ち、倒れた騎士達の近くに立っていた。
最弱の強化魔法。
ほとんど効力のない無意味な魔法。
しかし、それがきっかけとなり、ある者を勇者に覚醒させた。
ある者にとっては、
無意味が有意味に。
最弱が最強に。
最弱の強化魔法は最強の強化魔法へと昇華した。




