第27話 2人の変化
修行60日目。試合まで残り1か月だ。
凡太はキロ4分ペースで走っても息を乱さなくなるまで持久力が向上。
その為アップではキロ3分40~50秒ペースで走るようになった。
これは市民マラソン大会でちょっと早い奴の部類に入るレベルだ。
そして、タバタ式にも大分精神疲労の余力を残しつつも全力をしっかり出せるようになったので、現在では回復魔法を挟みながら1日10回行えるようになった。
アイの方は大躍進を続け、前日に二重斬空波をとうとう習得した。本人曰く、まだ成功率が6割だそうなので10割を目指し追い込みをかけていた。
ここ最近アイは夜な夜な家を抜け出し何かやっているとレオから報告があった。このタイミングでのその行動ということはきっと“アレ”の特訓だろう。凡太は変に詮索せずそれを黙認した。そして、少し試合の日が楽しみになっていた。
色々と変化があったが、最も変化があったのは凡太とアイの関係だ。
アイの凡太に対する呼び方が、ボンタさん から ボンタorあんた に変わり、敬語がタメ語になった。凡太は相変わらずアイに対してさん付けを続けたままでたまに敬語も使っていた。しかし、なぜかそれがアイの癪に触り「今度さん付けで呼んだり、敬語を使ったらぶっ飛ばす」と脅されている。凡太にしてみれば、アイは哀れな自分を助けてくれる女神のような崇拝する存在である為、敬語を使うべきでむしろ“様”付けするべきだと考えていたが、ぶっ飛ばされるのは嫌なので今は素直に従っている。
そして、2人は修行の時はもちろん、食事の時や休憩の時もずっと一緒にいるようになった。凡太はこの件に関し、たとえ自分が一番嫌いな相手でも一応修行の指導者だからと我慢して同行してくれる、アイは大人な対応をしてくれているんだ、と解釈していた。
今日のきつい修行も終了し、2人ともダウン後の静的ストレッチをやっていた。その際中、アイが最近自分の手のマメがさらに多くなったことを話題にあげた。
「私、この手嫌い。ボロボロでみっともないし」
ボロボロになった手のマメをなでながらアイが言う。
「俺はその手好きだよ」
「ふん、嘘が下手ね」 無理矢理褒めたと捉え、不機嫌になるアイ。
「本当にそう思っているよ。ほら、努力した跡がこんなにも…アイの良さが詰まっている良い手じゃないか」
そう言ってアイの手のマメをなぞるように触る凡太。
「……。」 それを見ながら黙り込むアイ。
(…まずい!女の子の手をじっくりと触ってしまった。セクハラじゃん。
しかも相手は自分の一番嫌っている男だぞ!殴られる。この後絶対殴られる!)
凡太が衝撃を想像し目を瞑ったその時。
「…ありがとう」
聞こえるか聞こえないかの小声でボソッとアイがそう言った、様に聞こえた。
「…え?」
(なんて言ったの?きっとぶっ飛ばすとかの攻撃宣言だ。はやく手を離さねば!)
急いでアイの手を離す凡太。
するとなぜかアイが残念そうな顔をした、様にみえた。
(あぶねーあと1秒でも離すのが遅れていたら命はなかったな、マジで)
凡太の頬に一滴の冷や汗が流れた。
この後、何度もしつこく謝る凡太。
アイは最初こそはキョトンとしていたが、次第に鬱陶しくなって結局殴った。
こうして凡太の未来予知は結果的に当たったのであった。
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「俺はその手好きだよ」
家に帰り、自分のベッドの上で凡太の言葉を思い出し、嬉しくなるアイ。
そして、凡太に触れられた箇所をなぞるように手のマメを触る。
「ありがとう」
今度ははっきりと聞こえる声でそう言った。
こうして嬉しい気持ちのまま、眠りについた。




