第49話 免許皆伝
サムウライでの修行200日目。
凡太は的当て修行の最中だ。
ちなみに素早さレベル5(最上限)だ。
「左、右上、左下、背後、真上…パターンGだな。とすると次の左下のあと右上だから…」
凡太の読み通り見事に右拳による打撃が当たる。
「よし、成功。次が上、下、左、真下…パターンDなら次の右のあと…」
続けて左蹴りも見事に当たる。
そしてそのままテンポよく3、4,5発目の打撃を加え、10分で的当てをクリアした。
もしや凡太の身体能力が飛躍的に伸びて超人に進化したのだろうか?
残念ながらそれは違った。
なぜなら今も凡太の動体視力は少し向上したものの、的(球体)の動きをギリギリ目で追える程度で、打撃動作も相変わらず球体の方が圧倒的に速い。
それなのになぜ打撃をスムーズに当てられたのか。
答えは球体の動作システムにあった。
凡太は最初にこの修行を見た時からそれに目をつけ分析し、データを収集していた。その結果から、球体の動作は確かに不規則なのだが、ある動作工程の総称を1つのパターンとした時に工程上の動く位置や順番が一致することを発見した。
これに気づいてからはパターンの分析に力を入れた結果A~Jの10パターンを発見できた。ちなみに1パターンの動作工程は20回。1~20までの捜査が終わると同じパターンのまま1番目から動作がつながっていく。
パターンのリセットタイミングは1回攻撃を当てた時と起動時のみ。
よって、この動作工程とパターンさえ覚えていれば、予測が可能となり誰でもクリアできるということだ。
これはRPGのボスの攻撃パターンを把握し、それを踏まえてベストな回復タイミングや攻撃タイミングを決めて攻略する事と少し似ている。
「パターンが読めるなら攻略は楽勝だ」
「だがこんなに楽勝でいいのか?修行とはこの程度のものなのか?」
ここで修行のし過ぎで頭のいかれた男が何か思い悩んでいる。
まるで刺激が足りなくて飢えているドM変態野郎のようだ。
ピカーン
いつもの古臭い表現と共に閃く。
「思いついてしまった…絶対これきついだろうな。やりたくないなぁ…でも余裕あるのにやらないとモヤモヤするからなぁ…」
全力出切り病の重症患者であり、最後は出し切っていないといけないという強迫観念に動かされ嫌々ながらもそれを実行せざるを得ない状況になっていた。
「はぁ…やるしかないか。まずは相談だな」
渋々病の生んだ決定に従うようにムサシマルの所へ行った。
「…ということをやろうとしているのですけど、球体の改良は可能でしょうか?」
「可能だが、このような鬼畜難度の修行をよくぞ思いついたものよ」
「いえいえ、ムサシマル殿には及びませんよ」
「ところでこれをこうしたらどうだ?」
「はい。良いと思います。…ですが、これをここに持ってきた方が良いのでは…?」
「ふふふ、お主も悪よのぉ」
「ふふふ、ムサシマル殿こそ」
注:これは修行の改良の為の健全な話し合いです。決して悪巧みをする悪代官とその部下の構図ではありません。
凡太とムサシマルがあくまで健全な話し合いの結果生まれた鬼畜難度の的当てとは…
改良後の変更点はこちら。
的当て回数(回) 5 → 100
制限時間(分) 30 → 5
的の数(個) 1 → 2
素早さレベル最大値 5 → 100
痛覚を飛ばしてくる 独特な激痛 → 超エキサイティングな激痛
素晴らしく鬼畜な有様である。
1つ1つツッコミを入れていこう。
回数が100回に増えた。これはまだいい。次が問題だ。
なぜ回数が増えたのに制限時間が減っている。
しかも激減しとるやないかい!
的の数が2つ?意味が分からん。
そもそも1個でも相当てこずるのに何で増やした?
素早さ限界突破し過ぎ。明らかに桁数増やし過ぎだよね?
痛覚を飛ばしてくるって何?
的のくせに攻撃してくるとか、どっちが的当てされる側になるんだよ!
超エキサイティングな痛覚ってどんなのだよ!
どちらかというとショッキングの方がしっくりくるだろうが!
以上、ツッコミどころ満載の改良内容でした。
なお的の魔改造はサムウライ村の優秀なエンジニアチームにより、責任をもって実現化されるようだ。
さすがに色々とぶっ飛んでいる為、言い出しっぺの無能男で試して安全を確認してからレオ達へ提供する流れになった。
この3日後に試作品第一号ができ、早速無能が試してみたが1回目の挑戦の開始0.1秒で即瀕死。
以降も試作品がどんどん誕生し、現在は第67号。鬼畜難度の勢いは止まらず、無能は今日も即瀕死を続けている。
的当ての方はともかく、壁登りと悪環境素振りの方は全員順調にこなしていった。
壁当てはレオ、モーブが100㎏の重りを背負って往復に成功。
アイは60㎏、凡太は20㎏でそれぞれ成功。
悪環境素振りはレオ、アイ、モーブが30分間の耐久に成功。
凡太も30分間の耐久に成功した。しかし、ムサシマルと陰でコソコソと個別限界耐久をやっていたらしい。
おそらくこれ以上の耐久が可能になったかは分からないし、期待は…できるのか?
そして修行から1年が経過し、皆の疲労困憊した顔が見られなくなった頃。
「皆、よくぞ苦しい修行に耐えた。素晴らしかったぞ。私から教えられることはもうない。よってこれにて免許皆伝とする!」
笑顔で歓声をあげる修行者一同。
「だが、修行に終わりはない。むしろ始まったばかりかも知れぬ。今後も己の技に磨きをかけ、より高みを目指すのだ。それを続けることで新たな道がまた見つかるだろう。そうやってつねに己を戒め、道を歩み続けることこそが真の修行なのだ。皆の者、精進せよ!」
「はいっ!!」
過去一大きい返事をする一同。
「ところで師匠、“あれ”を3個に増やしたいのですがどうでしょうか?」
「それはかなりの鬼畜の所業となろう。ふふ…やはりお主は相当の悪よのぉ。そして私も同じ相当な悪故、そう来ると思って既に用意してある。後で取りに来るといい」
「さすがはムサシマル殿。私なんぞ及ばぬくらいの悪ですなぁ」
「お主こそ、しっかりと私の悪さについてきているではないか」
「ふふふ…それでもムサシマル殿には及びませんよ」
「ふふふ…謙遜しよって。本当は全て手中の内なのだろう?」
「ふふふ…それはどうでしょう?」
悪代官プレイからのふふふ合戦を始める二人。
その様子をみてアイが驚く。
「あの二人ってあんなに仲が良かったの?」
「そのようだね。何か通じ合っているみたいに会話しているし」
「あのように楽しく会話するムサシマル殿の姿は初めて見ました。まるで子供の頃に戻ったかのような無邪気さ。それを引き出したボンタ殿はやはり面白き者ですな」
「うーん。今は面白いというより不気味な感じがします。どう考えても悪戯を思いついた子供にしか見えないですし」
「まぁ二人とも楽しそうだしいいじゃないか」
今も健全な悪巧みを話続ける悪戯小僧二人を微笑ましく、少し呆れたように見守る大人達。
こうして、凡太達は免許皆伝。そして各々、新たな修行への道を歩み始めるのであった。




