第32話 試合前日
試合1週間前の修行日で2人は上限の1日14回のタバタ式でも無事全力を出し切り成功させた。
そして現在は試合前日。
この日はさすがにタバタ式や新技練習はせず、軽くアップのような弱強度の運動を行い、あとは休息に専念した。
休息中にアイがこんなことを呟く。
「きつかったけど、なんとか最後まで続けられてよかった」
「そうだな、よく頑張ったと思うよ」
「今までは楽しいこと以外絶対に続けられないと思っていたからちょっと意外だったなぁ」
「そうでもないよ。むしろ楽しくないから続けられたんだ」
「というと?」
「だって楽しいから続けられるって条件じゃ、楽しくなくなったらやめちゃうだろ」
「そうかも。それに毎日が楽しいわけじゃないからそれだと絶対に続けられなくなるね」
「そうそう。反対に楽しくなくてもやることを条件としていれば、楽しかろうが楽しくなかろうがやろうとするから意外とやりやすくて続きやすいんだ」
「へぇーさすがね。変態前進野郎さんの考え方は」
「その”変態前進”っていうのやめてくんない?それだと全裸で前進してくる奴みたいじゃん」
「似たようなもんじゃない」
「全然似てないよ!まず露出度が違い過ぎる」
「芯の意味合い的には同じよ」
「芯って何?まさかの下ネタ?」
「折るよ、その芯ごと。二度と立ち上がれないようにね」
「誠に申し訳ございませんでした」
こうして、修行最後の日の休息時間も2人はいつも通りの緩い雰囲気で終えたのであった。
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ここはサムウライ村、訓練場。
テニスコート3面分の広さがある平地で、取手のついた岩や金属。漸空波で壊れない的などがある。
ムサシマルとノーキンがそこで最後の調整をしていた。
「試合まであとどれくらいですか?」
「12時間30分30秒だ。パウワよ、先程も聞いたばかりではないか」
「申し訳ない。試合が楽しみ過ぎて落ち着かないのです」
「パウワらしいな」
そして徐に素振りを始めるパウワ。
「試合まであとどれくらいですか?」
「12時間28分12秒だ。いい加減、落ち着かんか」
「そうしたいのは山々なんですが…。はぁ…試合が今日だったらよかったのに」
この後もノーキンの”あとどれくらい?”は10回以上続き、ムサシマルがギブアップしたところで最終調整は終了した。
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再びガンバール村。
時刻は夜20時。
広場でバンガルとゲールが話している。
「結局この3ヶ月間、策の要である弱体化に関してはなんの報告もなかったな。相変わらず俺たちは茅の外ってとこだ」
「そうだな。ただ奴のことだ、このまま何もないということはありえまい」
「それは既に完了しているってことか?だとしたら今回も凄すぎだろ。あいつは村から一歩も出ず、ずっと修行をしていただけなんだぜ?普通ならサムウライに最低一度は訪問に行ってそのときに何か仕掛けてくるとかするだろ?それすらなしにどうやって仕掛けをつくり、それを完了したというんだ?それとなんで誰にも一言も相談しないんだよ」
今回も前回の戦前日のように頭をかかえるバンガル。
「敵を欺くにはまず味方からという。味方に気づかれているようでは策としての完成度が低いということに他ならない。それは同時に策の成功率と効力の激減を意味していることが考えられる」
「つまり言わないじゃなくて言えなかったわけだ」
黙って頷くゲール。そして話を続ける。
「奴は普段抜けているくせにこのような状況下では手を抜かないどころか最上級の策を練ってくる。そこが奴の恐ろしいところだ。この考え方になってからは奴が普段から無防備なのは自身に隙をつくることでこちらを油断させるための罠演出にみえてきた」
「恐ろし過ぎだろ。どれだけ考えてんだって話。しかも自身はハードな修行をして、なおかつ指導もしながらだぜ。同じ人間かと疑う仕事量をこなしていやがる。というか、いよいよ人間かも怪しくなってきた…」
「だがこれで今回も安心して当日を迎えられそうだな」
「それは違いない」
二人とも疲れたように笑う。
「そういえばゲールの方には何かボンタから依頼があったそうだな」
「あったが大した依頼ではなかった」
「大したことなくてもあるだけマシじゃん。俺なんてゼロだぜ」
この後、ゲールと別れたバンガルは一人空を見上げていた。
「頼んだぞ、転移者様」
そう空に呟き、明日に備え就寝するのであった。




