第33話 アイVSノーキン
試合当日。
ガンバール村からバンガル、カレン、アイ、凡太の4人がホスゲータに乗ってサムウライ村に到着。すぐさま闘技場に向かう。
闘技場は真上から見ると正方形で辺200m。観客席はそれを覆うように設置された高さ5mの壁上にある。壁はコンクリートの様な素材で作られていて堅い。
アイはすぐに選手待機室に向かった。
他は闘技場観客席へ向かう。
アークとムサシマルがすでに席で座っている。
ムサシマルがこちらに向かって軽く会釈をし、バンガルも会釈を返す。
バンガルとカレンは入口近くの空いていた観客席に座る。
観客席にはシェパンもいた。どうやらブレドー輸送後のついでに寄ったようだ。
そして凡太はギロチンの処刑台に向かう。
凡太の首がセットされ、刃が頭上10mくらいの所で降りるのを待っている。
アークがニヤニヤしながら近づいてきた。
「ようこそ、特等席の居心地はいかがかな」
「冷や汗タラタラで最高ですよ。こんなに素晴らしいものを用意してくださってありがとうございます」
怯えた様子もなく、アークの皮肉に皮肉で返す凡太の余裕振りをみて少しイラつくアーク。
「命乞いは済んだか?」
「生憎、命乞いの必要はないんですわ」
「どういう意味だ?あんな小娘に何ができる。現段階ではノーキンの方が圧倒的に有利。弱者は強者に蹂躙されるのが自然の摂理よ」
「ということは、ノーキンさんの方が蹂躙されるかもな」
「どういうことだ」
「あの娘は強いってことさ。そう簡単に負けないだろうし、勝つ可能性を持っている」
「ふん。精々今の内にその減らず口を満足するまで使っておくんだな。試合が始まってしまえばすぐに決着が着き、お前の処刑を流れ作業で行うことになるのだからな」
「はいはい。楽しみにしていますよ」
~~~
「選手入場!!」
試合を行う2人が双方の入り口から登場し、ゆっくり歩いて闘技場中央へ向かう。
その二人に向け観客席から歓声が巻き起こる。
アイは古代ローマ女剣闘士の少し露出度を低くしたような白いシャツとスカートに青いマント姿。そして背中にいつもの愛刀を背負っていた。
ノーキンは銀色の胸当てと赤いマント、茶色い短パンのスパルタ兵スタイルだ。こちらは槍を背負っており、腰に剣を差していた。
闘技場中央に試合者2人が揃う。
ノーキンとアイが互いに顔を合わせる。
「つまらぬ者よ。よく恐れずにここへ来ましたね。その勇気だけは褒めてあげましょう」
「…それはどうも」
「せいぜい楽しませてくださいよ!」
「…善処します」
2人がおじきし、会場が静まり返る。
そして――
「試合開始!!」
審判の合図と共にいきなり仕掛ける動作をするアイ。
「“アレ”をする気だな、いけアイ!」
アイは凡太の声が届いたかのように剣を両手で持ち、振りかぶる。
何百何千と練習してきたあの技だ。
「斬空波ですか。力の差を見せる良い機会だ。私の斬空波で消し去ってあげましょう」
そう言ってノーキンも同じ構えに入る。
そして、アイが斬空波を放つ。
(カウンターの餌食にしてあげましょう)
迎撃態勢に入るノーキンだったが、アイが後続の1撃もすぐさま放つ。
「連撃!?だがこのままかき消してあげましょう」
ノーキンは自分の体に当たる瞬間にアイの斬空波をかき消し、カウンターを仕掛けようとした。ところが反対にノーキンの斬空波がアイのニ重斬空波によりかき消され、ノーキンに直撃した。
真正面から。
ノーキンはそのまま威力に圧され壁の方へ吹っ飛んでいき――
ドーン!
あまりの威力と衝撃に壁に少しめり込むノーキンだったが、軽傷ですんでいる。おそらく防御不可能とみるや咄嗟に自身へ肉体強化魔法をかけ、防御力を高める方にシフトチェンジしたのだろう。
「どう?少しはつまらなくなくなった?」
「ええ、そのようです。素晴らしい技でしたよ。いやぁ見事、見事。まさか初めからこんな技を使ってくるとは思いもよりませんでしたよ。あなたの実力を見くびっていました。申し訳ない」
アイの台詞にノーキンが余裕の表情で返答する。
“あの時”と同じような展開。そしてこの流れは――
「いいでしょう。ここからは私も本気で行かせてもらいますよ」
ノーキンがそう言った瞬間、ノーキンから目に見えない気迫のようなものが溢れる。
周りの空気が暴れ出し、所々で風が巻き上がった。
そして空気に圧迫され呼吸しづらい緊張感になった。
おそらく“アレ”をやる前兆だ。
静まり返る闘技場。その静まりを乱すようにノーキンがスキルを発動する。
「強乱圧迫!」
ノーキンを中心に闘技場中央の空気から嫌な感じが漂い始める。幸いにも観客席の方から50m以上は離れているのでこちら側は無事だ。ただその範囲内にいるものは無事だと思えない。
アイがその場にしゃがみこんだ。
それを確認し勝利を確信したノーキンが高らかに笑いだす。
「ふははは!あの時と同じであっけないものよ。今回の試合では殺しはご法度。故にまずはその足を使えなくしてやろう」
そう言って、背負っていた槍を背中からおろし、右手に持つ。
「あの時の再現ってか?意外と性格ひねくれてるね、ノーキンさん」
凡太のぼやきと共に投げるモーションに入る。
そしてアイの両足めがけて、
投げた。
低い放物線を描き飛んでいく槍。
その距離20m、10m。
「今度はあの男も助けには来れないようだが、最後に助けを求めることを許そう。せいぜい自分の弱さを悔いりながら他者に泣きすがるがいい」
5m、4m、3m。
そして――
「泣きすがるのはもう充分してきたから遠慮させてもらうわ。それにあの男には既に助けてもらっているから求める必要はない」
そう言うとアイが直撃寸前で槍をかわした。
ドスッ!
今回も地面に槍が鋭く刺さる。
「なぜ動けた?恐怖状態ではないのか?まさかあの男と同じ状態か?」
それは違うと、ノーキンは頭の中ですぐに訂正した。
現にあの女には意識があり、はっきりと応答までしている。
どういうことか混乱しているノーキンに説明するようにアイが話す。
「あなたのスキルの盲点をついたのよ」
「盲点だと?膨大なエネルギー消費量以外に欠点などないはずだが…」
「そうね、それ以外に目立った欠点はない。だけど対象を恐怖状態にするということに何か違和感を感じないかしら」
「違和感だと…そのままの意味ではないか。…いや、待てよ。ありえない。だとしたら…しかし普通それをやるか?」
何かに気づいたが確信を持てないノーキン。
ドヤ顔になりつつあるアイの様子を凡太が微笑ましく見守る。
「まさか…はじめから恐怖状態だったというのか」
「ご名答」
“強乱圧迫”は対象を恐怖状態にするもの。使用者の能力が高ければ高いほどその恐怖は強くなる。しかし、対象が最初から恐怖状態であれば、いくらその恐怖が弱かろうが恐怖状態であることは変わりないので対象外とされるようだ。
「正直本当に動けるかはまだ仮説段階だったから分からなかった。恐怖状態が上書きされるパターンなら詰んでいた。でも、あなたのスキルを受けた時に動けたのを確認できたから、その時は心底ホッとしたわ」
「そんな賭けのようなことを試合でやったというのか。一歩間違えれば、終わっていたというのにか?」
「何もしないで負けるより100倍ましよ。それにどうせ負けるんだったら足掻けるだけ足掻いて負けろってあの馬鹿に散々教え込まれたもの」
そう言って誇るかのように凡太の方を見るアイ。
凡太は“強乱圧迫”対策として試合2週間前から、過去に通信教育で習った催眠術でアイを軽い恐怖状態にしてその状態で動けるようにする練習を修行に追加していた。
~2週間前~
「あなたは段々怖くなる。恐怖が抑えきれなくなる。押しつぶされそうになる。体が重い。怖い。怖い。はいっ!」
謎の催眠言葉はともかく軽い恐怖状態になるアイ。
「どんな感じ?」
「すごく怖い。まともに動けそうもないし、体の活力がすべて何かに吸い取られていく感じ。この状態が苦しくて、嫌で、嫌で、溜まらないわ」
「じゃこの顔見て」 凡太、渾身の変顔。
「すごく殴りたいわ。…あ、動けるかも。ちょっと待って、今すぐ殴るから」
「ストップ、ストーップ!!」
こうして右拳のご褒美をもらう凡太。
アイの恐怖状態は解除されたらしい。
回復魔法をすぐに使ってもらい、検証し直す。
「恐怖状態が解除されたら駄目だから、その状態でも動けるようにしないとな。そして怒りを抑えること」
「うーん。それが難しいのよ。あの状態の時ってずっと暗い部屋に一人で閉じ込められている感じだし」
「それは辛いな。何か自分でこれがあったら安心できる、耐えられるっていう希望になるようなものはないの?」
「あるにはあるけど…」
そう言って凡太の顔を見るアイ。
(ん?何か俺の顔についているのか?あ、昼飯で食ってた焼き鳥の醤油ソースがついてた。恥ずかしい。教えてくれてありがとう)
そう思い、ソースを拭いながら、
「じゃーそれを思い浮かべてとりあえず耐える練習をしよう」
「…う、うん」
こうして、恐怖状態耐久が再び始まる。
「怖い、暗い、寂しい、辛い、もう駄目だ」
「はい、例のやつ思い浮かべる」
そう言ってアイの顔をのぞき込む凡太。意識があるか微妙で、目がうつろうつろしている。
間違いなく恐怖状態だ。
「頑張れ、アイ。お前の信じるものならきっと恐怖に対抗できるさ」
(暗い。真っ暗だ。真っ暗な中に光?なんだろう凄く安心する。この光からあいつの雰囲気を感じる。この光さえ見失わなければ私は大丈夫だ。私は安心する。私は動ける。動け――)
立った。
急な出来事に驚く凡太。そしてすぐさま状態の方を確認する。
「アイ、気分はどうだ?」
「怖いままだけど、大丈夫。私にはこの光があるから――」
アイはそれを言い終えたあと、気絶するかのように深い眠りにつく。
どうやら恐怖状態のまま耐えるというのは相当な体力・精神力が削られるようだ。
「がんばったな、アイ。お前は恐怖を耐えて見せたんだ。かっこよかったぜ」
そう言って、優しく抱きかかえ、テントの方に移動してベッドに寝かせた。
この耐久のきっかけを掴んでからは朝のタバタ式と新技練習の後にこの耐久練習を繰り返し、試合2日前に恐怖状態で普通に動けるまでに至ったのだ。
~~~
場面は戻り、サムウライ村闘技場。
「なるほど。恐怖に耐久するその努力は素晴らしい。だが、いつまでその状態が持つかな」
そう言った途端スキルを解除し、遠方からアイに向かい斬空波を放つノーキン。
(こいつ、私が消耗戦に弱いと考えるや否や遠距離攻撃に切り替えた。さすがに戦い慣れている)
そして、斬空波の嵐から逃げ回るアイ。
このままアイが勝手に消耗して自滅するかに思われたその時――
「これならどう?」
アイが斬空波を放つ。そしてもう1回。二重斬空波だ。
ノーキンが遠距離斬空波を撃ち終え、回避はできないタイミング。
最初のデジャブのようにノーキンに直撃するかに思われた。
「2度目はつまらん」
そう言って斬空波一発でアイの二重斬空波を相殺させてみせた。
「なっ…!」 驚くアイ。
「ほう。俺の全力斬空波と同じ威力とは、恐れ入ったわ」
余裕の表情でにこやかに話すノーキン。
「予想通りといえば、予想通りだな。あの人の化け物っぷりは」
ノーキンの相変わらずの強さに呆れて笑う凡太。
「さぁアイ、ここからだぞ。負けてもいいんだし、今までやって来たことを出し切って気持ちよく戦えよ」
そう。
負けても凡太が処刑される“だけ”。
ガンバール村は菓子ブレドーがある限り、命の保証は続くのだ。




