第31話 目立った策
試合まで残り3日。
「そういえば、目立った弱体化策何もやってなかったな」
試合3日前にようやく最重要案件に気づいた。
最近は指導者としての才(?)を発揮したような感じで、評価が上昇傾向にあったが、この一言がそれらをすべて帳消しにする。
この男はやはり無能であった。
策を練ろうとぶらぶら歩いているとシェパンに会った。
「どうもこんにちは。いつもご苦労様です」
「苦労はしてないですよ。そういえば最近妖精騒動がなくなったんですよ」
「へ、へぇー」
(止めざるを得なかったとはいえ、悔しいな。最後まで助力できなかったのは。結局シェパン君達は良い顔してなかったみたいだし)
「以前より顔色が良いみたいで良かったです。それも妖精効果ですか?」
「そ、そんなところです」
(やっぱり怒ってる?申し訳ないです)
「で、こんなところで何を。散歩でもしていたのですか?」
「ええ、ちょっと策を練ろうと…」
急にシェパンの周りの空気が変わり、縮こまる凡太だったが続ける。
「サムウライへ運搬に行った人達から、何か向こうの村の様子を教えていただこうかと考えておりまして」
「特に聞いてないですね。そういえば、菓子ブレドー輸送初日にムサシマルさんが菓子ブレドー廃棄禁止令を出してから、毎回残さず食べてくれているみたいですよ。生産者としてはうれしいことです」
「廃棄禁止…廃棄が絶対にされないということは…」
「どうかしました?」
「いや、ちょっと面白い事が浮かんだもので」
「ほぅ」
(さっきからシェパン君の圧が凄いんだけど。何なの?)
「ちょっと用事ができたので一旦帰ります。引き続き、ブレドーづくり頑張ってください!」
黙って最後まで見送るシェパン。
そしていつものように「良い人だ」と思った。
凡太は一度家に帰った後、ブレドー工房へ向かった。何かを準備してきたようだ。そして徐にブレドーを作り出す。生地づくり時に、容量200mlくらいの小さな瓶を取り出す。”致死毒注意”と書かれた瓶だ。その瓶の中の液体をすべて入れ生地を捏ね上げ、あとはいつも通りの蒸しブレドーづくりと同工程だ。焼き上げた後は何か異物をねじ込み工程終了。
そしてここに致死量たっぷり特製蒸しブレドーが完成した。
さらに凡太は紙で包装し、”致死毒たっぷり!ノーキンさん、是非食べてね♡”と怨情たっぷりのメッセージを包装紙の上から分かりやすいように大きく書いた。
「今回輸送するときにこの特製ブレドーも混ぜておいてください。頼みましたよ」
そう言ってすぐにその場を去る凡太。
(こいつ正気か?)
その場にいた全員がそう思った。
まず、致死量であれば探知魔法でばれるし、包装紙に毒入りとわかりやすく書いてあるのだ。これで警戒されないわけがない。絶対に食べられるわけがないし、こんなものが弱体化させる最良策となり得るわけがない。
これはノーキンに対しての冒涜であり、敵に塩を送るというより、敵に油を送るようなものだった。どう考えても試合相手のアイがより不利になるだけだと皆が思った。そして、最後の頼みの綱である男がこのような策しか練れないようならば、自分たちの敗北も濃厚だとも思った。
これらの悲壮感の総評により、皆しゃべる気力さえもなくなってしまった、かの様にみえた。思い出してほしい生産チームは全員”クッション型”だということを。
彼らは瞬時にその行動が凡太による逆ブラフ張りだと理解した。この男は意味のない行動はしないと認識していたからである。
相手を勝負から降ろすのが目的ではなく、立たせるのが目的。つまり何かしらの勝算を確定できる要素がすでに揃っているということに他ならない。
「なんて人だ。今までそんな策を準備する様子は一切見せてこなかったのに…」
「それに修行と深夜のブレドーづくりで、空き時間もほとんどなかっただろ。そんな中、一体いつ揃えたっていうんだよ」
「分からない。だが、とてつもない何かがすでに起こっているということは分かる」
「誰だよ、未だにあの人を無能呼ばわりしているのは!こんな知略の化け物みたいな奴が無能なわけないじゃん!」
生産チーム一同、一切目立った動きを見せずに、知らない内にひっそりと確実に勝利への要素を整えていく凡太に味方ながら恐怖を感じた。そして改めて思う。この男が味方で本当に良かったと。
「で、この特製ブレドーはどうする?」
「愚問だな。混ぜるに決まっているだろ。これを起爆剤とし、また新たな勝利要素を揃えるつもりだろうからな」
「そうだな。とにかく彼のやりやすいようにできるだけ彼の要望は聞こう」
「分かった」
こうして、凡太の目立つ策は無事承認された。
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「アーク殿、ガンバール村からの偵察隊がこちらの内情分析のため近くまで侵入しているようです。その中にはあのスグニもいた模様。どうなさいますか?」
「くくく、奴らめ。試合3日前のギリギリのタイミングで、なんとしても弱点を探ろうとかなり焦っているようじゃのう。敵がもがく姿を眺めるのも一興よ」
アークは上機嫌になっていた。
そんな中、別の報告が入る。
「アーク様、サムウライ村からの輸送物に致死量の毒物が混ざっていた模様です。どうされますか?」
「ええい、そんな下らぬことで私の興を邪魔するな。放っておけ。どうせ致死毒と分かっているのだし廃棄するだろ。それよりも今はこの状況を楽しまねば…」
そう言って興に没入するアークであった。
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ドタドタドタ!
ノーキンが慌てた様子で、ムサシマルの居間の方に入って来た。
部下からムサシマルが自分へ送られた致死量毒入りブレドーを回収したと報告があったからだ。
「ムサシマル殿!私宛に毒入りブレドーが届いたというのは本当ですか?」
「うむ。本当だ。」
「今それはどこへ」
「たっぷりと毒を堪能した後、廃棄した。証拠は残してはいかんからな」
(証拠?こんな馬鹿げた案件に対しても菓子ブレドー廃棄禁止令を破ることを気にしておられたか。どこまでも真面目な方だ。それにしても“堪能”とは?)
ノーキンはムサシマルがブレドー廃棄禁止令を出していたことから、毒入りでも廃棄することはできないと考え、責任を取って自らが食べて処理することもこの責任感の塊のような男ならやりかねないと思っていたのだ。
そしてムサシマルが本当に食べたかもしれない微妙なフレーズをこぼしたので、再確認をする。
「まさか、本当に食べたのですか?致死量の毒入りですよ?」
「うむ。実に良い毒であった。タイラ殿には感謝しなくてはならぬ」
そう言ってニヤリと笑うムサシマル。
致死量の毒入りだ。本当に食べたのならもう死んでいるはずである。
ということは…
(ムサシマル殿の顔が真面目過ぎるせいで、冗談も真実の様に聞こえてしまうのは問題だな)
どうやら、このようなムサシマルジョークは度々披露されているらしい。
「それにしても、食べてない御様子で心底ほっとしました」
「だから食べたと言うとるであろう」
「そうですか。さぞかし美味だったんでしょうね。毒の味は」
「うむ。実に美味であった」
ジョークに付き合うノーキン。
そしてノーキンが欠伸をする。
「お主が欠伸とは珍しいな」
「一応試合間近ということでさらに警戒を強めておりましたが、何もなさ過ぎて退屈で仕方がなかったのです。私的ですが早く試合を行いたいものです」
「ふ、そうであったか。では体も休息を望んでおるようだし今日はもう休め」
「御意」
もう一度欠伸をする。凄く怠そうだ。
ノーキンが居間から出た後、
「実に美味であったぞ、タイラ殿」
お馴染みのジョークをつぶやくムサシマル。
よほど今回の毒入りブレドーが気に入ったようだ。




