第44話 奥義習得試験
時刻は20時。
修行後のダウンが終わったところでムサシマルが話始める。
「今日はご苦労であった。最後に奥義習得の資格があるか試験を行いたい。少し時間はよいかな?」
「もちろんです、師匠!」
修行中、やたらとムサシマルにしごかれていた凡太はいつの間にか彼を”師匠”と呼ぶようになった。
各自”奥義”という響きを聞き、期待感を膨らませる。
そんな中、ムサシマルが試験を開始する。
「今から問題を出す。それに正解できれば奥義を伝承する。考える時間は30秒以内とする。なお、伝承するのは一人のみ。よって、最初に答えられた者にのみ伝承される」
(試験は実技じゃなかったのね。でもこれ絶対難問が出るパターンじゃん。しかも制限時間30秒とか、答えられるのレオ君かモーブくらいじゃね?伝承はそのどちらか1人からかな)
諦めモードの凡太を余所に問題が出題される。
「か弱き女性と少し怯んだ状態の屈強な男性が魔物に襲われようとしている。この状況下で自分ならどうする?条件として、どちらかを助ければ片方は死ぬものとする」
レオが考え込む。
(どちらかを助けている間に助けなかった方が魔物に殺されてしまうってことか。究極の2択だ。僕は両方助けたいけど、そういう意図の問題ではなさそうだし…駄目だ、答えられない…)
あの頭の回転の速いレオが答えをすぐに出せずに、頭を抱えている。
その様子をみたアイが回答にかなりの時間がかかることを予想した瞬間。
あの無能が即答する。
「簡単な問題で助かったぁ。こんなの100ⅿダッシュ練習を装い魔物に衝突して謝った後逃走する、の一択ですよ」
「何その回答?しかも当たり前のような顔しているけど、その回答内容全然当り前じゃないからね!」
アイの素早いツッコミが入る。
ムサシマルとノーキンは笑いを我慢している様子。
レオは5秒沈黙の後、何かを閃いた模様。
モーブは頻りに頷いていた。
「すまぬが、回答の意図を理解できなかった。それを説明してもらってもかまわぬか?」
「はい。この状況では屈強な男の怯み状態が回復するまで時間を稼げれば、か弱き女性を助けることができ、屈強な男が魔物を倒してくれて万事解決すると考えました。屈強な男と魔物の力の差も考慮していましたが、わざわざ”屈強”という条件を書き足していることから魔物に対して勝てる見込みがある力を持っていると判断しました」
「なるほど。少ない情報量でよくそこまで分析できた。しかし、それでは今度は自分が危険に晒されるのではないのかな?」
「あーそれはどうでもいい事です。それよりもワクワクしませんか?この後、私は魔物に殺された後、屈強な男が確実に魔物を仕留めてくれるでしょう。そして、か弱き女性は吊橋効果によって男に恋をし、そのまま結ばれハッピーエンド。無能な私でも最後は恋の橋渡し的な役割を持って死ねるのです。最高じゃないですか」
「ボンタさんらしいや」笑顔になるレオ。
「分かる、分かるぞ…」感動で震えるモーブ。
「そういうところよ…」ちょっと不機嫌だが、嬉しそうな表情をする複雑なアイ。
含み笑いをするムサシマルとノーキン。
落ち着いてからムサシマルが合否報告をする。
「なるほど、よくわかった。ではお主は合格――」
「よっしゃー不合格だー!」
「ん?」
「え?」
ムサシマルの合格発表と凡太のフライング不合格歓迎が交差し、互いに顔を見合わせる。
「今なんて言いましたか?」
「合格と言ったのだ」
「えー!あの回答に合格する要素なんてなかったはずだ。先代の人って相当頭おかしい人なんじゃないの?」
「ふふ、確かにおかしい人だったな。今のお主と同じようにな」
「俺と同じって…奥義の期待度が激減していくんですけど」
落胆する凡太を余所にムサシマルが続ける。
「もう時間も遅い。伝承は明日個別に行う」
「はい、楽しみにしています」
(社交辞令全開でございます)
「皆今日はご苦労であった。ではこれにて解散!」
「ありがとうございました!」
帰路。
ノーキンがムサシマルに質問する。
「あの問題の本当の答えはなんだったのですか?」
「実は私にも本当の答えは教えてもらえず、分からない状態だった。教えてもらったのは伝承に適性がある者の条件と不正解回答例だけでな。適正条件として、自分が弱いことを自覚している弱者ということを強調していた」
「そうでしたか…」
「先代はひねくれた人でな。実際私もボンタ殿の回答でようやく本当の答えを知れたのだ」
「ほぅ…」
ムサシマルは不正解回答例を説明する。
「どちらかを助ける、または2人とも助けるといった答えは不正解だ。これは自分が強いと自覚していたり、弱くても時間稼ぎくらいはできる力はあるとある程度自分の力に自信があるからこそできる回答だとみなされるからだ」
「本当に自分の弱さを自覚しているということは自分が時間稼ぎすらもできず、何もできない”無力さ”を知っているかにある。…まさにあの男の事ですな」
「うむ。そして何もしないと答えるのももちろん不正解だ。問題を解決できずに放置するという意味だからな。これらをまとめると複雑ではあるが、絶対に助けるといった自信を持った意思はなく、かといって何も行動しないのを辛く感じ、他人の為でなく自分の為に行動したついでで結果的に他人を助ける流れにするというのが正解になる」
「なるほど。行動理由は他人より自分の為で一見自己中心的なのに、本質は自身の安否より先に他人の安否のことを思いやれる者。こんなひねくれた者、そうそう現れるはずもない。それで今まで伝承に足り得る者は現れなかったわけですか」
「左様。故に今回初めて伝承することになる」
「やはり私の目に狂いはなかった。あの男はつまらぬ者を超え、面白き者へ進化したのです」
興奮するノーキンを親のように微笑ましく見守るムサシマル。
そして、それぞれ帰宅した。
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4人は借家に向かう。
それぞれ風呂に入った後、寝室へ。
寝室は2部屋。各寝室にはベッドが2つある。ベッド間は1.5mほど。
部屋割りは誰がどう考えても決まっているので、特に話すことなく各自自然な流れで寝室に荷物を運んだ…はずだった。
「なんであんたが私の部屋に来るのよ」
「レオ君に向こうの部屋に行ってくれって言われたからだよ。てかモーブは?」
「知らないわよ、とにかく兄さんを呼んできて」
「分かったよ」
そう言って隣の部屋の前に行く凡太。
「レオ君、アイが向こうの部屋にいるみたいだから悪いけど代わってくれないか?」
「すみません。もう寝る態勢に入ったのでもう起きられません。お休みなさい」
「そんな小学生のような言い訳でおっさんが納得すると思うの?代わってくれお願いだから」
返事がない。
「嘘、本当に寝たの?…こうなったら、モーブ!レオを起こして部屋の外に出してくれ!」
返事がない。
「何で無視するのさぁ。おーい」
その後、何度も呼びかけやノックをするも一向に返事がなかったので、渋々最初のアイのいる部屋に戻る。
「遅かったじゃない。で、兄さんはどこ?」
「もう寝ちゃったみたい。さてと…」
凡太は掛布団だけ持って出ていこうとする。
「ちょっと、どこへ行く気?」
「茂みが恋しくなってね。今日はそこで寝るつもりだ」
「何でよ」
「さすがにこんなおっさんと相部屋はまずいだろ」
「まぁ凄く不快だけど、あんたに気を遣われるのもムカつくから今回は特別に我慢してあげるわ」
「そのお心遣いに感謝致します。ではこのベッドを使わせていただきます」
「うむ。苦しゅうない」
そういって珍しく乗ってきたアイ。なぜか上機嫌な顔をしている。
(いつもだったらキモがられるのにどういう風の吹き回しだ?今までの行動内ではアイの機嫌がよくなる要素は1つもなかったはずだけど…うーん。分からん)
そうして空いている方のベッドに座る。
答えが永遠に出なさそうな疑問から逃げるようにアイに話しかけた。
「的当て修行のときにチラッと見ていたんだけど、前よりか斬撃を放ってからの戻りがスムーズになって格段に動くスピードが向上していたね。試合で何か掴んだの?」
「うん、まぁね。試合で追い詰められて絶体絶命の時あったでしょ?その時にある恩人の顔を見たら急にもっと頑張ろうと思ったの。それで力が湧いて今までにない思考と動作ができるようになったの。だから今はその感覚を自由に引き出せるように考えながら修行しているって感じね」
(恩人の顔を見たってことは闘技場内にいた人ってこと?レオ君はいなかったし。ああ、バンガルさんのことか。確かに俺もあの人の顔を見たら頑張ろうって思えるなぁ)
「次の段階へ動いているってわけだ。そういう少しずつでも進んでいく姿勢はかっこいいと思うよ」
「それに関してはあんたの方がかっこいいわよ」
小声でボソッとアイが呟く。
「ごめん、聞き取れなかった」
「なんでもないわ。…というか自分の修行に集中しなさいよ。あんたはいつも通り、足掻いているようだったけど、まだ余力がある感じだった。それで出し切れてないことにモヤモヤしてやけくそになっている感じだったし、あれじゃ駄目よ」
「面目ない…てか何でそのときの俺の行動から心境までをぴったり当ててくるの?あなたこそ修行に集中しなさいよ」
「集中しようとしていたら目に入ったんだから仕方がないじゃないのよ」
急にお姉口調になる凡太に少し笑いを堪えつつもその口調に対応した返答をするアイ。
これには凡太も少し笑う。
そんなこんなでこの後も10分ほどくだらない雑談をした後、凡太が就寝宣言する。
「さぁ明日もきついだろうしとっとと寝ようぜ」
「えーまだ話そうよ」
「さすがにもう体力の限界でして…」
「情けないわね。限界ごとき簡単に超えてみなさいよ」
「夜の疲れている時に奮起台詞は勘弁してくれ。てかレオ君とも毎晩これくらいしゃべってるんじゃないの?明日からはレオ君と好きなだけ話しなさい」
「いや、さすがに兄さんに疲労を溜めるのは申し訳ないから毎晩そんなにしゃべらないわ。あんただからこれだけしゃべれるのよ」
「レオ君、尊敬されてんなー。それに反し俺は全然尊敬されてないと。気を遣わなくていい軽い存在だということか。まぁ好きに利用するがいいさ…」
「そう落ち込まないの。一応褒めてるんだから。あとそれがあんたの取り柄でもあるでしょ」
「取り柄か…何か元気で出た。ありがとう」
「どういたしまして。…とりあえず、今日はこれで勘弁してあげるけど、明日はその分取り返すくらいしゃべるからね。じゃおやすみ」
「ああ…おやすみ」
まるで嵐だな。
就寝宣言後も怒涛のように話を引き延ばし続けるお互いの会話の勢いに思わずそう表現する。
でも正直意外だったのがレオ君とアイとの関係性だ。
もっと意思疎通を行って仲良くやっていると思っていたらそうでもないらしい。
やっぱり尊敬していて好きな人には奥手になるものなのだろうか。
その点、俺は問題ない。
尊敬は皆無。好意はないが、悪意はある。
アイの俺への評価はこんなところだろう。
そして、そんな価値のないところを知っているからこそ気兼ねなくしゃべってくれるのであろう。
その証拠にこんな変態が横にいても無防備な姿でもう寝てしまっている。
襲われたらどうすんだと考えたが、彼女の方が遥かに強いので襲われるとしたら俺の方だ。
襲う価値もないし、襲われる心配もないし、気を遣う価値もない。
だから安心して眠れるのであろう。
こうして、今夜の寝床を手に入れるに貢献した自分の無価値さに感謝をしつつ、眠りに入るのであった。




