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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第2章 サムウライ村救済編
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第24話 ショックな全力

ショック療法という言葉がある。沈滞した相手に強烈な刺激を与えることで奮起させる荒行事療法だ。今回凡太がアイに仕掛けるのはこれだろうが、“強烈な刺激”が謎のままである。ところが彼はこの謎を解き、これから何か行動を起こすようだ。


「ところでレオって案外弱くね?こんなカスが修行してもノーキンには一生勝てねーよ」


凡太による突然のレオへの罵倒。

アイは小刻みに震え、モーブはモブ化。


対するレオは、


「よくぞ言ってくれました!確かに僕なんかがどんなに修行しても勝てないでしょう。情けないったらないですね」


笑顔でこの応答である。表情に余裕、そして自身に大きな度量がある。

さらに凡太の罵倒が続く、


「自覚してんのか。だったらなんで毎日訓練してるの?馬鹿なの?雑魚が何やっても無駄なんだよ。無駄な努力をして時間を無駄にするくらいならサムウライに今から行って命乞いでもしてきやがれ!」


自分の弱さを肯定するように笑顔で頷くレオ。


この空気は異常である。


さすがのモーブもモブ化が解けそうになったその時、

さっきまで小刻みに震えていたアイの刻みがさらに大きくなった。

そして、今まで溜めた怒りをすべて吐き出すように一言、


「お前!!いい加減にしろよ!!」


その声は広場中に響き渡るほど大きく、周りの静寂を一瞬で消し飛ばした。

これにはレオがかなり驚いていた。今までにこんな妹を一度も見たことがないといった表情だ。


そんな中、火に油を注ぐが如く、

「加減?しないよ?だって事実だもん。あんたも不幸だよなぁ、こんなに弱くて情けない兄を持って。もしかして世界で一番不幸なんじゃね?」


ガソリン投入、そして大炎上。

アイの顔は真っ赤になり、体もわなわなさせ、今にも何かが噴火しそうだ。


それを楽しむように凡太が最低な一言、

「こんな雑魚兄貴、生まれてこなければよかったのにな」


瞬間、スタート合図がされたかのようにアイが凡太の目の前へ高速移動。

アイは以前ノーキンが凡太に向けて放った全力の一撃と同じモーションで右拳を大きく振りかぶって捻りをくわえている。

レオ、モーブが慌てて止めに入ろうとするが、時すでに遅し。


ボグォッ!!


鈍く砕けるような音。凡太の左頬にアイの全力の一撃が放たれた。凡太はそのまま右方向へ吹っ飛び、地面を右回転しながら倒れた状態で停止した。吹っ飛んだ距離は52m、世界人間遠殴打記録暫定1位である。


急いで凡太に駆け寄るレオとモーブ。息はかろうじてあった。急いで回復魔法を使う2人だがダメージが大き過ぎて応急処置のような簡易的な回復しかされなかった。左顔面と顎の骨折などは完治されたが頬腫れは引いてなかった。


一応意識があった凡太は二人に、

「ふぁりふぁとう(ありがとう)」

礼を言う。


そしてそのまま立ち上がり、アイの方へ向かい歩き出した。


アイはあの一撃を放った時、無我夢中だった。そのため現在の状況が把握できず、脳内で記憶の巻き戻しをしていた。

そして思い出す。

自分が怒りに身を任せて凡太を本気で殴ってしまったことを。


(しょうがないじゃない。あんなにひどいこと言った奴だもん。殴られて当然よ!)


開き直ったかのように自分の正当性を訴えるアイ。

そんなアイの下に、頬を腫らした男が笑顔でゆっくりと歩いてやってくる。


(怖い!)


アイは本気でそう思った。そして殴られた仕返しに何かするつもりだと考えた。

男はアイの目の前に来た。そして、右手を振り上げる。


(来る!)


防御態勢に入るアイだったが、振り上げた右手はアイの左肩へポンと乗った。


「フェンフョクファフェフェフォファファフェ(全力出せてよかったね)」


その一言だけを残し、凡太は去って行った。


防御態勢の緊張の糸が切れ膝からペタンと崩れ落ちるアイ。

しばらくの間そのまま呆然と沈黙した。


この後は、凡太のダメージもあり修行はお開きとなった。


凡太の怪我はモーブが村人達に回復魔法を使うように駆け回ってくれたおかげで無事完治した。

献身的にしてくれたモーブに礼を言い別れた後、自分のテント内で今日の思い出に浸っていた。


 抑制をはずすには怒りが一番。その為には対象の一番嫌がることをすればいい。そう思って、浮かんだのがアイの中のレオの存在。最も尊敬している兄がボロクソに言われているのを聞いていれば、怒りでくだらないこと(他人の期待に応えること)を考えている暇がなくなる。その相手が憎くなって攻撃衝動が大きくなる。後はそのまま煽り続けていれば、自然な流れで本来の力(全力)が出せるという具合だ。一回でも全力を体感できれば、今のは全力に近かったとか、これは少なすぎるとかって脳が自動で判断してくれるから、格段に改善しやすくなる。


(それにしてもレオ君には驚かされた。悪口を言わないような人が急に言い出したらフリーズして返答に時間がかかったり、悪口に対して素直に反応するかのどちらかだ。ところが彼は一瞬でこちらの意図を汲み取り、話を自分の評価が下がる方へ合わせてきた。頭の回転も早いし、自分が侮辱されても目的遂行の為、期待通りの応答に徹する器量の大きさと冷静さ。おまけにイケメン。俺が勝てる要素は一つもない。もし、この異世界で物語をつくるとしたら主人公はレオ君1択だ。

 これで間違いなく未来永劫アイさんに嫌われ続けるだろうが、無能で無価値な男が嫌われるだけだから誰にも迷惑かからないし問題ない。これでアイさんはようやく自分の為に一歩を踏み出せたわけだ。よかった、よかった)


アイの成長する姿を想像して幸せになる凡太であった。


~~~


ここはレオ、アイの住む2LDKの木造の家。


「あーイライラする。本当にあいつ嫌いだわ」


アイの怒りは続いていた。


「兄さんも兄さんだわ!ヘラヘラし過ぎよ。あんな男に気を使う必要なんてないわよ」

「う、うん。ごめん」

「なんで兄さんが謝るのよ。謝るべきはあの男なんだからあの男が謝ればいいの」

「は、はい」

「今日はもう寝る。おやすみ!」

「おやすみ…」


あのおしとやかなアイの姿はどこへやら。完全に何かが吹っ切れた様子だ。

そんなアイの様子をみて少し嬉しくなるレオ。


「あんなアイの姿は子供の頃以来だ。懐かしいや」

アイも昔は元気で明るい子だった。それが現実を知り、兄との差を知ることで変貌していったのだ。


「僕が何年かかってもできなかったことをたった数分でやってしまうなんて。バンガルさんの言う通りとんでもない人だったな。フフッ」

そう言って頬を腫らしながらしゃべる凡太の姿を思い出し笑ってしまう。


本当は自分がアイを変えてやりたかったと少し悔しくなっていた。不幸なことに、アイの劣等感の原因であるレオがどのような奇策を使おうとも打ち消されてしまう。尊敬されるレオだからこそレオが何をやっても肯定されるからだ。しかし、今はそんなことどうでもいい。妹が昔の姿を少し取り戻してくれた。その少しの満足感を胸にしまい、レオも就寝した。

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