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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第1章 ガンバール村救済編
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第3話 無能の証明

「知っての通り、1週間後この村一斉攻撃されっから。各自考えてきた対策案言ってくれ」


 重い雰囲気に合わない軽いトーンでバンガルが議題を振る。

 すかさずコトナが進行を始めた。


「えーそれではアンさんからどうぞ」

「うむ。じゃがその前にそこの小僧は誰じゃ」


おっさんに向かって小僧というのはどうか? というのはさておき、アンの言う通りだ。

その疑問を急いで取り払うべく、自己紹介する。


「私は異世界からの転移者でタイラ・ボンタと言います。砂漠で困っていたところ、バンガルさんのご厚意で助けていただきました。今回はその恩返しがしたく、この議会にて微力ながら、議論に助力させていただくことになりました。よろしくお願いします」


議会に連れてこられたのは成り行き的にこういうことだと思ったが、どうだろうか? バンガルに目をやると『正解』と言わんばかりに右親指をたてている。それを確認してホッとした。


 2人がアイコンタクトを飛ばし合っていると、アンが興奮しながら話し始める。


「転移者か。全知全能の力を使い、世界に平和をもたらしたと言われておる。何百年も前の伝説をこうして目の前で見ることができるとはついておるわい」


おそらくその伝説はスキル大サービス時代の転移者の話だろう。勘違いされるのは御免だ。急いで無能アピールしなくてはならない。勘違いを正すべく、転移系の話で散々使い古されたものについて聞いた。


「何か能力を測定できる装置はないのですか?」

「あるぞ。そこにある丸い水晶とホゲ人形を使うといい。水晶に手をかざしたとき、魔力量が多いほど光るようになっておる。ホゲ人形では身体能力を測定できる。全力パンチしたとき、身体能力が高ければ……」


 アンが人形の前に立った。アキレス腱を伸ばすように大きく右足を引き、肩・腰を右に捻れるだけ捻る。瞬間、とてつもない速さの右拳がホゲ人形に命中。


「グッフ!」


中に本体がいたんじゃないかと疑うくらいの悲痛な鳴き声をあげる。そんな中、アンさんは淡々と2撃目の準備をする。今度は上半身の力だけで右拳を当てた。


「ホゲ」


先ほどの悲痛さを忘れさせてくれるような間抜けな鳴き声。


「弱ければこう鳴く。まず水晶の方から試してみるといい」


 以上で説明は終了。水晶はテンプレ通りの展開だったが、人形は予想外だ。パンチングマシンのような仕様だろうが、高能力時の鳴き声がリアル過ぎて正直引いた。さらに、ホゲ人形の姿はテディベアのような愛くるしさを醸し出す可愛らしい姿にアレンジされているので非常に殴りにくい。さておき、全力パンチは下半身の踏ん張り、肩や腰の回転に腕力を乗せる全身運動となるので測定装置としては信用できそうだ。


 凡太は気持ちを切り替えてテント奥にある水晶の前まで行った。

 他の4人も寄ってきて注目される中、丸い水晶に手をかざす。


 無色だ。


「なんだと…」


一同動揺し、ざわつく。


「つまり、魔力なしってことですね?」


 確認すると一同は小さく頷く。


「まぁ高い身体能力があれば、魔法なんか使えなくたって力で押し切れるよ。力こそすべて!」

「そうですね。肉体が精神を凌駕するように、肉体の力が魔法を凌駕することとだって充分ありえますとも!」


バンガルとコトナのフォローで一同が落ち着きを取り戻しつつあったが、


「でも、遠距離攻撃で集中砲火されたら終わりだよね」


スグニの空気を読まない御もっともな意見が炸裂した。一同は再びざわつく。

凡太は、そんな彼らの反応があまりに予想通りだったので逆にホッとしていた。ひとまず掴みのアピールは成功した。続いてとどめのアピールだ。ホゲ人形の前にいき、アンの見様見真似で大きく振りかぶり、右拳を当てた。人形はうんともホゲとも言わない。


「な…」


後に続いたであろう『んだと』を省略するほどの凄まじい落胆ぶり。どうやら身体能力“弱”すらも遥かにに超えて無いことが確定したようだ。凡太はこのアピールの成功で、大きな仕事を一つやり遂げた気持ちになっていた。

 気持ちに余裕ができたところで周りの状況を観察してみる。バンガルとコトナは放心状態。アンは念仏を唱えるようにブツブツ小言を言いだした。スグニにいたっては激しくストレッチを行っており、今すぐこの場から逃走したい衝動にかられているようだった。

 10分後、各々の現実逃避行動によって落胆や絶望感を完全燃焼させたらしく、議論が再開された。


「可能な限り村の周りに防壁を築く予定じゃ。1週間分だから期待はせんでくれ」

「村人全員の逃走訓練を行う。訓練時間と内容については村人全員にこれから伝えに行く」

「分かった。それじゃ解散!」


 再開30秒で終了した超速議論に凡太が呆気にとられている間、各自解散していった。

 凡太は置き去り状態。時間にも置き去りにされかけたところで我に返り、急いでバンガルを追って呼び止めた。今更だが、どこの誰がどのように攻めてくるかが謎のままだった。


「今回はどこから一斉攻撃されるのですか?」


その質問を聞くと、バンガルは何かを思い出したかのように平謝りをしながら答えた。


「すまない、君には“一斉攻撃される”以外に何も伝えてなかったな。詳しく説明しよう」


 ここで、ようやく概要について話し始めた。


「ここから北の山を越えた盆地にサムウライという人口300人の村がある。そこにはヤミモト・ムサシマルという村長がいる。彼の性格はとても真面目で義理堅かった。さらに剣術や兵法の天才で、そんな彼が村人たちにも自身の技の伝授を行った結果、今やその村人全員が彼に匹敵する実力を持っている。そんな彼らと俺達の村は交流・貿易するほどの友好的な関係だった。ところが、1か月前にアーク・ダイカンという男があの村に現れてからその関係が変わった。こちらに不利な条件の貿易交渉や不当な言いがかりをつけてくるようになった。そんなことが続くものだから、ある時ついカッとなって殴っちゃった」


バンガル渾身のテヘペロ。ツッコミ役がいないのでそのまま話は続く。


「そしたら、アークの野郎がこれ見よがしに、報復宣言してきやがった。それが1週間後とういうわけさ。なんでも初撃サービスとして、斬空波を村の跡形がなくなるくらい浴びせてくれるみたいだぜ?」


渇いたように笑った。どこか諦めのような倦怠感がある。


「斬空波とはどういう攻撃ですか?」

「こういう技さ」


 そう言うと、50mほど先にあるワゴン車1台分くらいの岩に向かって、腰に差してあった剣を鞘から抜き、振るった。衝撃音の後、岩が真ん中から縦に割れる。


「並みの人間ならこんなもんかな。言っておくが、奴らはこれを1キロ先からでも撃てる。しかも威力はこの倍以上だ」

「並みの人間のレベル高すぎない? しかもそれ以上の能力がある相手とか、摘んでますやん…」

「なんか、はじめて素の姿を見れた気がするよ」 バンガルが笑った。


 凡太がつい本音を声に出てしまったのも無理はない。威力はワゴン車両断の数倍とすると一軒家両断に相当するだろう。そんな技が何百と飛んでくるところを想像すれば、村を守るという発想がどれだけ無駄かがはっきり分かる。そして、なぜアンやスグニが議論に熱意がなかったのかようやく理解できた。

 なお、斬空波は基本目で捉えられないが、斬空波を使える人は自分自身の斬撃を目で確認できる。そして、それを避けることも可能だとか。ただし、自分のものより強い斬空波の斬撃は見づらく、かわしにくいらしい。これは、自分の斬空波のレベルに応じて使用者の動体視力や回避のための身体能力が決まることを意味する。つまり、より強い斬空波を撃てれば相手はかわせないので一方的に攻撃できるということだ。今この村がおかれている状況がまさにそれである。


 腑に落ちなのが、義理堅い人間が友好的な村に向かって攻撃をしかけるという点だ。本来ならお互いの損益のことを考えるとその必要は全くないはず。


(となれば、お馴染みのあれでしょう)


 凡太は察した内容の立証するべく、バンガルに質問する。


「ヤミモトさんや他の村人は強力な洗脳魔法にかけられているのでは?」

「いや、それはない。だって俺達にはその種の魔法が効かないんだ」


『そうだ』という回答を期待していた凡太はフリーズした。そこへさらに、予想の遥か上をいく回答が加わったことで永久フリーズしてしまいたい衝動に襲われたが、気合で話を続ける。


「魔法が効かないとはどういうことですか?」

「そのままの意味。まぁ例外もあるけど。例えば、相手が風魔法を俺に向かって放ってきても体に当たる寸前で消える。自分を傷つけたり、足を重くして動きを鈍らせたりといった自分にとってマイナスになるものが無効化されるんだ。反対に治癒や肉体強化のような自分にとってプラスになる魔法は無効化されない。昔はこんな能力はなかったのだけど、百年前にいた転移者が老衰してから急にこの能力が発現した。それもこの世界の人間全てにね」


(まるでゲームのバランス調整みたいだ。おそらく神様達の(ありがた迷惑な)ご厚意だろう。そして、これにスキルサービス終了を加えると、 現地人>越えられない壁>転移者 の方式が完成する。素晴らしい…。まさに打つ手なしじゃないですか)


 投げやり思考になりながらも現状を整理し直す。


(サムウライの村人が洗脳されていないことが分かったから、残る要因は人質をとられていることや弱みを握られていることくらいだろうか? 情報皆無な今、早急にアークの周辺を偵察した方がよさそうだ。だが、その前に試しておきたいことがある。ようやく希望の光がたった一つだけみえてきた。俺にも魔法無効化が使えるかもしれない)


 それを確認する為、バンガルに風魔法を撃ってもらうことにした。ビビっていたので、一番弱い威力で撃ってほしいと伝える。周りに何もない見晴らしのいい広場に行き、お互い10mほど距離をとった。いよいよ実験開始だ。


「準備はいい?」

「はーい、お願いします!」


 バンガルの開かれた掌から風が吹き、辺りの粉塵をまき散らせながらこちらにやってくる。

 心の中で『やっぱり、無効化の効果音はキャーン、もしくはガラスが割れるようなガシャンかな?』と、仁王立ちしてワクワクしながら待った。

 ところが、実際の効果音はブワッ!ゴロゴロゴロ…だった。言うまでもなく、ブワッが直撃して吹っ飛ぶ効果音で、ゴロゴロゴロ…が衝撃に耐えきれず、踏ん張りが解けて後転していく哀れな中年男の効果音を表している。


「弱めにしておいてよかった。転移者には効くんだな」


 慌ててバンガルが駆け寄ってきて手を差し伸べる。その手を掴み起き上がらせてもらう哀れな中年男。そして、これが男の中で 現地人>永遠に越えられない壁>転移者 となった瞬間である。


ここに2つの疑問が残る。魔法が無効化されるなら斬空波も無効化されるのではないだろか? という事。もう一つはバンガルが魔法無効化の有無を知っていた上で斬空波の危険性を述べたのはなぜだろうか、という事。既に察しがついたが、念のため聞いておこう。


「魔法が無効化されるなら斬空波も無効化されるのではないですか?」

「あれは力技だから無理。魔法じゃないもん」

「ですよねー」


今回は心の準備も済んでいたので驚かずに済んだ。

ただこれだけは言いたい。我々の世界では、現実ではありえない力のことを魔法と呼ぶので、その力技も十分魔法と呼べる代物だという事を。


「力技という事は、剣をものすごく早く振ると出る衝撃波のようなものですね?」

「そうそう、そんな感じ」

「私の世界でその技を使うほど早く振れる人はいなかったので想像できないのですが、その速度まで達すると空気の壁に当たって腕や指がめちゃめちゃになるといいますか…とにかくものすごく痛いと思います。なのに痛がらないし、損傷がないのはどうしてですか?」

「んーどうしてだろ? 確かに初めは痛かったなー。あまりに痛いものだから、手とか腕に痛くなくなれ、もっと強くなれって気合をいれるようになってさ。その頃から急に痛みもなくなって、コツも掴めたんだよ。で、技を修得するに至ったわけ」

「そうですか。凄いですね」

「だろ?」


 ハハッと笑うバンガル。


(おそらく、気合をいれているときに無意識で治癒や肉体強化、防護系の魔法を自分に使ったのかな?  とすると、バンガルさんより強い斬空波を撃てるサムウライの人々は、これより凄い気合を入れるのだろう。魔力・身体能力の圧倒的な高さが伺える。これはまず過ぎる状況だ…。早急に手を打たなくてはならない)


 バンガルに先程脳内整理した時に思いついた人質・弱み説を話した。これにはバンガルも同意。


 この後、スグニのところへ向かい、アーク周辺の偵察をお願いした。相変わらず、スグニは凄くめんどくさそうな顔をしていたが、3時間に及ぶバンガルの熱い説得に根負けして、しぶしぶ引き受けた。


「おっ! 外真っ暗だな」


 スグニのテントから出るともう夜になっていた。


「ですね。それにしても熱かったですね」

「まぁあれくらい言わないとゲールは本当に逃げようとするしな」

「いや、そもそもその説得で逃げそうになってましたけどね」


 笑い合う。


「ありがとな。ちょっとだけ解決の糸口が見えてきた。あと、会って間もないのにこんなことに巻き込んじまってすまんな」

「いやいや、とんでもない。そもそもあのまま砂漠にいたら今頃死んでますし、礼を言うのはこちらの方です。というか、この恩重すぎです! 1週間で返しきれるか今めっちゃ不安で、逃げたくて、でも逃げて恩返せなくなるのはもっと辛くて…」


凡太が勝手に“恩”プレッシャーに押しつぶされていると、バンガルが小声で何か言った。


「やっぱり連れてきて正解だったな」


凡太には小声過ぎて聞き取れなかった。どうせ、変な奴をみたときの「キモイ」「うわ…」とかそっち系の嫌悪・ドン引き反応と推測。聞き返すと「ナニモイッテナイヨ」のロボット返答によって、余計に辛くなることが予測できたので、聞き返すのをやめた。


 しばらく歩いてから大きなテント前についた。どうやらそこがバンガルのテントらしい。


「じゃ、俺もう寝るわ。あそこのテントは空いているから好きに使うといいよ」


 5mくらい離れた小さなテントを右手で指差ししている。


「ありがとうございます。ではまた明日」

「おう、またな」


 感覚的に夜10時といったところか。いつもだったらこの時間に寝ないが、今日は色々ありすぎて疲れが溜まっていたのか、眠気がすぐそこまで来ていた。今日は話が進んだにしろ、まだ何も問題の解決はできていない。


(攻撃への具体的対策案も練らなくては。明日は村の現状の把握からしてみるか。村の戦力となる人材はどれくらい居るか? 防衛対策物の耐久強度はどの程度か?)


 などと、あれこれ考えている内に眠りに落ちていった。

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