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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
195/355

第195話 ポーカーフェイスの先にあるもの

(この状況、やれることは限られている。シーさんの妨害に注意しつつノッケンを打ちこむ。なんて単純で分かりやすい攻撃なんだ)


 自身のこれからの行動を皮肉りながらも、やることが簡略化されごちゃごちゃ考えなくていいようになり思考と体が軽くなった。

 そして再びノッケンサイクルが始まった。負傷しているというのにそれを感じさせない動き…というより負傷前と全く変わっていない。シーは『ダメージの痛みを精神力で抑え込んでいるのか。なんて奴だ』と思いながら防壁を展開。先程の様に足元へ壁を仕掛けるもすぐに回避され、冷静に対応された。


 10分経過。

 ジョウの呼吸のピッチは早くなっていたが、サイクルのペースは全く変わらない。このジョウの気迫のこもったノッケン連打により、シーは防戦一方になっていた。が、シーは相変わらず余裕の表情を崩さなかった。それらの様子から会場に居る誰もがこのまま制限時間まで試合が続くと予想した。

 ところが、1分後予想外の事が起こる。なんとジョウが前のめりで急に倒れたのだ。5秒待っても何の動作も起こさなかったので、審判が慌てて駆け寄り確認すると気絶していた。こうして試合はシ~の勝利で幕を閉じた。

なお、ジョウはこの後すぐに病院に運ばれた。あばら骨が5本折れて内臓に深く突き刺さっていたとのこと。医師は「こんな状態じゃ激痛で力が入らないだろうし、動き回れるはずがありません」とその状態で試合を続けていたことに疑問を持った。


 一方、勝利したシーはというと試合後すぐに病院に行った。ジョウの見舞いかと思われたが、そうではない様子。

医者に診察してもらい。とんでもない事実が発覚。なんとシーのあばら骨も折れていたのだ。しかも6本。試合中はずっと余裕の表情のままだったのにいつ骨折したのだろうか。それを明らかにする為、少し時間を巻き戻す。



~~~



 ノッケンサイクルが始まり5分経過した頃。

 何の変化もなく繰り出されるノッケンだったが、シーはわずかな違和感を覚えた。


(少し…ほんの少しだけノッケンの威力が上がっている気がする)


 壁を破られた後、シーの腹部に小石が軽く当たる程度の感覚があった。本当に微々たる感覚に気のせいであることを信じるも、次…その次のノッケンでも同じ感覚が発生。しかもその感覚は回数を重ねるごとにはっきりとしていった。

 さらに3分経過した頃。先程の違和感が本当であったと認識する。

 シーの腹部に軽く殴られた時の衝撃が伝わってきたのだ。


(気のせいではなかった。このままではまずいな)

 

 シーは自身の防御魔法を磨こうとするあまり、回避技術の鍛錬を怠っていたので、回避はそれほどうまくなかった。それとジョウの攻撃サイクルが早いというのが大きな理由としてある。さらに時間が経過するごとに技の威力だけではなく速度の方も少しずつ上がっていたこともあり、回避は無理だと結論付けた。


 さらに1分経過。

 シーの腹部への衝撃はさらに増していた。

 今や大きなハンマーで思い切り殴られたときのような重い感覚に変わっており、深刻なダメージが蓄積していった。大体この辺りからシーのあばら骨にヒビが入り始めたと推測される。

シーは激痛を感じながらも一向に余裕の表情を崩さない。


(俺が少しでも弱みをみせて苦しんだ様子をみたら天国のあいつはどう思う?きっとまた自分が身代わりになろうと思うだろう。そんなこと2度とさせない。痛いから痛がる?苦しいから苦しがる?ふざけんな!そんなことではあいつが笑って見ていられないだろうが!)


 激痛を己の精神力によって鎮圧する。まさに精神が肉体を凌駕する瞬間。あの世の妹を安心させたい一心でシーもジョウと同様にやるべきことを限定し、集中モードに入る。


「何発でもこい…。全て受け切ってやる」


 たとえ自分が死んでも表情は絶対に崩さないといった目的を達成するためにすべてを投げ出すスタイルに変化した。シーの余裕の表情に気迫が追加される。ジョウは一心不乱状態だったのでそれに気づかなかったが、審判はその凄まじい圧に気づき身震いした。

 

 こうしてお互い精神力をフル稼働させながら1分が経過。


ここでジョウが気絶する。


 この気絶により戦闘続行不可能とされてシーが勝利したわけだが、30分続いたとしてもおそらくシーの表情は崩れなかったので、ダメージが無かったと判断されシーが判決勝利しただろう。



~~~



 観客席にて。凡太とアイが会話中。


「途中からジョウのノッケンの速さと威力上がっている感じしなかった?」

「よく気づいたな。その通りだよ」

「やっぱりそうだったのね。なんで負傷したのに強くなったのかしら」

「多分、負傷したことでやれることが減って、やるべきことが限定されたおかげで頭がスッキリしたからじゃないかな。あの後からジョウの緊張が解けて動きもスムーズになっていただろ?」

「言われてみれば…」

「あと、あいつは尻上がりだからもし制限時間いっぱいまで戦えていたら結果は変わっていたかもしれない」

「へぇー。でもシーさんはずっと余裕そうだったからその可能性は低くない?」

「余裕ではなかったと思う。確かに表情は変わってなかったけど試合開始直後の頃より若干体の動きが強張っていて耐えている感じがしたよ」

「そんなの良く分かるわね」

「観てれば意外と気づくものだよ。表情に出さないのを続けるって難しいことだし、シーさんの精神力は相当なものとうかがえる。そう考えるとやはりシーさんの逃げ切り勝ちの可能性の方が高そうだ」

「勝ち負けはどうでもいいんじゃなかったっけ?」

「結果はな。予想は関係ないでしょ。ほら、こんな話してないで早くジョウの見舞いにいこう」

「コラ!…まったく、逃げ足だけは早いんだから」


逃げ出す凡太をアイが追い、すぐに捕まえる。

凡太は足を使っての逃げ足は遅かった。

しかし、話題はシレっと変わり明日の仕事の話になっていたことから、会話の逃げ足は早いようだ。

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