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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第1章 ガンバール村救済編
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第4話 斬空波対策

 転移二日目の朝。


今日はバンガルが忙しいということで、コトナと村を回ることになった。


「この村の現状を教えてほしいです」

「畏まりました。まず、ガンバール村の人口は30人。住民のほとんどが、村長がどこかから連れてきた移住者です。村では農作が盛んでムギコ、コンコン、サットウ、ダイズンなどが主な生産品です」


コトナが指さした先には、テニスコート並みの水田が何十個もあった。


それにしても、この村存続に関わる非常時だ。コトナも色々仕事をかかえていて絶えず、時間を気にしているようだった。


「あとは一人で調べるので大丈夫です。あり――」


彼女は、礼を言う間もなく急いで仕事に戻っていった。あの様子だと相当な量の仕事を抱えていたのだろう。後で差し入れを持って行ってもう一度お礼を言おう。


主要農作物の名前が気になったので現物をみせてもらった。俺のいた世界の農作物と名前・形が類似したので、用途は変わらない食べ物という認識でよさそうだ。周囲にはビニールハウスのような建築物は見当たらず、害虫・害獣対策もしている様子がなかった。対策のことを気にして農作物の周りをよく見ると薄い空気の膜で覆われていることが分かった。


「あーこれね。空気の壁をつくって害になるものを入れないようにしているんだよ」


 農作業中のおじさんが教えてくれた。


「空気の壁?」


 まさかと思い、バケツで水を汲んできてその壁にかけてみた。水はたちまち蒸発した。間違いない、真空の壁だ。真空状態では水の沸点が下がるため水は蒸発しやすくなると聞くが、これは一瞬で蒸発したので超高真空並みだ。もの凄い魔法である。と同時にゾッとした。もし、何の考えもなしにその壁に触れていたら、たちまち手の血液が気化し、毛穴から漏れ出していただろう。村の人が平気なのは、魔法無効化によって真空壁が触れる前に消えるためである。


ピカーン


古臭い表現と共に頭の中で一つの仮説が思い浮かんだ。早速実験してみたくなったので、仕事の空いている村人に集まってもらった。急遽の為、3人である。その村達に、真空壁を一か所に大量に作ってもらい、その隣にホゲ人形を置いた。そして、村人で斬空波が撃てる人にも来てもらい、50m離れたところからホゲ人形に向かって、斬空波を撃ってもらうように頼んだ。村人ギャラリーが集まる中、予想通りなら、ホゲ人形の悲痛な叫びを聞かなくて済むはず。


「お願いしまーす!」

「じゃ、いきますよー!」


 合図と同時に繰り出される、斬空波。音速越えのスピードの為、今回も目で全く捉えられなかった。


(人形は無事か?)


50m先をみると、そこには元気なホゲ人形の姿が。そして、斬空波の行方を示すように人形とミルフィーユ状真空壁の間にあった木が真っ二つに割れていた。


「おおー!軌道がずれたぞ。どんな魔法を使ったんだ」

「魔法ではなくて、私の世界の物理技ですよ」


そう言って村人達に、真空の吸圧特性について説明した。


「斬空波のような高い圧を持っているものは圧力の安定を求めて低い圧の方へ引き寄せられ、圧を均一にしようとします。大きなくくりでエントロピーの法則の1種とすることもできる…のかな?」

「どういうこと? 訳が分からん」


(俺は説明下手だからな。どうしよう。こうなりゃやけだ)


「斬空波くんは真空壁ちゃんのことが大好きで、見つけたらすぐに近づいてくるストーカーのようなものなんですよ」

「なんだ、そういうことか」


(嘘? 分かったの? 下手すればさっきより難解だよ?)


 別次元の村人の読解力の高さに驚かされつつも実験の続きに入る。

 今度は斬空波が外れた可能性も考慮し、真空壁をすべて消し、再度同じ実験を行った。


「グッフ!」


 重く鈍い悲痛な鳴き声だ。


(実験とはいえ、ごめんなホゲ人形。そして、ありがとうホゲ人形。お前のおかげで仮説は無事立証されたよ。それにしても、斬空波が当たったにも関わらず、しっかり原型をとどめているとはどんな強度の材料で作られているのだろうか。それにしっかり斬空波を当ててきたのも凄い。あんなに速い技でコントロールしにくくて的も小さいはずなのに。これは村人達が実は最強説もありうる)


 ともあれ、この仮説立証により、サムウライからの斬空波初撃サービスはなんとかなりそうだ。

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