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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第2章 サムウライ村救済編
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第26話 私の居場所

自己啓発セミナーに参加した後や本に感化された時、3~7日くらいはやる気状態を保てるがそれ以降はめっきりやる気がなくなった、という経験をしたことはないだろうか。あれはコミットメントや返報性など心理学要素を使った視覚・聴覚に刺激を与える麻薬に近い効能がある。


今回のアイも1週間後くらいにはやる気はなくなっていたはずだが、凡太が変態前進野郎で足掻き続けたため、自分もそうせざるを得なくなっていたと考えられる。


今日に限ってはいつにも増して辛そうだ。

凡太はその様子を確認するとすぐに休憩時間をつくった。

2人とも近くの木陰で座る。

そして、アイに気になっていた質問をしてみた。


「今の君を支えているものは何なの?」


返答がこないどころか5分間沈黙だ。


(また無視か。まぁ相当嫌なんだろうな。俺と話すのも、それに返答するのも)


凡太が諦め立ち上がったその時、


「そんなものないです…」


(お、しゃべってくれた。支えているものがない? レオ君がここで出てこないという事は人間関係の問題じゃなくて、精神的な問題か? 生きる目的のような? だとすると…)


「なるほど。君は代表者に選ばれた責任感で仕方なく修行を続けていただけだもんね。今更だけど勝手に決めちゃってごめん。そしてここまで一緒に修行してくれてありがとう」


凡太のお礼を聞いた後、少し呆れて笑うようにアイが話す。


「…仕方なくというのは少し違います。この修行期間に私は救われています。ここで修行をしている限り、弱い私にも存在意義がまだある。だけど、この期間が終わった後、私はノーキンに敗北し、弱くて惨めな役立たずに逆戻りです…」


かける言葉がないといった具合に黙り込む凡太。

アイはさらに話を続ける。


「物心ついた時から兄さんと比べられ、弱いだの使えないだの散々言われてきました。兄さんはそんな私を見限るどころか、いつも気を遣って励ましたり、助けたりしてくれます。助けられたらこちらも助けなくちゃって、今まで必死で努力してきました。それでも差は開くばかり。私は兄さんより弱すぎたのです! 弱い奴は誰にも必要とされない! 私に存在価値はない、居場所なんてどこにもないんです!」


アイの大きな自己嫌悪の叫びと共に訪れる沈黙。

このまま空気が沈黙に支配されるかと思われたその時、


「ぷ…あっはっはっは!」


沈黙は破られたが、悪い意味で空気を破壊し爆笑する凡太。

呆気に取られるアイ。凡太は一通り笑い終わると、すぐに話し始めた。


「いやー急にごめんね。そうかー弱いと存在しちゃいけないか」

「そうです! 弱い奴には居場所なんてどこにもありません」

「そうか、じゃー君にはまだ居場所あるじゃん」

「・・・?」

「俺は君より遥かに弱い。だから、俺がいる限り君の居場所は絶対になくならない。…あれ? でもその場合、俺の居場所はどこにもないわけで…どうしよう」


(この人、何を言っているの?)


アイが呆然とする中、話はまだ続く。


「ともかく、今の俺には君の力が絶対に必要だ。だから頼む。勝手に居なくならないでくれ! どうか俺を助けて下さい! お願いします!!」


凡太はなりふり構わず全力の土下座を披露した。

多分今まで見てきた中で一番情けない土下座だ。

そんなシュールな状況に耐えられなくなり、アイが吹き出す。


(この男を見ていると今までの私の悩みなんて全部馬鹿馬鹿しく感じるわ。なにせこんな私の馬鹿な悩みを吹き飛ばすくらい馬鹿なものを見られたから)


アイが一頻笑い終えると、さっきの返答をした。


「…ったく。しょうがないですね。あなたのようなどうしようもない人を助けられる人間など限られていますし、今回は特別に助けてあげます」

「ありがとうございます! アイ様!」

「様はつけんな! 気持ち悪い」


振る尻尾がなかったのでエアー尻尾振りをするようにアイに従順になる凡太。

そしてそれを飼いならすアイ。

ここから、2人の主従関係(?)が始まったのであった。



午後からの修行は二人とも変なテンションだったがアイはこれまでの停滞感が嘘のように張り切って新技練習に取り組んでいた。


そして、今日の修業が終わり、帰路でふとアイが尋ねる。


「ところで責任は取ってくれるんでしょうね?」


(責任? ああ、修行で成果が出なかった時の責任か。そんなの決まっている)


「もちろん、お任せあれ」

「何いい気になってんの? キモ」

「てへっ」

「やめろ、更にキモイ」


~~~


「おかえり、アイ」

「ただいま!」

「お、今日は何か元気だな。修行でいいことでもあったのか?」

「…別に何も。ちょっと馬鹿をいじめていただけです。お風呂にも入って来たし、疲れたからもう寝ます。おやすみなさい」

「おやすみ」

(馬鹿ってボンタさんの事か? 何があったんだろ? それにしてもアイが元気になってよかった。元気になった要因は考えるまでもないな)



ベッドにうつ伏せになるアイ。

今日の事を思い出していた


こんな私に居場所をつくるために自分の価値を下げてまでつくり出そうとした男。

私を必要だと頭を下げてまで懇願した男。

その男の土下座姿を思い出し、また静かに笑う。


最後には私の居場所を維持するための責任を取ってくれるとまで約束してくれたのだ。それはつまり私と何があってもずっと一緒にいてくれるということに他ならない。

だからこそ、あの男を私が何としても守り抜くのだ、私の居場所を守るために。


「本当に責任とってくれるんでしょうね?」


寝言のようにそっとつぶやく。

そして幼少の頃以来の安心感に包まれ、眠りに落ちていった。



~~~


神役所、休憩所にて。


「本当に責任とってくれるんでしょうね?」

モニターから聞こえるアイの言葉にあの上司が急に暴れ出す。


「この男の物語にそういう要素はいらないんだよ。もっと泥臭くなれよぉ! 熱い展開よこせよぉ!」

「はいはい。モテない奴の僻みは見苦しいので、家に帰ってからでも一人でこっそりやってください。目障りなんで」


漢展開を希望する上司とサバサバと切り捨てる部下。


「よし、隕石だ。隕石を奴の上に落そう。どうせ奴の命は無価値と判断されているのだ。AIからの罰則はあるまい…」

「罰則はないだろうけど、神様失格だからその行為。いい加減目を覚ましやがれ、この僻みクソ上司」


 バシッ!


部下の強烈なハリセンの一発で我に返る上司。


「ん? 私は今まで何をしていたんだ…?」

「平さんの今後の行動予想について話していましたよ」

「そうだったか。修行も前半が終わろうとしているが、未だにサムウライの村人全員を弱体化させる策の片鱗すら見当たらない。彼はこのまま力押しで終わらせるつもりだろうか」

「案外もう仕掛けてたりして?」

「それはない。今の所両村平和な日常が続いているし、どちらの村人も元気だ」

「まぁ今後に乞うご期待ってことですね」

「そういうことだ」


キーンコーンカーンコーン


今日は呼び出しベルではなく、定時終了を知らせるチャイムの音が鳴る。


「じゃ、定時なので先あがります。お疲れ様でした」

「おぅ、お疲れ様。…ん? 思い出したぞ。あのような要素は彼の物語では――」 バシッ!

「だから、家帰ってからやれって」


こうして神役所の1日は久々の定時で終わった。

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