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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第1章 ガンバール村救済編
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第5話 高難度縛りプレイ

 昼食を済ませ、村の戦力確認に向かう。


有力人材を村人達に聞いて回っていると、どの人もバンガル、ゼノン、ゲール、レオ、アイの5名の名をあげた。凡太はまだ会ったことのないレオとアイに会いに行くことにした。


 二人はよく広場の隅の方で剣術練習をしているとの事。広場へ来てみると、チャンバラガチ勢のように激しく剣をつば競り合っている二人がいた。おそらく彼らが例の有力者だろう。

 近づき、挨拶を試みるも全く入っていく隙がない。2人はこちらに気づいてもいない。凄い集中力だと、感心しつつ10分ほど眺めていると、キンキン音が聞こえなくなり、二人と目が合った。

 

「こんにちは。昨日この村に来させていただいた転移者のタイラ・ボンタと申します。現在、村の戦力調査や防衛対策の立案を行っています。よろしければ、意見交換のご協力をお願いしてもいいでしょうか?」


二人は目をぱちくりして苦笑いしながら話し始めた。


「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。俺達そんな偉くもないですし、僕も妹もバンガルさんに助けられてこの村に来たので、タイラさんと同じ立場ですよ。丁度修練も一段落したので休憩もかねて喜んで協力しますよ。僕はユーシア・レオ。畏まるのは嫌いなんでレオと呼んでください、よろしくお願いします」


握手を交わす。手の皮膚は分厚く、切り傷がある。相当剣を振るって来たことが分かった。


(なるほど、これなら有力者と呼ばれるのも納得だ。真面目で努力家でイケメン好青年とかいよいよ主人公枠の登場だな。レオ君と呼ぼう)


身長は175㎝ほどで体格は標準。茶髪で短髪。歳は20歳前半くらい。


「兄さんがよいのであれば私も大丈夫です。私はユーシア・アイ。呼び方はアイでいいです。よろしくお願いします」


 握手する。挨拶の声のトーンから自信なさげな大人しい印象をもった。黒髪ショートのかわいい系の女性。身長は凡太と同じくらいで体格は標準。歳は十代後半くらい。


(おっさんのちゃん付けはキモイし、アイさんと呼ぼう)


 そんなかわいい風貌にも関わらず、アイの手にはマメがいくつかつぶれた跡があった。それに手の切り傷が兄よりも多い。兄のように努力量と技術習得が均等に成されるなら、傷やマメは少なくて済むが、努力量は多いのに技術習得が遅れるとこのような結果になる。


(なるほど、この子は強いな。定期的に達成感を味わえるからこそ努力は継続できる。しかし、その逆で何も達成感を味わえない状態が続いたらどうだろうか? それでも努力を続けられるだろうか? 答えはノーだ。こんなの負けが確定しているのに何度も戦って負けるようなものだ。その状況で続けられるという事は強くなりたい一心なのだろう。……かっこいいじゃないか。できれば力になってあげたいが、こんな無能で無価値なおっさんに何ができるだろうか? まぁ自己嫌悪はここまでにしておいて、そろそろ本題に入ろう)


「二人の実力でサムウライの人にどれくらい対抗できそうですか?」

「うーん。おそらく2人を足止めするだけで精一杯だと思います」

「アイさんは?」

「私は兄さんと違い弱いので、よくて1人10分くらいが限度かと」

「素晴らしい! お二人とも強いじゃないですか」


二人が急にテンションが上がったおっさんに引いたのを確認したが、それでも興奮は収まらなかった。正直かなりの実力差があって、漫画の主人公強さアピールシーンで瞬殺される集団のように開始1秒で全滅すると思っていた。この実力差の縮まりによって、こちらも時間を稼いでいる内に攻撃の妨害や弱体化などの補助ができる。戦略幅が一気に広がったのだ。


「取り乱してすみませんでした。失礼ながら瞬殺されると思っていたものでして。お二人の話を聞き、時間を稼げると知った今、戦略を練れる事がうれしくなって興奮していた次第です」

「そ、そうですか」


引き反応は継続中。


「それで次の質問なのですが、防衛対策について何か良い考えはありませんか?」

「すみません。そちらの方は全く考えていませんでした。もともと戦略を練ったり、防衛装置を作ったりといったことが私達はどちらも苦手で。ただ、身体能力や魔力はあったのでそっちの方面で活躍できればと毎日剣術の訓練をやっています」

「なるほど、そうでしたか。今回は貴重な訓練の時間をさいて質問に協力していただきありがとうございました。勝手ですが、また聞き込みに戻ります」

「分かりました。こちらも話ができてよかったです。それではまた」


お互い手を振り別れた。

 


~~~


 聞き込みを続けているとスグニをみつけたので話しかけた。


「逃走訓練の進み具合はどうですか?」

「ボチボチだ」


そそくさとどこかに行ってしまいそうだったので、服を引っ張り止める。


「なんだ?」

「もう少し話しませんか? 訓練内容についてとか」

「ちっ」

(舌打ち?もう嫌だ、この人)


「貴様は会った当初から無防備過ぎて気にくわん」

「無防備というと?」


そう言うと、凡太に手をかざして何か魔法をかけた。


 次の瞬間、凡太の目の前に透明な四角いボードが現れた。スキルが表示されている。1つは“翻訳能力(1国分のみ)・済”。なにやらスキルがもう一つある。選んだ覚えのないそれは上位スキル“身体能力・魔力量10倍強化 100万年待ち”だった。


(何してんの神様!? 凡ミスなの? 凡ミスをミスミス見逃すミスを犯したの? ……これは予想外だ。そもそも上位スキルは神様に評価された人間の頂点に立つような偉業を成した人しか習得できないルールじゃなかったのか? それをなぜか何も成してない無価値な俺が持っている。ともかく上位スキルが習得されていることは事実。これにより待ち時間中、神様の上位スキル準備に処理負荷がかかることも事実。そして、神様に生き返らせてもらった恩、バンガルさんに助けてもらった恩があることも事実。処理負荷の件は、早急に負荷がかからないようにしなければならない。そして各恩人に恩を返さなければならない)


 これらの情報から導き出した答えは“恩を返しつつ、死んでも仕方のないような状況を作り出し、できるだけ早く死ぬ”であった。死んでも仕方のない状況というのは、優良な人が命を狙われるような攻撃をうけた時、身代わりとなって自分が死ぬ事。味方を逃がす為、自分が囮となって敵をひきつけ死ぬことなどが例として挙げられる。とりあえず、神様達があとで見て納得のいくような死に方をしなくてはならない。だから、くだらない理由で勝手に死んではいけないという条件も追加される。ともかくRPGの装備品なし、レベル上げなし並みの高難度縛りプレイが今始まったのだ。


 凡太の行き過ぎた縛りプレイ妄想は一端置いておき、スグニの話に戻る。


「スキルを習得できる者は少ない。さらにスキルの効力は強力なものも多く、魔法ではない為、無効化できない。よって、スキル自体が奥の手になることから隠蔽しておくことが基本だ」


 自身のスキルボードを凡太に見せてくれたが、文字が見えない。魔法によって見えなくしているようだった。


「先程のように貴様のスキルを無理矢理公開させる魔法。公開はさせないが、スキルボードをのぞき込む魔法もある。まぁこれは俺達の場合だと無効化されるが、貴様は別だ」


どうやら昨日の魔力無効化が使えない話は、バンガルが既に広めてくれたらしい。


(村って怖いね)


「まぁこれを機に自身の警戒に気を配るべきだな、上位スキル所持者様」


 ニタリと嫌味たっぷりのイラつく表情で、どこかへ行ってしまった。


(皮肉たっぷりの捨て台詞腹立つー! あいつ、絶対友達いないよ。性格超悪いよ)


気が付けば辺りは凡太一人で、愚痴を聞いてくれる人は一人もいなかった。


(そうだ。俺も友達いないや)


哀れな気持ちと敗北感に押しつぶされつつ、次の聞き込みに向かう。



~~~


 村の北の方でアンが防壁を組み立てているのが見えた。既に村の北側を覆うように5mほどの壁ができていた。さすが仕事人である。

俺が防壁を組み立てる様子を見ていると、それに気づいたアンさんが声をかけてきた。


「何か用か、小僧」

「防壁づくりの進行状況を見に来ました。いやーそれにしても魔法って便利ですね」


物体浮遊させる魔法で資材を動かしの積み木のように積んでいく。非常にスムーズだ。


「これくらい、普通なんじゃがの」


そう言って資材がひょいひょいとさらに積み重なっていく。


「こういう魔法はどうやって使えるようになったんですか?」

「イメージじゃよ。例えば、炎を出す魔法を習得したいならより強くイメージする為に炎を一日中みたり、少しだけ触って熱を感じたりしながらイメージを強固なものにしていく。そしてイメージが強固になったと思ったとき、今度はイメージしながら魔力を放出させる。これが難しい。2つのことを同時にするわけだから片方が雑な状態では炎の発現はできない。じゃからこそ、わざわざイメージする必要がないようにイメージを日常化して簡単に取り出せるような形にしておく必要がある。あとは、どれだけそれに興味があるかが重要じゃ。それにより、習得のしやすさが違ってくる」

「ということは、向き不向きはあるけど、誰でも全魔法を習得できるって事ですね」

「そうじゃ。まぁ残念ながら小僧には無理じゃがの」


それもそうだ。そもそも魔力がなければ何もできない。


「あと魔法で厄介なのは脳の疲れじゃ。魔法は体力こそ消費しないが、先ほど言った通り脳でのイメージに重点をおいているからそれで脳を酷使してしまっているのが原因かの。ちなみに魔力量は魔力を限界まで使うと徐々に増えていく。増えると言えば、魔法名をわざわざ口で言うことによって魔法の威力・効力が少し上がるようになっておる。声に出すことでイメージがより強固になるからじゃ」


(つまり筋持久トレで体力量、脳トレで魔力量があがるってことか。修行し甲斐があって楽しそうだな。魔力がないことが本当に残念だ)



~~~



夜。コトナの様子を見に行った。会議の時使ったテントの中で事務作業をしている。


「お疲れ様です。今朝はありがとうございました。これ差し入れです、よかったら食べてください」

「ありがとうございます」


 コトナの声には覇気がなかった。見ると、後ろにはまだ書類の山が。

 凡太は邪魔になっていることに気づき、別れの挨拶を言ってそそくさと退場した。

 事務仕事もできれば手伝いたかったが、この村の仕様もわからないのにでしゃばっても余計足を引っ張るだけだ。もっともな言い訳をみつけて安堵に走った自分の弱さを恥じつつ、寝床に着いた。



~~~



神役所・休憩室。


凡太が上位スキルに気づいた時のシーンを観覧中。


「ははは!」


いつもの二人の神が爆笑している。


「どこをどう考えたら、“できるだけ早く死ぬ”って発想になるんだよ」

「全くです。勝手に妄想膨らませすぎでしょ。あと、スキルの待ち時間について凄い勘違いをしているみたいですね」

「そうだな。まず、上位スキルの待ち時間の長さはその人間が努力したらこれくらいかかるという目安を表したものだ。だから持っていること自体は全然問題ないんだよ、元々努力で習得できるはずのものだから。下位スキルは翻訳機など既に彼らの世界にある技術の代用で実現されているものになっている。だからスキルの処理に対し、我々にはほとんど負荷がかかっていない。奴がいらぬ気遣いで勝手に勘違いをしただけだ」

「前回は自分を助けた気遣いが今回は自分に牙をむいたって感じですね。それにしても、彼は自分を追い込むのがうまいですね。自縄自縛のプロですよ」

「そうだな。いよいよ俺達にも理解不能な域まで達している。この点においてだけ、奴は神を超えているかもしれんな」

「そうですね。ともかく選択肢が狭まる中で彼がどう行動していくか。今後の期待が膨らむばかりです」


こうして凡太の活躍は休憩室の唯一の娯楽として昇華されたのであった。

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