第37話 孤毒な助っ人
森の中を逃走中のアーク。
かなり慌てている。
アークはノーキンの気絶を確認した後、自身に危機が迫っていると気づくや否や影武者と入れ替わった。自身は村人に変装し、逃走を試みたのであった
そしていつも通りの目的地である隠し洞窟に入っていく。
そこには無数の藁人形のようなものが並んでいて、人形の札にはサムウライの村人の個人名が書かれていた。
「なんたる失態。もうあの村なんぞどうでもいい。村人全員抹殺せねば」
そう言って人形に攻撃魔法を放とうとする。
次の瞬間――
ドカッ!
アークが誰かの蹴りによって吹っ飛ばされる
「誰じゃ?」
「俺だよ…」
洞窟の陰からスーッと登場するゲール。
「覚悟しろよ、アーク。お前の陰謀もここまでだ!」
その後ろから颯爽と登場するレオ。
「貴様らどうしてここに?」
「ずっと後をつけてきたからだよ。今日は隙だらけになるかもしれないからよく見張っておくようにとある人に頼まれてね」
「隙?…しまった隠蔽魔法をかけ忘れた」
ようやく自分の失態に気づくアーク。やはり相当焦っていたようだ。
「めんどくさいからさっさと拘束するぞ」
「上位悪魔召喚!」
アークが召喚魔法を唱えると180㎝くらいある厳つい悪魔が5体現れた。
「お前たち時間を稼げ」
「ちっ。めんどくさい…」
「待て、アーク!」
悪魔達と交戦するレオとゲール。
倒せはするが時間がかかるといった具合だ。
その隙をみて人形を数体抱えながら転移魔法を唱え始めるアーク。
この世界の転移魔法は発動までに最低でも1分以上かかる。
それくらい脳での情報処理が難しい魔法なのだ。
ただ、1分であれば今交戦中の悪魔達でも充分に時間を稼げそうだ。
そして、30、40、50秒と経過していく。
「さらばだ、諸君」
さよならの台詞を決め満面笑顔のアーク。
転移に入ると思われたその時、
「逃がさんよ!」
ドカッ!
またも蹴りを入れられるアーク
「ええい、誰じゃ鬱陶しい!」
転移魔法が解除されご立腹のようだ。
そして蹴られた方を確認する。
「なぜ…なぜ貴様がここにいる」
「影武者を使ったのだ。お主と同じようにな」
ムサシマルが現れた。
レオとゲールが悪魔を倒し終わり、集まる。
驚いた様子はない。どうやらムサシマルが来ることを知っていたようだ。
「いい蹴りでしたよ、ムサシマルさん」
「蹴りたい相手だっただけに少し私情も乗せてしまったよ」
そう言って笑うムサシマル。
「貴様ら…勝った気でおるようだが、これが見えぬのか?まだこちらが有利であることには変わらんぞ」
「はぁ…」
突然溜息を吐くムサシマル。
「どうした?恐怖で声も出なくなったか」
「いや、呆れただけにすぎぬ。よもや、こんなものを警戒しておったとわな。我ながら未熟よ」
「どういうことだ?」
「お前の意思だけで対象を破壊できたり、損傷を与えるものなら打つ手がなかったということだ。そうではなく、物体に直接損傷を与えて効果を発動するものであれば何の問題もない」
「それがどうした。止めれるものなら止めてみろ」
そう言い人形に攻撃魔法をかけるアーク。
「遅いわ」ドスッ!
だがムサシマルの高速移動と峰打ちにより、一瞬で気絶させられる。
気絶後はアークをガチガチに固め拘束した。
「うまくいってよかったですね」
「ああ。サクサク終わったし、満足かな」
「我が村の為に感謝する」
「いや、感謝は奴に言ってあげてください。今回のアークの隙をつくるまでの流れは全部奴のつくり出したものですし」
「分かった。では戻ったら改めて感謝を申し出るとしよう」
ムサシマルの途中参入はいつから計画されていたのか。
その答えは試合3日前。
凡太がつくった特製ブレドーの中にあった。
あのときブレドーに詰めていた異物はムサシマルへの手紙だったのだ。
内容は以下の通り。
『試合当日にアークの隙をつくります。見切系魔法と隠蔽魔法を使ってゲール、レオの後を追ってください。そしてゲールとレオが”弱み”を確認したら、アークの目の前に出ますが、これは囮です。アークは転移魔法や装置などを使ってその場から逃げるために二人に向けて全力で足止め策をうってくるでしょう。そして、足止めも成功し、まんまと逃げおおせたと思って気を抜いた時があなたの出番です。かっこよく登場して、蹴りでもかましてやってください、あのアホに。それでは試合日を楽しみにしています。
追伸:無茶ぶりですみません。一応こちらが気に食わなければ無理にのらなくて結構なのでとにかくお体を大事に、元気でいてください。』
ちなみに試合3日前。ゲールがアークを偵察していることはアーク本人にわざとばれるようにしていた。ゲールがわざと目立つように行動することでアークが送り込んだ偵察隊への囮となり、特製ブレドーへの興味を薄くさせ、手紙の目晦ましとしていた。もちろんゲールに偵察時わざと見つかるように行動するよう指示を出したのはあの男である。
「タイラ殿、今日の結果をもたらした特製ブレドーの毒は大変美味であったぞ」
遅ればせながら見事な結果を齎し、アークの立場を文字通り致死に追い込んだ毒に感謝するムサシマルであった。




