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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第2章 サムウライ村救済編
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第43話 一日修行体験ツアー

朝8時。

ホスゲータに乗った凡太、アイ、レオ、モーブがサムウライ村に到着。

それをムサシマルとノーキンが出迎え、早速修行の場の訓練場に案内してくれた。


そんな案内中に事件は起こった。


凡太は安心していた。

凡太達が来てから、すれ違う村人達は愛想よく挨拶はしてくれるものの歓迎ムードではなかったからだ。もし凡太を英雄扱いしているのであればこの反応はしないはずだ。これはあの夜の凡太のすり替え魔法が成功していたことを意味する。


ニタリ


まるで悪役が悪巧みを成功させたかのような気味の悪い笑みを浮かべる。

そんな中、ムサシマルが凡太に話しかける。


「昨日は村で私の貢献を称える式典が開かれ、宴以上に盛り上がったよ」

「それはそうでしょう。ヤミモトさんはあれだけのことをなされた方なのですから」

「その通りだ。まぁタイラ殿も頑張ったが、所詮私の力無しでは無能同然であったからな。ちなみに私のことはムサシマルと呼んでもらっても構わぬぞ」

「ではムサシマルさんと呼びます。いやー誰もが感心するほどの無能ですからそう認識されておられるようで非常にうれしく思います。あ、私のことも呼び捨て(ボンタ)で構いません」


急に上機嫌になる凡太。それをみてムサシマルの意図を理解したノーキンが追撃を入れる。


「確かにあなたの今回の行動は他力本願一色で大変見苦しかった。まさにつまらぬ者でしたよ」

「いやー全くもってその通りです。他人の助けがないと生きていけない無価値なつまらぬ人間。それが私ですからね。良く分かっていらっしゃる」


おそらく上機嫌の絶頂間際にいる凡太。自己否定の饒舌振りがそれを物語る。

さすがにこれには少し申し訳なくなる2人。


何にせよ、これで準備は整った。

ムサシマルが誘導を開始する。


「そんなボンタ殿に一つ頼み事があるのだがよろしいかな?」

「構いませんよ?まぁこの無能にかかればどんな簡単な依頼も高難度依頼に早変わりですけどね、がはは!」

(少し乗せすぎたか。だが流れは良い。このまま自然にいかせてもらう)

「この村の村長になっていただきたい」

「了解です。まぁ泥船に乗った―――」


(承認確認。誘導成功だな) 

グッと拳を握るムサシマル。


「今、なんて言いましたか?」

「この村の村長になってほしいとお願いした。そして貴殿は承認した。もう逃れられぬぞ」

「え、そんな…噓でしょ」

(待て、落ち着くんだ。まだ終わってないはずだ。諦めなければ必ず道は開けるもの。考えるんだ。この状況を切り抜ける手段を。最後の最後まで足掻く。俺の生きた証を残すんだ。証…証拠?これだ!)


何かを閃いた凡太。

これより、大変見苦しい言いがかりタイムが始まる。


「…証拠は?」

「…ん?」

「証拠がないんですよ。私が本当に”承認した”という証拠が。あなたの聞き間違いだった可能性もありえる。そうでしょ?」

「馬鹿な、言いがかりだ!」 


ノーキンが思わず反応する。


「ええ、私は馬鹿です。ですからそんな馬鹿も黙らせるような絶対的な証拠を提示してくださいよ」


黙り込むムサシマルとノーキン。

蛇に睨まれた蛙のように追い詰められた表情をしている。


「あれれー?どうしましたー?もしかして証拠出せないんですかー?困ったなぁ、これじゃー承認は成立しないぞー」


この無能、煽りだけは断トツに上手い。

そんな中、ムサシマルが魔法を発動する。


スキルボードがスクリーンになったようなところに映像が流れている。

数分前の凡太とムサシマルの会話シーンだ。


『この村の村長になっていただきたい』

『了解です』


映像内の自分はしっかりと承認していた。

勝利を確信したムサシマルが止めの一言。


「まだ申し開きはおありかな?」

「いいえ…」


敗北を受け入れた無能はただ崩れ去るしかなかった。


こうして凡太の村長就任事件は終了した。



「では、村長に早速仕事を。村の運営について説明するので、今後どのように運営を行っていくか考え、村人達の前で説明してほしい」

(凄くめんどくさそうじゃないですか。自分より遥かに強い精鋭軍団をまとめるなんて無理だよぉ…そうだ、丸投げしよう!)

「村長権限により、ムサシマルさんを副村長とし、その副村長に村の運営をすべて任せるものとする。そしてこれ以降、私の権限はすべて副村長に移行する」

「それって今までと変わらないし、結局丸投げなんじゃ…」

「丸は投げてないですぅ~匙を投げただけですぅ~」

「一緒じゃん!」

「む…村長の命令であるならば仕方あるまい」

「相変わらず真面目ですね…」


こうして凡太とアイの流れるような漫才内でサムウライの村長権限は元に戻ったのであった。



~~~



宿泊場所は訓練場近くの2LDKの木造の家。

空いている為、修行期間中は自由に使っていいそうだ。

各自そこへ荷物を置き、動きやすい服装に着替え訓練場に向かう。

なお、修行中の食事は広場近くの食堂に行けば無料で提供してもらえるようになっており、風呂場も同様で好きに使っていいそうだ。


これからは修行の流れを実戦形式で説明してくれるらしい。

所謂、一日体験ツアーのようなものをする。


まず高さ300mほどの垂直な壁(材質はコンクリのようなもの)の前に連れていかれた。


ロッククライミングでもするのかと思いくぼみを探してみたが、くぼみは一つもなかった。

まさかと思い全体を見渡す。

そして絶望する。

どこの壁にもくぼみがないのだ。

くぼみなくただ垂直な壁が目の前に広がる。


嫌な予感がする。


そんな中、ムサシマルの説明が入る。


「今からこの壁の頂上まで行ってもらう。もちろん浮遊魔法は使用してはならぬ。これにより集中力、身体能力、気力の大幅上昇が見込める」


予感的中。なのでお馴染みの疑問をすぐに入れる。


「こんなのどう登れというのですか?」

「こうするのだ」


ムサシマルが壁の前に行く。

右手の指を壁に突き刺した。

そして右手の指の固定を利用し今度は左手の指をそれより上に突き刺す。

慣れた様子で刺しては抜きを繰り返し、登って行った。

他の指も刺す。


「こんなところだ、やってみるといい」

「できるかー!」

「できるはずだ。他の3人は既に登っておるぞ」

「え…?」


そう言って周りを見ると確かにレオ、アイ、モーブがぎこちないながらも、肉体強化魔法を指に使い登っている。もう10mくらいのところまで登っていた。


「これは初歩に過ぎん。本番は50㎏以上の重りをつけて制限時間内に登ってもらう」

「余計にできるか―!」

「そういえばお主は肉体強化魔法が使えなかったな。一応それを考慮し、特設壁を用意した」


そう言って少し離れた垂直壁に連れていかれる。

その壁には穴や掴み部分が設置されていてなんとか登れそうだった。


(わざわざ用意してくれたんだ。優しいな)

「ありがとうございます。これなら登れそうです」

「うむ。とにかく最初は頂上まで行くことを目標としてみよ。一応落下しても大丈夫なように衝撃吸収魔法を地面にかけてあるから死にはしないだろう」

「配慮ありがとうございます。頑張ります」


さっきまでツッコミを入れていた姿はどこへやら。

凡太は現実を受け入れ上を目指して登り始めた。

なお、頂上まで登った後の飛び降りは禁止。登ったときのくぼみを使うか、新たに作るかして降りてこなくてはならない。

そして、再び登るときはくぼみのないところを選んで登らなくてはいけない。

安全を考慮し、1回往復するごとに壁の修復チームが飛行魔法で飛行しながら壁に修復魔法をかけてもとのくぼみのない状態にする。


レオ達3人が地上から頂上への往復を10回以上する中、凡太は往復1回だけであった。


「握力がもうない…腕がパンパンだ。一応加圧ベルトを外していたが、つけていたら頂上にはたどり着けなかっただろうな」


初心者ロッククライミングあるあるだが、最初は足の使い方が下手で腕だけでの登りになりやすく、それにより全腕力がもっていかれる。その結果、30~60分くらいで握力がなくなり続行が不可能になる。今回凡太が2時間以上握力を持たせられたのは、アイとの修行時に重い剣を地道に振っていた時に握力をある程度向上できたのと加圧ベルトによる瞬発力・筋持久力の効率的上昇があったからである。


レオ達も凡太同様、疲労困憊の模様。

この後、回復魔法で筋力を回復させてもらい、午前の部は終了。

なお、回復魔法は重度の疲労回復には効果があるが、少しの疲労に対しては効果がないらしい。治療魔法に関しても同じで、重度の怪我や強い毒に対しては効果があるが、かすり傷や小さい打撲などの軽い怪我や小さい毒に対しては効果がない。アイの手のマメがずっと痛々しい状態なのもこの為だ。


昼食後、午後の部開始。

修行種目は的当て。

素早く不規則な動きをする16ポンドのボーリング球のような球体(的) に斬撃や打撃を当てるといったものだ。

なお、この球体には魔法は効かない。制限時間以内に5発当てなければ、罰として痛覚(小指をドアの角にぶつけたような痛み)を味わう機能がついている。

この修行により、動体視力や基本動作の速度上昇など実践向きの能力の大幅向上が見込めるそうだ。


最初は制限時間30分で球体の素早さレベルは5段階ある内のレベル1からスタートした。

なお、レオ達はレベル2でスタート。


球体が不規則な動き…というより常人には転々とワープしているようにしか見えない速さで動き回る。目で追うというより、追わされている感覚で、打撃を入れようとしても完全に後手に回らざるを得ない状況になる。


(いつものとんでもギャップパターンね。予想通り過ぎる展開だから逆に安心したよ。相変わらずまるでできる気がしないし、やる気皆無ですわ)

「ボンタ殿、最初はそれでも仕方がない。だが、手抜きはいかぬぞ」

「はい、もちろんですとも!」


いきなりの無理ゲーに絶望しながらも嫌々くらいつく凡太であった。


現実…異世界も甘くはない。ちょっと身体能力が高い一般人でも手も足も出ない差が存在する。しかもそれがレベル1だと知れば誰もが高い壁を感じ闘争心を失い努力を諦めるか、逆にそうでなくてはと思ったり、ワクワクするなど闘争心を得て努力を続けるという2種類の反応があることだろう。


(あーしんどい。こんなの絶対無理じゃん。できっこないじゃん。きついしすぐにでもやめたいよぉ…)


そんな最初から闘争心を失った男が何度も的当てに挑戦する。

できないこと、きついこと、失敗することは分かっていてもなお。

どんなに嫌でもとりあえず前に進めるなら進む。


これが3種類目の反応。


無能による変態前進反応である。



的当ての修行は夕方18時まで回復魔法を含めた3分休憩を5回挟みながら全員がやり切った。凡太は一度もクリアどころか当てることもできなかった為、独特な痛覚を何度も味わった。レオ、モーブは3回クリア、アイは1回クリアしていた。そして痛覚の方はやはり痛いとのことだ。


修行内容として、本来は壁登りと的当て以外にももう1つだけ種目があるそうだが、ある程度の結果を残せないと挑戦できないということで能力不足を改めて実感させられる4人。

そして、今日はまだ初日というのに全員疲労困憊の顔である。


ともあれ、体力の終了と共に修行体験ツアーも無事終了したのであった。

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