第30話 有能な妖精
人間には2つのタイプが存在する。
1つは人の言ったことをそのまま受け止めるタイプ(直観型)
もう1つは人の言ったことの意味を考えてから受け止めるタイプ(クッション型)。
分かりにくいので例を挙げるとAさんがBさんを殴ったとき、
AがBを殴ったと解釈するのが直感型。
AがBに何か嫌がる事をしたから殴ったと解釈するのがクッション型。
どちらも殴ったという事実を解釈してはいるがクッション型は背景に重点を置いている。
なぜこの話を急にしたかというと、菓子ブレドー生産チーム全員がクッション型だったからである。
だから何?
ということだから、結論を急ぐとこうだ。
隠密作戦はすでにばれていた。
それも初日から。
今回はそれをシェパン目線で見ていこう。
時は凡太がアークに試合を提案した日まで遡る(第16話)
~~~
またアークが何かごねてるよ。めんどくさ。
ボンタさんは笑顔の対応か。
相手を変に刺激しないように配慮してるなぁ。
まぁ握った手が強張っているところから、内心は平静ではなさそうだけど。
「戦では散々サービスしてやったろ?だからこの菓子ブレドーとやらはすべてサムウライの村によこせ。もちろんこれからつくろうとしているものも合わせてな」
めちゃくちゃ過ぎる要求だ。端から要求を通すのが目的ではないな。
どちらかというと、わざと要求の拒否を誘うような…
こちらが拒否した時に発生するアークのメリットは…
そうか。難癖をつけての戦の再吹っ掛けだ!
まずいぞ、早く何とかして拒否するのを阻止しなければ、また戦になってしまう。
散々こちらの手は読まれ尽くしているだろうから再戦となればこの村は終わりだ。
あれ?ボンタさん何か言おうとしてないか?
駄目だ、拒否したら――
「くっ…仕方ない。その要求聞き入れましょう」
ボンタさん、ナイス承認!
アークの意図にすでに気づいていたとは、さすがの頭の回転の速さだ。
やはりあの戦での良戦績はまぐれじゃなかったってことか。
さて、これで再戦の流れは消えた。
ざまぁみろ、アーク!
今村が救われたことを一体どれほどの人間が気づいたのだろうか。
直感型連中はまず気づいていないだろうな。そしてボンタさんのことを酷評していると思う。まぁあの人がちゃんと説明しないから自業自得のところもあるが、普通気づかないよな。
何か話を続ける様子だぞ。
「ですが、折角つくったものがそちらに奪われるのもあまり面白いことではないです…」
え?何掘り返してんのー!?
「1対1の試合を行いませんか」
相手に有利な選択肢を与えない為にこちらからすぐに提案することで選択肢の自由を奪い制限を与えたのか。さすがボンタさんだな。まぁ直感型の人には分からなかったみたいだけど
でも、うちにサムウライと試合して勝てる戦闘力の人いないし負け確定じゃないの?どうするの?
このように、その日は一日中混乱していて、その後何も情報が頭に入ってこなかった。
次の日、修行の為の期間の獲得やその見返りの菓子ブレドー3カ月生産と負けたらボンタさん処刑という情報をインプットすることができた。
そしてそれらの分析をはじめる。
修行の為の3カ月の期間を得たのは大きいな。とりあえず、試合があるからこの間は戦を仕掛けられることはないし、安全が確保された。
今回みたいに急にアークの思い付きで不意に再戦を吹っ掛けられる危険性はつねにあったから一時的ではあるがようやく解放されたわけだ。
相変わらず凄いな、ボンタさんは。自分たちの安全を最優先で考えるのは常套手段だが大事だ。安全がなければ何もできない。
でも、いくらアークのごね得をかわすためとはいえ、自分の命をこうも簡単にさしだせるもんかね。この自分の命への執着のなさは危うい感じがする。まるでいつ自分が死んでもいいような、自分に価値などないと思っているような感じで怖い。
おそらくこの3カ月の期間中に表面は修業と言いつつ、裏で向こうの代表のノーキンさんの弱体化策でも取るのだろう。アイちゃんの成長性が大きいとは言ってもこの力の差の方がもっと大きい。まぁその辺はボンタさんがうまいことやってくれるだろう。いや、実はもうすでに考えてあったからこそこの提案をしたことも考えられる。
だとすれば、この試合勝てる!
とにかくボンタさんをできるだけ自由に動ける状態にしておかないと。
そうでなければ策の進行具合もおろそかになるだろう。
厄介なことがあった。
あの人の性格上、菓子ブレドーの大量生産は辛いだろうから自分も手伝うって言ってきそうだ。
今の内に必要人員揃えてすぐに大量生産に取り掛かれる状態にしておかないと。さぁ忙しくなるぞー!
その日の午後、自分の意見に賛同してくれそうな仲間を集めた。
「この後の流れとして、まず菓子ブレドーづくりの人員確保が必要になってくる。ボンタさんにはさっき村を地味な感じだったけど救ってもらったから、その恩を菓子ブレドーづくりで返したい、皆はそれでいいか?」
「もちろん。というか反対する奴いんの?状況呑み込めているなら協力一択でしょ」
これを聞き全員が頷く。
「では3ヶ月の菓子ブレドー生産は全て俺達で請け負い、ボンタさんには修行と策の進行に専念してもらうってことで良い人ー」
「はーい」
流れるような満場一致だ。
人員確保は完了。
次にゼンさんに頼んでブレドー工房を急ピッチで作ってもらい、準備万端の状態でボンタさんのところへ行った。
彼にはこの生産チームでやっていくことを伝えた。
まだ何か悩んでいる様子だ。
あ、運搬に関してね。
「こちらで手配しておくのでさっさと修行の準備でもしていてください」
こちらはもう心配ない。修行や弱体化策を進行させることの方が遥かに重要だから本当に俺達に構わず自分の仕事に専念してほしい。
「分かりました。それでは引き続きお仕事頑張ってください。お邪魔しました!」
礼儀正しい人だな。こっちは雑に接していたのに。怒る素振りもない。
まぁちょっと粘られたけどようやく行ってくれた。
てか、まだ振り返ってくるし、どんだけ手伝いたいの?
本当に良い人だなぁ。
生産に関しては問題ない。本気を出せば1日3000個の生産が可能だ。
生産能力にかなりの余力がある。
だから、今までの生活リズムをほとんど崩すことなく過ごせるから特にストレスなく生活できる。むしろ、菓子ブレドーづくりは新しい発見があって面白いし、以前よりも生活に彩ができて楽しくなったくらいだ。
~~~
次の日の昼。工房に入ると不格好な成形済みの菓子ブレドー生地が数十個あった。後は焼くだけになっているようだが、出来が残念過ぎる…。
こんなことするのはあの人くらいだろう。
きっと俺達がすぐに追い出そうとするから、夜忍び込んでやっていたに違いない。
正直そんな気を遣われなくても生産の方は余裕だ。
多分、向こうの修行が終わったあたりでこちらの様子を確認しに来るだろうからそのときはすぐに追い返そう。
そして、20時頃。
「こんばんは。今日もご苦労様です」
やっぱり来たよ。
今回はチームの皆にボンタさんが来た時に不愛想にするように事前に言ってあった。
さぞかし、居心地が悪かろう。
この空気を察して帰りなさい。
って、入って来たんだけど。勇気あり過ぎだろ。
とりあえず、さっさと帰ってもらわないとな。
「いったいどうしたのですか?修行は?」
「終わったところです」
「だったら明日に備えて早く寝てください」
出口に向かって指さすぞ。
は・や・く・か・え・れ!
頼むから休んでくれ。あなたの貴重な時間をこんな場所で無駄にしないでくれ。
「今日何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったことは何もありませんでしたが…」
あれのことね。変わったことは大ありだったよ。
でも今はそんなことより早く帰って休んでよ。お願いだから。
「そうですか…変なこと聞いてすみませんでした。では帰ります。お仕事こんな遅くまでご苦労様です、頑張ってください」
今回の接し方は最悪だったはずなのに礼儀を崩さんなぁ。
本当に良い人だ。
さて、これでもう手伝うのは諦めてくれるだろう。
次の日の昼。
またも成型後の生地を発見。
あの野郎、またつくってやがる!
馬鹿なんじゃないの?
あれだけ生産は問題ないって理由まで添えて伝えたよね?
こんなもん、誰からも反応なかったらすぐ諦めてやめるに決まっている。
もう放っておこう。
7日目の昼。
結構粘るな。でもそろそろだろ。
14日目の昼。
何?もうやけくそなのか
30日目の朝8時。
嘘だろ。
ここまではさすがに想定してなかった。
さすがに修行しながらの睡眠時間削るのは地獄のはず。
今夜様子を見に行ってみるか。
その前に一応修行内容を頭に入れておくか。
レオ君が確か初めの頃参加していて、今は個人で訓練しているみたいだから聞きに行こう。
レオ君は村の隅の方にある訓練場にいた。
「おはようレオ君。いきなりで悪いけど、ボンタさんがやっている修行内容について教えてくんない?」
「どういう風の吹き回し?まさかシェパンも修行に参加したいとか?」
「違う違う。本当に内容が気になっただけだからそういう気はこれっぽっちもないよ。あと俺はどちらかというとインドア派だからな」
「そうか、残念。まぁ気が向いたらいつでも言ってよ。で、修行内容だったね」
そう言って分かりやすく内容を説明してくれた。
身体能力と脳の能力を高めるのが目的か。
今まで身体を鍛えるのみだったから脳を鍛えるというのは画期的だな。
全力運動時に成長効率があがる、か。
てか、全力運動ってどんな感じだ。
レオ君に”タバタシキ”を教えてもらい、アップ後実際にやってみた。
心拍数165。
息がめっちゃ上がって苦しすぎるんですけど!
レオ君の話によると心拍数は最低でも180以上ないといけないらしい。
無理だろこんなの。
息が続かないし、その状態でどうやって動き続けられるんだよ。
ボンタさんとアイちゃんはこれを1日3回やっているらしい。
あの人無能じゃなかったっけ?
何でこんなきついのに耐えられる体力があるの?
さらに、これの間休憩のときに新技開発をしているらしい。
「さすがにその時間はボンタさんも休んでいるだろう」
「いや、僕が居た時は指導しながら剣を振る練習をしていたよ」
「ストイック過ぎだろ!」
こんなハードメニューを毎日こなしてから深夜のブレドーづくりはさぞかし地獄だろう。
深夜2時。
魔法で姿を隠した状態でコソコソ動作の男を発見した。
てか、魔法使えないからこっちが魔法で隠れてれば、どんだけ注意を払おうと無駄なんだよなぁ。
さて、拝見。手ごねから。
あー、駄目だ。
それじゃ均等に混ぜれてないって。
修行で疲れているのはわかるけど、力入ってなさ過ぎてダマが潰しきれてない。
そうやって文句を言い続けること30分。
仮眠した。発酵中だからか。
まぁ少しは休んでるのか。
だが、この程度じゃ疲れはとれまいて。
そんなこんなで成形まで見届けた。
時刻は4時40分。
自分のテントに戻るみたいだ。修行まで仮眠とるのかな。
着替えて、そして、
「よし、今日も張り切って修行に行くか」
嘘だろ!?
ほとんど寝てないじゃん。
え?このサイクルで30日間やってたの?
常人だろうが超人だろうが死ねるハードさだったよ?
やっぱりこの人、頭おかしいよ。
31日目。
俺は誰かにこの奇怪現象を解説したり見てもらいたくなった。
そこで、今回は深夜にチームメンバー数人に付き合ってもらい、奴の行動を覗くことにした。もちろん魔法で隠れてばれないように。
俺は事前にボンタさんの修行の内容とそのきつさについて同僚に説明していた。
「要は体力ほぼ1の状態でこねてるってことだろ?」
「そういうこと。な、頭おかしいと思うだろ?」
「そりゃそう思うだろ…というかとっとと寝て休んでくれよ」
「やっぱりそうなるよね。分かるわーその気持ち」
共感者が増えて嬉しい。そして、奇怪なことは第三者目線で見ても奇怪だったことが知れてさらに怖くなった。
「それにしても、こねがあまい」
「ムシャクシャしてきた。手伝いに行っちゃダメかな?」
「我慢だ、我慢。でも俺だって行けたら行きたいよ」
こうして生産チームが地味な盛り上がりを見せる中、この日の彼の隠密作戦(?)は終わった。
この日を境にチームメンバーが数人、入れ替わるように深夜の彼の様子を覗きに来るようになった。
俺はというと、彼の体力がいつ尽きるか不安になり、毎日保護者のような立ち位置で彼を見守っていた。
60日目。
チームメンバーに病欠者が1名出た。
ただの風邪だが、大事をとって1,2週間は休んでもらおうと思う
70日目。
病欠者3名。
さすがに午前中もフル稼働しないと生産が間に合わなくなってきた。
79日目。
病欠者5名。
現メンバーの5人ともさすがに疲労困憊だ。
今日はもう無理かもしれない。
誰もがそう思った。
そんな中ふとあの男のことを思い出した。そして今日も起こるであろう奇怪現象をあえて伝えた。
「あいつは今日も間違いなくやってくる。ボロボロの状態でな」
俺達以上に疲労困憊の男が今の俺達を見たらどう思いどう叱咤するのだろうか。
そんなの決まっている。
「それで俺らはどうだ?奴ほど出しきっているか?奴ほど限界か?違うだろ!奴に比べれば全力の“ぜ”の字もだせていないはずだ!俺達も全力でやれるだけやるんだ。無能な奴でもできたんだ、有能な俺たちにできないわけがないだろ」
全員を鼓舞し、士気を高めるシェパン。それにチームが呼応する。
「よーし!やってやるぞ!あいつに負けるのだけは勘弁だからな」
「ボンタに負けるだと?そんなことありえないんだけど」
「今度は私達の全力をボンタさんにしっかり見せてあげましょう」
「有能5人の全力だろ?1500個なんて余裕っしょ」
こうして士気が最大値まで達したチームは菓子ブレドー生産に急いでとりかかる。かなりのハイペースでこれなら今日も無事ノルマを達成できるだろう。
彼らは気づいてなかっただろうがちょうどこの時、形は違えど彼らもまた全力の境地に辿り着いたのだ。無能男の無能な行動によって。
シェパンが今夜も今日の裏MVPである男の行動を監視しに工房を覗いていた。
4時30分頃まで粘ったのを確認し、帰る姿を見ていたところ異変が起きた
急に凡太が倒れたのだ。
どうやら気絶しているようだ。
(疲労によるものか。とにかく、助けてあげないと)
そう思い物陰から出ようとしたシェパンだが、あの男の"アレ"を目撃することになる。
「ツライ…ヤメタイ…カエリタイ…ネタイ…」
男がそう呟きながら、立ちあがりゆっくりと歩き出す。自分のテントの方角へ。
シェパンはこの奇怪な状況をみて思わずフリーズ。だがすぐに精神を持ちなおし、現在の状況を把握しようと努める。
「気絶したはずだが、なぜまた立ち上がれたんだ?しかも歩けるのはどうしてだ」
疑問が一向に解決しないのでそのまま観察を続けるシェパン。そして、男がブツブツ言っている言葉が気になって魔法で聴力をあげ聞いてみた。すると
「ツライ…ヤメタイ…シンドイ…」
(本音を言っているのか?でもそんなに辛いならどうして歩くのをやめて倒れないんだ?気絶を続けた方が楽なのに)
さらに疑問が膨れあがるシェパン。
疑問を解決させる為、この男の今までの行動を分析する。
そして、答えに辿り着く。
「彼の身体は既に限界だったんだ。だけど彼の本能がそれを越えさせ目的を遂行させようと強引に動かしてしている…彼の命を使い切るまで」
シェパンが思考を続ける間も前進を続ける男。
命を削りながらの前進。
「まずい。彼をはやく止めなくては本当に死んでしまうぞ!」
急いで凡太を止めようとするシェパンだったが、止める前に倒れた。
何事かと思って様子を見るといびきをかいて寝ていた。
前進欲より睡眠欲が勝ったようだ。
最初はただの偽善者だと思っていた。
実際自己満でやってるみたいだからそうだったんだけど。
ただ、日が経つにつれ、違和感を感じた。
普通の偽善活動なら自分が満足したら相手の顔色を窺ってうまいタイミングでぬけだすはずだ。
しかし、この男は違った。相手が満足するまで満足しないのだ。
この男は偽善活動を装った善活動をしていたのだ。
まぁ本人は未だに気づかずに偽善活動として捉えてるみたいだけど。
そして、今や抜け殻のようになった男を見た。
体力は抜け落ちていたが、その男の行動や姿からはそれを見たものなら必ず得るであろう活力が溢れ出ていた。
どうしてこんなになるまで他人のために頑張れるのか?
どうしたらここまで自分の力を出し切れるのか?
それを考えると今まで頑張ってはいたが、日々自分の力を持て余して出し切っていなかった安直さに反省せざるを得なくなった。
そして、これからは自分もこの男のように自分の力をできるだけ使い切ってみようと思った。自分の不甲斐ない安直さを払拭する為に。
新たな活力を得たシェパンはそのまま黙って凡太をおぶり、テントのベットに寝かせてあげた。
その後急いでテントを出る。
時刻は4時50分。
「あーよく寝た。あれ?工房じゃなかったっけ?まぁいいや。今日も修行頑張るぞ」
習慣化された修行へ向かう時間である。
~~~
昼、昨夜起こったことをチームの皆に説明した。
皆が俺と同意見で、今はボンタさんの真夜中行動をやめさせる方法を話し合っていた。
「普通にもうやめるように言うのは?」
「駄目。あの人の自己満足でやっていることだから人に何を言われようがやめないと思う」
「夜ここで待っているのは?」
「駄目だ。ここが駄目なら場所を変えて作業するだろう。成形済みのブレドーはアイちゃんにでも頼んで紛れ込ませてくるかも」
「…打つ手なしか。どうすりゃやめてくれるんだ」
「もう私達はとっくに彼の行動に気づいているっていうのにね」
「そうか!」
「どうした急に?」
「気づいたことを知らせればよかったんだよ」
「どういうこと?」
「あの人って評価されるのを嫌がるじゃん。自分のこっそりやっている行動がばれたら評価されざるを得なくなるからやめるしかなくなると思ったんだ」
「すげーな。よく気付いたな。でも改めて思うけどあの人本当にめんどくさい人間だよね」
「それもそうだ」
最後は全員笑って方法立案会議は終了した。
運命の80日目夜20時頃。
「こんばんは、今日もご苦労様です」
予想通りの登場。
だが、今日は中に入ってこず、すぐに立ち去ろうとしている。
急いで追わねば。
「ちょっと待ってください」
「どうしました、そんなに慌てて」
あんたの予想外行動のせいで慌てたの。
さて、息を整えてしっかり考えた通り誘導していくぞー
「変なのです。昼ここに来てみると少量の菓子ブレドーの生地があとは焼く段階だけの状態で置いてあるのです。それもこの菓子ブレドーづくりが始まって以来ずっとです」
さぁ食い付いてこい!
「それ、きっと妖精の仕業ですね」
食い付いた!
「は?」
どうだ?そちらが待ち望んでた反応だぜ
「最近夜中に修行が嫌になってよく外を歩くんですよ。そしたら、丁度人の形をした妖精を見つけたので、後を追いかけていくとブレドー工房に入っていくのが確認できました。中をこっそり覗いてみると、あら不思議。ブレドー生地をこねている姿を目撃したのです。それから――」
「もういいです!」
これには本当に、もういいってなった。
「では妖精がこれらの怪事象を起こした犯人だというのですね」
「はい、そうです」
「分かりましたよ。もう疲れたのでそういうことにしておきましょう」
本当に疲れた。これで今回の策は終了なのだが、おまけを与えとくか。
「今度その妖精に会ったらこう伝えてください。手ごねが不十分すぎて不均等で製品として未熟だったと。だけど、私たちはその未熟さをみて初心を取り戻してほんのちょっとだけやる気になれた、ありがとうと伝えてください」
「はい、必ず!」
涙なんか浮かべちゃって。
おまけは大分効果があったようだ。
そりゃそうだよな。今まで評価はおろか行動すら無視され続けてようやくそれを認めてもらえたわけだから。
この世に彼の行動や思考を理解できる人はどれほどいるだろうか。
まず彼自身がそれを頑なに隠すのでこちらから探しに行かないと絶対に見えない。しかもそれが見づらいことこの上ない。しかし、見えてしまったら最後、彼の虜になってしまう。
そして、見続けていると自然と活力が湧いてくる。まるで精神高揚の魔法にかかったように。しかし彼は魔法が使えない。魔法が使えないのに魔法のようなものが使える。これでもまだ無能と呼べるのだろうか?
その答えは妖精のみぞ知る。
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神役所・休憩室にて。
「戦闘場面はないのになんで微妙に熱い展開なんだ?確かにそれを望んだけれども、何か違うぞ」
「いいじゃないですか。私は好きでしたよ、ドラマみたいで結構楽しめました」
「うるさい。誰がどう見ても話脱線していただけだろう。弱体化策とか修行の話とかメインと全然関係ないじゃないか。話ずれ過ぎなんだよ」
「ずれるのはあんたの頭の上のものだけで十分だっつーの」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。それより平さんもシェパン君も少し成長した様子が窺えましたし、ある意味これも修行だったのではないでしょうか?」
「うまくまとめようとするな。そういうのが気に食わん」
チーン
「さぁ、気を取り直していくぞ」
「ダルイ、メンドイ、カエリタイ」
「おまえのそれはただの怠惰本能だろ。私達も妖精に魔法をかけてもらったことだし今日もしっかり仕事しようじゃないか」
「はーい」
お互いの態度のずれと新事実の頭の上のもののずれを修正しつつ、神役所の1日が始まった。




