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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第199話 静かに近づく戦の影

「そういうことか…」


 3人のやり取りをみてデンが何かに気づいた様子。


「やっと気づいたみたいだな。そう…。普通はこんな時に言い争いになることをふっかけて、ふざけるなんてどうかしていると思うところ。死力を尽くして疲れ切っているところに割り込まれたらたまったものじゃない。でもこんな張り詰めた時だからこそ少しの精神的休息が必要。タイラさんは自分からふざけることで2人の緊張をほぐして精神疲労の回復をはかったんだ。そのおかげで2人の士気も回復して更にうちこみ量が増加した。彼の行動によって事態は好転したんだよ」

「その通りだ。お前の言う通り無意味でなかった。それどころか2人の精神的主柱のような役割を担っている。お荷物ポジションだった人が、実は最重要ポジションだったなんて…まったく、とんでもない人だよ」


ドンは満足そうに頷きながらデンの話を聞いていた。どうやら兄弟は評価されたくない人間をしっかり評価してしまったらしい。


 3人の健闘は続く。

 しかし、特大気弾はジワジワと3人に近づき、残り10mのところまできていた。


「そろそろ本気で逃げる事を考えないとやばい距離だぞ。なのに、あの人達ときたら一向に逃げる素振りを見せない。自分達なら打ち消せるという絶対の自信があるのかな?」

「自信のある人達があんな余裕のない顔をするか?五分五分かもしくはそれ以下の成功確率の中やっているのだと思う」

「ギリギリ過ぎるだろ…。こんな死と隣り合わせのものの、どこが遊びだよ」


 兄弟は称賛しつつドン引きするといったことを器用にこなす。そして、激しく息を切らしながら歯を食いしばっている余裕のない3人の無謀な勇士を目に焼きつけていた。

 

残り5mのところでようやく特大気弾が消滅。その瞬間、地面に倒れ込む3人。呼吸は荒いままで体のどこにも力が入っていない様子から、出し切った状態であることが容易に分かる。兄弟は「打ち消しやがった…」「凄い…」と驚きと称賛が混じった表情で口をパクパクさせていた。

3分ほど経った後、凡太が口を開く。


「いい感じで出し切れたから今日はこの1本で終了にしたいんだけどいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「僕も構わないぞ。まだいけるけど、雑魚の君に合わせてやろう」

「はいはい。じゃあ今日はもうお開きって事で、お疲れ様でした」

「お疲れ様です」「ふん。別に疲れてはいないがな」


 3人が帰路に向かい解散していく。残された兄弟は唖然としていた。


「聞いたか?」

「ああ。確かに聞いた。“今日はこの1本”ってことはいつもならもう何本かしているってことだろ?あんな地獄のような修行、一日に何本もできるものじゃないよ。あの人達、やっぱり頭おかしいよ!」

「俺もそう思う。今回の偵察ではっきり分かった。俺達が彼らの修行に加わるのは無理だ。参加すればおそらく数日…いや当日に疲労で死んでしまうことだってありえる。強くなる為の修行参加は諦めて別の方法を取ろうと思うのだが、いいかな?」

「賛成。俺も絶対に無理だと思っていたから代弁してくれて助かったよ。別の方法ってどんなの?」

「今回、観察だけで色々と学ぶ事はあった。だから修行に参加せずとも教養を得ることは可能と考えた。よって、彼らの近くに自然な感じで居ることができて、かつ修行に強制参加しなくてもいいようなポジションに入る事がベストだ」

「でもそんな都合のいいポジションなんてあった?」

「それがあるんだよ、1つだけ。今急にそこに入っても不審がられるかもしれないから、丁度いいタイミングを見計らって入るつもりだ」

「了解。ドンに任せるよ」

「ああ」


 こうして兄弟の次の計画が静かに進行したのであった。



~~~



 ここはラコン王国から遠く離れた異郷の地。誰も開拓していない森の中に開けた場所が一か所あり、ポツンと木造の家が建っていた。そこがメサイヤの根城だ。

 部下が数名来る程度でほとんど来客はなかったが、今日は珍しく誰かが来ていた。


「天王様からの伝言。『王国をさっさと滅ぼせ』だって。急いでね」

「分かった」

「本当に分かっていますか?また悪い癖が出て長引かせないようにお願いしますね」

「はいはい」


 メサイヤの悪い癖とは弱者を甚振りその姿をみて楽しむこと。メサイヤとは100年以上付き合いのあるアネとシスは当然それを認知していた。


「あと一応忠告しておくけど、最近イコロイがあの王国の人間とつるんでいるから気をつけた方がいいわよ」

「それ本当か?つるんでいる奴は相当強いのか?」

「いいえ、全く。この前戦ったけど身体能力は低いし、強い攻撃も使ってこなかったから大したことないわよ。でも攻撃をかわすのだけは無駄にうまいから鬱陶しいかもね」

「それを聞いて安心した。しかし、奴の魂胆が分からない。自分が後でおいしくいただく為に、つるむのは大抵自分の脅威になる可能性のある勇者かその候補で実力者だったはずだ。それがなんでそのようなつまらなそうな人間とつるんでいるのだろうか?」

「そんなの知らないわよ。あいつの考えることは意味が分からないことが多いもの。それより、イコロイがもしこちらに反抗してきた場合の対策はできているのかしら?」

「ああ、大丈夫だ」

「なんだ、つまらないの。泣いて懇願したら助けてやろうと思ったのに」

「期待に応えられなくてすまんな」

「ふん。じゃあもう帰るわね。行こうシス」


 シスが軽く会釈し、天使達は去っていった。


 しばらくしてからメサイヤが1人呟く。


「イコロイは強すぎる。倒すのは不可能だ。ならば……」


 真剣な表情でこう続ける。


「倒すの諦めてに放置プレイしちゃおっと」


 真剣な表情だが、軽いノリで言うメサイヤ。

 思考がよく分からない悪魔である。

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