第54話 レオの過去
手紙の内容は以下の通り。
『ユーシア・レオヘ アイの身は預かった。安全を願うなら、明日お前とタイラ・ボンタの二人でフレイフ王国へ来い。他の誰にも助力を求めることは許さん。求めた場合は、分かっているな?では、会えることを楽しみにして待っている』
いつもなら目覚めてくる時間になってもアイが部屋から出てこず、中に入ってみるとこの手紙があった。
現在レオの家でレオに呼び出された凡太が会話中。
「ごめんな。フレイフ王国からの帰りに後をつけられていたのだと思う。レオ達が警戒していたのを知っていたのに面目ない…」
「ボンタは悪くないよ。はっきりと伝えなかったこっちにも責任があるし。それよりどうやったらアイを取り戻せるか考えよう」
「そうだな。切り替えていこう。ところで手紙の差出人に心当たりはあるの?」
「ああ。僕の兄のワレスだと思う。兄上は昔、アイのことを許嫁にしようとしていたくらいだから間違いないと思う」
「こんな時に申し訳ないが、そのワレスの情報がほしい。苦痛になるかもしれないがレオの過去について話してもらえないか?」
王国からわざわざこの村に移民してきたということは王国を離れなければならない深刻な理由があったからであろう。
レオが静かに口を開く。
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ユーシア家はフレイフ王国を収める王族である。
血筋では稀に上位スキル“勇者覚醒”を発現させる者がいたが、現在はいない。
王国の人口は5000人ほど。
商店を中心に新製品の開発が盛んになることで他国との貿易が盛んになり、国の経済は潤っていた。
長男のワレスが生まれた3年後にレオが生まれた。
ワレスは長男としての責任感が強く、レオの面倒を進んでみるようになった。
レオはそんな兄を尊敬していた。
この頃は2人とも仲が良かった。
レオが生まれて10年経った頃、王である父の親友が他界した。
彼の残した遺言で娘を引き取ってくれるようお願いされていたので養子として受け入れた。
その娘がアイである。
アイはレオの方に良く懐いた。
レオが元々他人に対して変な壁をつくらない話しかけやすい雰囲気をしていたことや優しい風貌をしていたことがその要因だろう。
ワレスはそんなレオとアイの仲の良さを微笑ましく見守っていた。
レオが12歳になった頃から、持ち前の頭の回転の速さと高い成長性により、急激に能力が向上していく。
この時に新しいレオ専属のメガネをかけた男講師が雇われた。
ここからワレスとの力の差も徐々に縮まり始める。
ワレスにとってこの状況は面白くないものだった。
強い責任感が良くない方向へ。
兄の立場を守る為にあらゆる手段を使って、レオに対してわざと実力差を見せつけるような対応を取った。
例えば1対1の木剣を使った模擬戦では、レオが降参しているにも関わらず、あちこちが腫れものや傷だらけになるまでたたき続けた。
また、体力訓練時で城の内周を重りをつけて走る際、自身の重りを軽いにもかかわらず重いものであるかのように偽装し、レオに対して圧倒的な体力の差をみせつけ罵り、罰として立てなくなるまで走り続けさせた。
このような兄による飴と鞭の鞭のみの調教が何年も続くことでレオは兄に対して恐怖と強い劣等感を抱くようになり逆らえなくなった。
これこそワレスが兄の立場を守る為に練ったトラウマ植え付け策である。
これで優秀な弟のすべてを支配できると優越感に浸っているところに、いつもようにアイがレオを慕って笑顔で話しかける。
負の感情に支配されていたワレスはこの事に対して怒りを覚えるようになった。
レオからすべてを奪ってやりたい。
その気持ちが言葉となって具現化したものがアイを許嫁にするという発言である。
アイはレオ思いだった為に、兄がこれ以上傷つかなくても済むならと承認する意思をみせていた。
レオにとってこれは最悪の展開だ。
自分の大切な妹が特に好きでもない相手と結婚させられた上に、それがこんな弱い兄を守る為だなんて。
なんとかしようと打開策を考えるが、一向に思い浮かばない。
ワレスはレオに対して卑怯な手段を用いていたものの、それはレオに対してだけで表面の内政や外交などは持ち前の責任感から見事にこなしており、次の王としての礎を着々と築きあげていた。故にワレスに対しては誰も注意ができないのだ。
そんな中、レオの父がレオ達に助け船を出す。
持ち出してもばれない程度の金貨を用意し、城から抜け出す裏道を教え、失踪計画を練ってくれていたのだ。
失踪決行日は父がわざと外交パーティーを城で開き、城の大部分の兵力をそちら側の護衛に集中させることで失踪の際に弊害となる監視兵を可能な限り減らしてくれた。
このお膳立てにより、アイとの王国失踪計画は無事成功した。
そのまま町や村を転々とし、逃亡資金がなくなりかけて困り果てていた。
そんなところに現れたのがバンガルである。
こうして二人はバンガル村に移住することとなった。
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(王族だったのか。これでさらに主人公ポジションが地固めされた)
「トラウマの元凶が相手…。向こうが前回のアークみたいに大勢の人を苦しめているわけじゃなくてレオだけだからこそやり辛いなぁ」
「絶対的な悪じゃないだけにね…」
「まぁアイの命は保証される確率は高いだろう。最悪な状況ではないし、時間に有余はありそうだ。それはそうと、レオ専属の講師ってまだ王国にいるの?」
「いると思うよ。僕がまだ居た頃は僕の能力を大幅に向上させたことを評価され国の特別教育長に任命されていたよ。彼がどうかしたの?」
「レオの能力飛躍的に向上させた実力のある人物だからさぞかし良い地位につくだろうと予測していただけ。予想が当たってちょっとびっくりしたよ」
「ふーん」
「打開策の案が浮かばないからその辺を歩き回って来るよ」
「うん。いってらっしゃい」
こうしてレオの家を後にした。
すぐに人目のなさそうな物陰に移動する。
そして、自分があとをつけられていた失態に対し再度全力で落ち込む。
(今回の事の発端は俺。すべて俺の責任だ。俺の軽率な行動で迷惑を一杯かけてしまっている)
珍しく落ち込み、沈みまくる無能男。
いつもなら前進し出すところだが、今は停止中。
たまにはこんな時もあるだろう。
一人じゃどうにもならない時こそ誰かの助力が必要だ。




