第196話 フリーズ兄弟
ドンはここ数カ月伸び悩んでいた。そんな時にランキング戦でのジョウの活躍を耳にする。現在ライブラリーセンターでジョウの試合映像の視聴中だ。
(以前と比べ格段に動きが良くなっている。これでは次にやったとき負けるかもしれないな)
今のジョウの質力をみて感心するもその矛先が自分に向いた時の事を考えて少し不安になった。
(くそっ、俺も強くなりたい)
家に帰りその不安をデンに愚痴る。
「ってなわけで、ジョウはかなり強くなっていた。しかも数カ月で急に強くなっている。この成長スピードは驚異的だ。やはりタイラさんの試合をきっかけに何か掴んだとみて間違いない」
「そういえばその試合後すぐにジョウはタイラさんに弟子入りしたらしいね」
「ということはタイラさんに弟子入りすれば俺達も強くなれるという事か?」
「タイラさんは快く受け入れてくれるだろうか?ジョウをあれほどまで強くしたんだから、相当熱を入れて教えているに違いない。そこへノコノコと入っていても鬱陶しがられるだけかもしれない」
「ならどうする?」
「弟子になったという事はどこかで一緒に修行しているはずだ。まずはそれの様子を見に行こうか」
「そうだな」
こうして2人はジョウの修行をこっそり見に行くことを決めた。
夕方の公園にて。茂みの中ではすでにガーシェ兄弟がスタンバイ。
凡太とジョウが揃ったところで修行が始まった。
まずはアップを15分ほど。アップ中雑談がてらアドバイスの様な内容の事も話す。アップが終わった後すぐに的当て訓練に入る。的の数は2個で、3回成功させてから次の修行に入る。ジョウの顔は真剣で緊張感は解けないような状態だったが、動作自体は力みが無く毎日やりなれている感じが出ていた。それを凡太が『ジョウの実力的に2個は余裕過ぎて見ていてつまんねー。なんで3個でやんないんだろ』と気怠い感じで眺めていた。
2人にとっては何の変哲もないつまらないいつもの光景だったが、ガーシェ兄弟は違う。
「何だあの的の動きは。現れたと思ったらすぐ消えてまた別のところから…。速すぎて目で全く追えないんだが…。しかも何か気弾までうっているし」
「あの気弾の威力もなかなかだぞ。当たった木の表面が深くへこんでいるくらいだから、生身の体に当たれば痛みで悶絶するだろう。速さといい、攻撃といいなんて恐ろしい的だ…」
「全くだよ。だけど本当に恐ろしいのはそれをものともせず回避し続けるジョウの方だ。どうしてあの気弾をかわせるんだよ?しかも2個分だぞ?」
「ああ、ありえないよな。1個の対応だけでも無理そうなのに。ん…?」
「どうした、デン?」
「何でもない」
「何でもないわけないだろ?」
「まぁそうなんだけど、ドンは知らない方がいいと思う」
「その言い方は余計に気になる。話してくれないか?」
「しょうがないな。覚悟して聞けよ」
「ああ…」ゴクリと唾を飲む。
「ジョウはあれを回避しながら気弾をうっている」
「はぁ!?」
それはありえないと思ったドンが急いで的当て中のジョウの様子を観察する。
そして気づく。
「本当にうってる…」
ドンは開いた口が塞がらないままフリーズ。
それを見たデンが「やっぱりこうなった。だから言うのは嫌だったんだよ」とため息をついた。
デンはドンを放置してなぜジョウがあの的に対応できるのか考える。
デンはジョウが普段から規格外の過酷な修行をしているのを知っていてその内容も粗方把握していた。誰にもマネできない様な過酷な修行をこなして身体能力を極限まで高めたからこそ的の速度に対応できたのだと推測する。
「そういえば、あの的はどこで売っているのだろう?市場ではあんな修行器具見たことないし。ジョウに合わせて作った特注とかかな?」
的の異常性能に対抗できるのは高い身体能力を持った者だけ。使用者が大分限られているからこそそのような推測をした。
デンが的についてあれこれ考えている間にジョウは的当てを3回成功させた。
デンが「次はどんな修行をするんだろう」とワクワクしていると、ジョウと入れ替わる様にして凡太が的の側に行った。バックからシレっと的をもう1個取り出す。
デンが「的を3個にして何をするつもりだろう。動作確認かな?」と軽いノリで考えていると凡太が予想外の一言を発した。
「いっちょやるか」
「は…?」
デンはスライム戦の映像を観ていたので凡太の回避能力の高さを知っていた。しかし、それを踏まえて考えても、あの凶悪な的の速さに対応できないと判断した。記憶内で比較したらスライムより的の方が速かったからだ。そしてそれが1個でも2個でもなく、3個となれば限りなく不可能に近い挑戦…というよりただの自殺行為とすら思えた。
「あの人は何がしたいんだ?どう考えてもあの的にボコボコにされるだけだろ?」
デンの疑問が膨らんでいく中、凡太の的当てが始まった。的はデンの予想通り凶悪な速さと凶悪な攻撃を仕掛けていた。しかし、ここで予想外のことが起こる。凡太が的の凶悪な速さはなかったが、予知したかのような動きで全て紙一重で光線をかわしていったのだ。さらにこの凶悪な速さに対抗した凶悪な動きによって得た少しの余力からかわしながら気弾を放って見せた。
「に、人間ができる動きじゃない…」
デンはこの光景を見れば見るほど訳が分からなくなっていく。そしてこの的当てが終わる頃にはドンと同様にフリーズ状態になってしまった。