第22話 全力テスト
大ギャップを感じたアップの後、すぐさま本日のメインイベントを開始する。
一応トレーニング目的や内容、効果については3人には話してある。
「今から全力を出すテストをします。全力を出せれば、合格。今日の修業はこのテストだけなので、合格したらあとは自由にして結構です」
「そんな簡単なことでいいのか?」
「はい。なお、“全力”は心拍数と呼吸のピッチ、その他の疲労の様子から判断させていただきます」
「分かった。それでは始めようか」
指導者口調の凡太とモーブが勝手に話を進め、レオ・アイは少し出遅れた感じでタバタ式の開始前の心の準備に入る。
「3、2、1、はじめ!」
凡太の号令で各自スタート。
凡太の1セット目はマウンテンクライム(剣振りが素早くできなかったため凡太だけ変更)。
四つん這いになり足を地面と平行に交互に上げていくものだ。
リズムカルに足を前後させに、足の回転数上げられるだけあげていく。
1セット目は乳酸もたまっておらず、呼吸も余裕なため結構回転数をあげられるものだ。
「10秒休み!」
全員まだ1セット目なので少し息が上がる程度のやんわり呼吸ピッチだ。
全員の心拍数は160くらいでまだまだ序の口だ。
「2本目。3、2,1、GO!」
2本目は反復横跳び。地味な種目だが本気でやるとめっちゃきつい。
これもただ、往復回数を増やすことだけに全神経を集中しやり切る。
「10秒休み」
心拍数170前後。ちょっとずつ上がって来た。それと対になるように呼吸のピッチも速くなる。
そしてここからの3~6セット目がこのトレーニングの山場だ。この辺りのセット数では中だるみしやすく危険だ。最後までやりきる為に、脳が残りの体力配分を考慮して体力を温存しようとして力を抑えようとするのだ。これでは全力でやるこのトレーニングの理論と効果が破綻してしまう。だからこそ、このセット区間が一番の踏ん張りどころなのだ。ちなみに最後の7、8セット目は終わりが見えていることもあり、意外と出し切れたりする。
こうして3~6セット目、そして7セット目をこなしていく一同。
心拍数180。呼吸のピッチもかなり速く、苦しいが出し切れていない。まだ7割といったところか。
人それぞれで60~100%の強度感覚の目安が違うだろうが凡太はこうだ。
60~70%:呼吸やや速め。なんとか会話可能。
70~80% 呼吸ピッチ速い。苦しい。会話無理。
80~90% 呼吸はしているが、酸素を取り入れられていない感覚。疲労が蓄積する感じ。
90~100% 感覚が薄まり、視界が狭く真っ白になっていく感じ(酸欠状態)
1000mインタの3本目500m地点くらいで80~90%は体験可能だそうだ。
「ラスト。3、2、1、そいや!」
ラストは2週目のジャンプスクワット。ここまでくると乳酸で足がふにゃふにゃした感覚になって力がまるで入らない。さらに、10秒の休憩が一瞬で終わったように感じ、休憩中もずっと息が激しく上がっている状態で回復しきってないまま動く形になる。筋肉、体力、呼吸すべてを使い切っている中、気力と根性でそれらを強引に動かすしかないのだ。
あまりのきつさにタイマーをちらっと見る凡太、
(まだ5秒しかたってねぇ。1秒が死ぬほど長い)
タイマーを見ると余計に時間がたたない苦しみを味わうと思い、ここからは無心でタイマーアラームを待つ形に。
3、2,1,ピー!
「終了!お疲れさんっ!」
膝に手を置き呼吸が全然整わない中、終了合図を出す凡太。
心拍数は185だが、苦しいだけで息が吸えている感覚があったので80%以上はいってないと判断し、落ち込む凡太
(くそー失敗か。まぁそう簡単にいかんのもこのトレの醍醐味よ。そういえば、皆は?)
そう思い。3人の様子をみる。
レオは心拍数190。呼吸ピッチは凡太と同じくらいで腰に手をやり荒い呼吸を整えていた。モーブも同じような感じだ。
アイは心拍数175。呼吸のピッチは少し早い程度でしっかりと立ち、そこまで疲労困憊の様子は見られなかった。
そして、テスト結果を報告する。
「全員不合格です。10分休んだら今度は剣振り1セットだけやってみましょう。あと、やってみてどうでしたか?」
「全力だと思っていてもまだ出し切れてなかったと自覚できてよかったです」
「俺もだ。まだまだ鍛錬不足ということが知れてうれしく思う」
「私は全力とは程遠くて…がっかりしました」
ここで3人が簡単に合格した場合、凡太の精神崩壊が始まったことだろう。3人の反省を聞いて自信を取り戻した凡太が教師ずらして次の質問を投げかける。
「全力を出せない原因はなんだと思いますか?」
「努力不足とか?」
「いえ、その逆です。努力のし過ぎが原因なのです」
「というと?」
「努力量を増やすというのは一日の鍛錬時間を増やすということ。そうなると脳はこの一日を乗り切ろうと体力温存の為、体力の抑制をします。このようなことが続けば、鍛えるための鍛錬が、余力を残すための鍛錬に目的がすり替わってしまうのです」
「なるほど。つまり、本気をださない為の鍛錬をしていたってことですね」
「その通り!だから本気…全力を出す練習をしたいなら時間を短くして温存の必要がないような状況にしておくことが大事なのです」
「それで最初に“今日はこのテストだけ”というニュアンスにしたんですね。納得しました」
「そ、それはよかったです」
(このイケメン、理解早過ぎて怖いんだけど)
レオが有能過ぎて引く凡太。
そうやって会話している内に10分経過し、再度1セットだけ行った。
レオ、モーブは何か掴めたようで先ほどよりも少しだけ追い込めているようだった。
そんな中、アイの剣振り後の結果はあまり変わらない
(やはりアイさんだけ全力を出し切れないでいるな。全力を出したいんだけど今の状況で集中しきれない。それが嫌で何とかしたいと思っているけどどうしようもないから闇雲にとにかく振る、そんな感じだ)
凡太は全力振りの後にレオの方を見るアイの姿を見て考える。
(自分の為に修行をするというよりもお兄さんに認められたいがために修行しているのだろうか。もしそうだとすると、お兄さんにアピールすることが目的になっているからいつまでたっても自分の全力には集中できないぞ。こりゃ重度の劣等感病だな…)
凡太は深刻そうな顔をして、アイの方を見た。
(アイさんは俺に似ている)
そして静かに昔を思い出す。




