第45話 奥義伝承
2日目の朝5時。
起床して大広間で顔を合わす4人。
会って早々、レオに昨日の件を問い質す凡太。
「なぜ昨日俺を見捨てた」
同情を誘う為、わざと泣き声で言う。
「見捨てたわけじゃないですよ。アイはともかくボンタさんにはもっとアイに好意をもってもらいたくて。これはその一環ですよ」
「そんなことで?好意ならとっくに持っているよ。いつも助けて貰っているし、こんなおっさんの話し相手にも嫌々ながら付き合ってもらっているし、感謝しっぱなしだよ」
「そういう事ではないんだよなぁ…」
小さく呟くようにレオが言う。もちろん凡太には聞こえていない。
そんなこんなで軽い朝食を食堂でとった後、訓練場に向かった。
ムサシマルやノーキンは既に来ており、素振りを行っていた。
アップのつもりだろうが、早すぎて素振りの動作が凡太にだけ見えなかった。
朝6時。
2日目の修行が始まる。
昨日の流れ通り、午前は垂直壁登りから。
もともととんでもない成長速度をもっていたレオとモーブは昨日より明らかに素早く登って行った。
「レオよ。もう少し指先だけ肉体強化するイメージでやってみろ。そうすることで魔力消費量を節約しつつ登れるから往復回数を増やせるぞ」
「なるほど、やってみます。モーブさんは足の踏ん張りがやや弱く、腕に負荷がかかり過ぎているような気がします。足の引っ掛ける感覚に気を付けてみてください」
「うむ、分かった」
互いに修正を加えながら切磋琢磨して確実に上達していく有能成長お化けの2人。
アイは若干で遅れてはいるものの確実に昨日よりは早く登れていた。
凡太はというと凡人なので1日ごときではコツが掴めず今日も悪戦苦闘していた。
「まだまだこんなもんじゃありますまい。もっと次への動作を早く!」
「はい、師匠!」
今日もムサシマルの個別しごきは続く。
午前の部はこれを筋力回復魔法と壁の修復魔法の時間を含めた5分休憩を何度か挟み、5時間後に終了。
昼食後、仮眠時間を入れて午後1時から午後の部が始まった。
昨日に引き続き、空中を動く球体への的当てだ。
ルールも昨日と変わらず、剣での斬撃かパンチや蹴りなどの打撃を制限時間30分以内に当てるものだ。30分以内に当てなければあの独特な嫌な痛覚を味わうことになる。
レオ達は斬空破を放てるので、衝撃破を当てるパターンも組み込んでいた。
「レオよ、目で追おうとするんじゃない。見るのではなく感じるのだ。球体の動こうとする気配をな」
そう言って見事に斬撃を当てるモーブ。
「見るのではなく感じる…そういうことか!」
続いてレオも斬撃を当てる。
「もうあの二人だけでいいんじゃないかな…」
圧倒的な差を感じひどく落ち込む凡太であったが、修行の手は緩めない、いや緩められない。
「まだまだ動きが鈍い!もっと早く反応するのだ」
「はい、師匠!」
そう、彼には鬼師匠がついているのだから。
アイもなんだかんだで昨日よりも多く制限時間内にクリアできていた。
夕方4時頃。
3人を残し、ムサシマルと凡太だけ奥義の練習の為、別の場所に移動する。
そして、100畳ほどある道場のような建物内に連れてこられた。
「では、奥義の伝承を始める」
「まず、見た方が早いから、技を見せるぞ」
そういうと正拳突きを放つ構えになるムサシマル。
腕を引き、そして放つ。
ブワッと右拳から野球ボールサイズの半透明な白い球体が一直線に飛び出し、壁に当たった。かなり速く、時速200㎞/hくらいの体感はあった。
「これが奥義”念動弾”だ」
これが対象に当たると対象の魔力量を減らせるらしい。減らせる量はこの技の威力に比例する。威力は使用者の魔力潜在量に比例する為、魔力潜在量のない凡太が使っても初期威力のままだ。つまりどれだけ鍛錬しようが威力1の状態は変わらないわけである。
なお、”念動弾”は物理技だが、使用の際に自身の魔力を多めに消費するといった特殊な条件になっている。そんなメリットよりデメリットの方が大きい技の為、この技を使うより肉体強化魔法や別の補助魔法の方に魔力を使った方が遥かに効率的だと誰もが思うだろう。
ここで問題が1つ。凡太は魔力がないのでこの技が使えないのだ。だが、安心してほしい。ムサシマルはとっくにそのことを知っていた。
知っていて奥義を伝承するということは…
「この奥義の為の補助的な技が存在する。名を”体魔変換”と呼ぶ。これを使えば己の体力を魔力に変換できるから奥義が使用できるようになるだろう」
「この展開、待っていました!」
喜ぶ凡太。
「ただし、変換時に体力を倍消費する。簡単に言うと魔力1をつくりだすのに体力2が必要となるということだ。あと魔力潜在量が上がるわけではないから念動弾の威力は上がらないので注意だ」
当然のことながら燃費の悪い技なので、覚えたとしても誰も使わないであろう技には違いないが、あの男にとっては違った。
「よっしゃー!これで、奥義だけではなく、魔法も使える見込みが出てきたわけだ。一気に選択肢が増えて楽しくなるなー」
「そういえばお主ならどのような魔法を最初に覚えようとするか興味があった。是非聞かせてくれぬか?」
「そんなもの他人の肉体強化魔法一択ですよ」
そうするのが当たり前で当然でしょという顔で凡太が答えた。
その様子をみて驚くムサシマルだったが、もう1つ疑問が浮かんだ為、すかさず質問する。
「” 一択“とは、他に魔法を覚えず、使用魔法はそれのみにするという意味か?」
「はい、そうです。私は魔力がないですから、他の魔法も覚えていてはただでさえ少ない脳のキャパを無駄に使ってしまいイメージ効率が悪くなって魔法の効力が減ってしまうと考えました。だから、一つだけにしておけば、効力も多少は上がるかなと思いまして」
「” 一択“の意味は分かったが、大本の理由がまだ分からぬ。なぜ”自分”ではなく”他人”の強化魔法なのだ?これでは自分は弱いままだし、他人をいちいち頼らなければ戦闘できない。それは無駄な労力ではないか?」
「ちっとも、無駄じゃないですよ。なぜなら私は誰よりも弱いからです。そんな私が自分を強化したところでなんの役にも立ちません。だけど他人の強化ならこんな非力な私の力でも、ほんのちょびっとだけ役に立つかもしれない。そう考えたのです」
「…なるほど、お主らしいな」
この後”体魔変換”の習得練習をするも、コツを掴めずにこの日は終了。
時刻は21時になっていた。
帰路中、奥義を編み出した先代の話題になった。
「この技を編み出した先代は強かったのですか?」
「うむ。私より遥かに強かったぞ。身体能力も魔力量も高かった」
「ムサシマルさんより強いって…凄すぎて想像がつきませんよ」
「だが、その強い先代でも奥義を完成させられなかったのだ」
「そんな強い人でも完成できないのなら私じゃ絶対無理そうですね」
「もし完成できなかった理由が強さにあるとするならば、より弱い者ならあるいは…いやこれについてはまだ憶測にすぎぬ故、また別の機会にでも話そう」
そう言って何かを言いかけたムサシマル。凡太は自分より頭の良いムサシマルが考えても分からないことを考えても無駄だと考え、それ以上聞き返すことはしなかった。
こうして、奥義伝承もあり内容の濃かった修行2日目も無事終了した。




