第53話 兄妹ルート
アルバートが村に来てから1カ月経過。
時刻は10時頃。
今日もガンバール村は平和だ。
その証拠におっさんと美女が手を繋いで仲良く歩いている。
何やら不自然な要素が混じっているので今日はそれに注目していこう。
サムウライ村での修行を終えた辺りからアイの様子がさらにおかしくなった。
よく手を繋いでくるようになったのだ。
始まりは「私の手、好きなんでしょ」という一言からだ。
手が好きなのは認めるとして、それがどうなったらおっさんと手を繋ぐという発想になるのだろうか。
まさか今の若者の中では嫌いな相手に対してこういうスキンシップを取ることが通常とされているのか?
だとしたら相当の苦行を己に強いることになるぞ。
誰だ、最近の若者は根性がなくてだらしないと言っているのは。
全くの真逆ではないか。
凡太がいつもの被害妄想をして現実逃避をしていたところにアイの手の感触が伝わり現実に戻ってくる。
「まぁアイの手が好きなのは事実なんだよなぁ」
結論のように言ったところで返答される。
「私もあんたの手好きよ、でこぼこしてなくて」
そう言って手の感触を確かめてくる
(マメの少なさのことを言っているな。つまり努力不足を指摘してのことだろう)
「もっと嫌われるように努力します」
「…?」
なぜかキョトンとなるアイだったが手は握ったままだった。
自分が気になっている女性が、他の男よりも自分に対してボディタッチの頻度が多いと感じたら、ちょろい男ならこれで脈ありと勘違いするだろう。
だが安心してほしい。
俺はちょろくないし、脈が生まれることは一生ないと思っているから絶対に大丈夫だ。
だってそうだろ?
おっさんと美女がどこをどうしたら釣り合う関係になれるのだ?
1対99くらい相手が譲歩しないといけない苦行だろ。
政略結婚や許嫁のような誰かが決めた状況下でないと生まれない関係だろう。
この子にふさわしい良い男が必要だ。
例えばレオのような男なら大歓迎だ。
容姿、頭脳、強さ、優しさ、度量など良い男に必要な要素をすべて持っている。
互いに信頼し尊敬し合える関係なのもポイントが高い。
でも近親相関はまずいしなぁ…
地道にアイの周りで候補となりそうな人間を分析していくか。
その為に過去の交流関係を知りたい。
凡太はアイの幼少期の頃から遡ることでふさわしい相手をあぶり出す作戦に出る。
「幼少期ってどんな感じの女の子だったの?ずっとレオと一緒に遊んでいたとか?」
「私実は養子で、兄さんと会ったのは8歳頃なの」
兄妹ルート来たー!
これは結ばれるしかあるまい。
というか結ばれる運命だ。
命をかけてその恋を成功させてやろうじゃないか。
ほぼ確定ルートに入っていてほとんどすることがないし逆に暇なのだけどね。
しかし、今まで何故恋が発展しなかったのだろうか。
アイが奥手だったから?
それでも今は大丈夫なはずだ。
なぜなら、こんなどうでもいいおっさんとも我慢して楽しそうに接してくれる行動力を持っているのだから。
勝ち確定だ。
レオとアイの幸せな姿が目に浮かぶぜ、ククク…
「さっきから何でニヤついているの?キモいんだけど」
「いや、ちょっと未来のことを想像していてな。将来アイの隣にいるであろう男の幸せな姿をね…」
「…」
アイが黙った。
顔を赤くしている。
(ひょっとしてお兄さんとのラブラブな姿を想像していたのかな?そういうところが初心で可愛いよね)
ニヤニヤを続ける激キモおっさんと赤面を続ける美女。
そんな奇妙な状況下でも二人の手は繋がれたままだった。
夕食後二人で広場から少し離れた静かなところを雑談しながら散歩する。
話題はライトノベルのモテモテ主人公についてだ。
「女の子って強くて優しくて自分を守ってくれる男に惚れるものでしょ。助けて貰ったら喜んでくれるし」
「違うわよ。それだと与えてもらっているばかりでその女の子にストレスがたまる一方じゃない」
「でも女の子自身は気にしない様子でその主人公と一緒にいるよ」
「よくその状況下で一緒にいようと思えるわね。この人といれば安泰っていう玉の輿狙いなのかな?だとするとその主人公が急に弱くなったりしたら、申し訳程度に恩を返してすぐに離れていくと思うわ」
「そんなもんですかねぇ。折角優しく気を遣われていたのにもかかわらず?」
「優しくするのは基本動作よ。誰だって人に嫌われたくないし、好かれたいと思うものでしょ。自分の評価を守る為に人に優しくするのよ」
「確かに…」
「あと厳しい戦いの最中に全部自分に任せろと言って勝手に一人で背負う話はひどいと思ったわ。それって女の子の力を信頼していない証拠でしょ。結局自分のことしか考えていないのよ」
「アイは意外と人をよく見ているね」
「意外とは余計よ。でもこれに関してあんたに褒められるのはちょっと嬉しいかも」
「いつもは嬉しくなかったんかい!」
ツッコミに笑うアイ。機嫌が良い。
少し嬉しいのは事実だったらしい。
「ラノベの主人公とは違い、俺はモテる心配ないし全然問題ないな。アイからすれば顔面不審者で、弱くて、キモくて、自己満足で人助けてる自己中野郎だし。自分で言っていて辛くなってきた…」
男の様子を見て微笑みながら思考する。
(弱いからこそ良いのよ。お互いの力を補い合う授与享受の関係が一番やりやすい。対等な関係だから相手のしてほしいことが沢山選択できるし、次に何をしてあげようかって考えるだけでうれしくなって、もっと一緒にいたくなる。人助けは他人が何を欲しているかをつねに考えていないとできない広く鋭い観察眼が必要な難しい事。人助けは誰よりも他人の為になろうとしている本当に優しい人じゃないとできない。そして助けてもらおうと恥をしのんで行動することは本当に人を信頼していないとできない。これらの裏モテ要素を揃えた人物はどこの誰でしょうねぇ…)
アイが真犯人を追い詰めるような目でその人物の顔を見る。
「何が問題なしよ。問題大有りじゃない」
その人物の鈍感振りによってアイの苦悩が増す。
次の日の朝、その立場が一転する出来事が起こる。
アイの姿が急に消えたのだ。
手紙を残して。
この手紙の内容により凡太の苦悩が最高潮に達することとなる。




