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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第2章 サムウライ村救済編
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第47話 最後の修行種目

修行と聞いたときどういった場を思い浮かべるだろうか。


自分を鍛錬する場

自分を強くする場

自分を戒める場


誰でも”自分”を向上させるのに努めるだろう。


ところがあの無能は違う。


「あの溜めの動きのとき、右足の指関節を強化すれば、踏み込みがスムーズになり、もっと威力のある斬撃が出せるぞ」


他人への強化魔法を習得して以来、つねに他人のことを細かく分析し続けたことで、その人にとって最的な強化をできるようになっていた。

つまりこの男は修行の場で”他人”を向上させるのに努めていたのだ。


結果的に自身の能力は大して向上していないが、念願であった仲間を大幅に強くするという目標は叶った。

男はこの結果に満足していた。



修行をはじめ、半年が経過。

慣れにより疲労困憊の度合いも少なくなった頃に、皆が忘れかけていた最後の修行の種目が報告される。


「今から最後の修行種目、悪環境での素振りをやってもらう。付いてきてくれ」


ムサシマルに着いていく4人。


「素振りという項目がシンプルなだけに悪環境が怖すぎる。絶対何かあるな」

「同感ね。きっと素振りもできないような妨害をされるとか、毒状態で始めるとか過酷なものしか想像できないわ」

「まぁ行ってみれば分かるさ。誰だって最初は挑戦者。だから僕らは自分達のできることをすればいいだけだよ。こう考えると気楽だろ?」

「レオ君、そういうところだぞ」

「?」

レオの眩しすぎる一言を聞き、余計に不安になるネガティブ組の凡太とアイであった。


そうこうしている間に目的地に到着。

場所は凡太が奥義習得のときに使った道場だ。

道場中央で素振り用の木剣を持たされる4人。


「今から30分間ここで素振りを行ってもらう」


そう言って道場の出入口に向かうムサシマル。

そして、付近の壁にあるスイッチを押した。


すると急に息苦しくなった。

心拍数が上がり、呼吸も荒くなる。

乳酸が溜まって筋肉が痺れていく感じになる。

4人は何かに気づく。


この感覚を知っている。


これはタバタ式の7セット目以降の追い込み時の感覚とそっくりだ。


タバタ式は20秒の全力運動後、10秒の休息が許されるが、この修行には30分間休息がない。

90倍の1800秒間素振りをしながら耐え続けるという地獄へと進化している。


最初の一瞬こそは意表を突かれたがガンバール村での修行時に慣れ親しんだ感覚であった為、すぐに立て直しを図り素振り動作に入った。


「さて、いつまでもつかな」


道場から出て窓から中の様子を窺うムサシマル。

悪環境はこの道場に取り付けられた空間負荷発生装置によりつくりだされたものだった。

全力運動に近い状態の負荷を与え続けることで乳酸閾値を高め、全力運動時間の延長を図る。

負荷がレオ達に効いていることから動力源は魔法ではないらしい。



~10分後~


「初めての者であれば最初は5分が限界だというのになかなかやるではないか。これがボンタ殿の3カ月の修行の成果というやつか。なるほど、指導者としても優秀であったわけだな」


ムサシマルが感心しているとレオ、モーブの順にその場に倒れだす。

倒れたのを確認した救護班が中に入り、2人を担ぎ外へ運んで急いで回復魔法をかける。

2人ともぐったりとしており意識が切れかけている。酸欠状態のまま数分間耐えた人間がする反応そのものだ。


凡太とアイを残すのみとなった。

様子はどうだろうか。


「悪いけど俺あと1分はいけるよ?足ガタガタじゃん。もう諦めたら?」

「冗談言ってんじゃないわよ。私はまだ2分いけるわよ。そっちこそ顔色がさっきからずっと悪いわよ。無能は無能らしくとっとと諦めたら?」

「顔色悪いのはいつものこと。あと無能だから頭悪くて諦めるのに適切なタイミングが分からないんだよ。残念だったな」


無能的決め台詞をしっかりと決め、ドヤ顔になる凡太。


「その顔腹立つー外に出たら覚えてなさいよ」

「ごめん。頭悪くて多分覚えてないと思う」

「こいつ…じゃー中でやってやろうか?」

「ひっ!この状況での制裁は勘弁してくれ」


道場内では壮絶な状況下の中でもいつもの壮絶な言い争いが繰り広げられていた。


「こんな耐久の仕方は今まで見たことがない。あの言い争いがお互いを鼓舞する効果を持っておるのだろう。双方自覚しておるかは分からぬが見事な耐久策よ。これで10分はもたせた。いよいよ残り10分。見物だな」


道場内、アイのよろめき具合が大きくなる。

意識を失い始めているようだ。


「アイ、よく頑張ったな。偉いよ」

「急にキモいんだけど。…もうちょっと粘りたかったけどなぁ」


空前の灯のように呼吸に力がなくなるアイ。

いよいよ限界らしい。


「あんたは最後まで粘りなさいよ、一応私の師匠なんだから…。こんな時くらいカッコいいところ見せなさい」

「ビジュアル的にカッコいい所は無理だ。代わりに見苦しさ全開の醜い姿を披露してやるから安心しなさい」

「あんた…ら…しい…わね、そうい…う…」


気絶するアイ。

そして救護班によって退場していく。


残るは凡太一人。


ここでなぜ凡太やアイがタバタ式と同等の苦しみにこれほど耐えられたか考察してみよう。

まずタバタ式の場合、自発的に心拍数を最大限上げなくてはいけない為、脳につねに全力の指令を出し続けなくてはならない。つまり実際の全力運動と脳内での全力指令の2つで大量のエネルギー消費がされていることが考えられる。

ここで今回の修行に注目すると、道場の悪環境が脳内での全力指令を肩代わりするような役割になっている。つまり能動的だったものが受動的になったということだ。さらに、修行種目がただ素振りをするという条件になっているので、全力運動の必要はなく、体の力みが多少緩和されて無駄な力を出すことなく多少節約できたのではないだろうか。こうやって生まれた少しの余力により、長時間の耐久が可能になったことが考えられる。


なおかつ凡太の場合、特製加圧ベルトによる血流の向上や毛細血管の増強などがあった為、アイ達に比べ酸欠状態への耐性が強くなっていたことが考えられる。


または、人間の環境適応能力。凡太がこちらに来てから9カ月以上はたつ。その間に異世界の環境に適応して身体能力、気力も異世界側(天然チート)に寄ってきたことでさらに向上したことが考えられる。現に今の凡太の動きは現世の一般人のそれを超えた動きになっていた。


そして極めつけは凡太の行動習慣。彼は必ずといっていいほど自分の限界まで体を追い込もうとする(本人は嫌々だが)。極限状態に近いほどミトコンドリアが活性化し、エネルギー生産量が増え、持久力が格段に上がるのだ。


このように与えられた時間を目一杯使い、積み上げられるものを片つ端から積み上げ続けた人間は果たしてどんな結果を生むのだろうか。


その疑問の回答権を持つ男が今一人だけ道場に残っている。


答えはその男に聞いてみよう。



「辛いなぁ…しんどいし…早く倒れたいなぁ…」


「でもまだ立てるしなぁ…腕も動かせて剣も触れるしなぁ…」


「動けるなら…動かなきゃ…立てるなら…立たなきゃ…」


「少しでもできることがあるなら…前に進まなきゃ…」


あれ?周りが静かだ。

きっと気絶するんだろうな。

いつも通り情けない有様だ。

周りが真っ白になっていく。

視界が狭まる。

そろそろ倒れるな。

倒れた姿はさぞ見苦しく醜いのだろうな。


ということは――


最後の力を吐き切るように一言。


「有言実行になっちまったようだぜ…アイ…」

「ええ、全くよ」

「…?」


凡太が意識を取り戻すと隣にアイが居て体を支えてくれていた。

そして道場の空間負荷がいつの間にか解除されていた。


「どういうこと?」

「30分間耐えたのよ」

「え?嘘でしょ?」

「嘘じゃないわ。だってあなたの姿、今も最高に見苦しいもの…」

(悪口言っているのに泣いているし。どういう反応だよ)


入るタイミングを見計らったかのように道場内にゾロゾロと入ってくる一行。


「いやー見事であった、ボンタ殿。初挑戦で成功できたのはお主が初めてだ」

(この結果なら納得がいく。やはりあの体力測定結果は…まぁいずれ明確になることであろう)


「凄かったです。さすがの足掻きでしたよ」

「お前なら最後までやれて当然だろう。だからあまり驚かなかったぞ」

そう言って少し涙を浮かべる親友の顔を凡太は見逃さなかった。


こうして、最後の修行の初挑戦が終わった。



困難な試練において努力が報われる確率はどれくらいだろうか。

おそらく1%以下の低い確率だろう。

だから今回の凡太のように報われるケースは本当に稀だ。

次やったときは失敗し、また報われない結果になるかもしれない。

ただ、努力は成功しようが失敗しようが何度でもやっていいものだ。

だから、この稀なものも何度もやればいずれは掴むことができるだろう。


そう。


1%も可能性があるのだから。

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