第19話 ムサシマルの苦悩と贈り物
ここはサムウライ村、ムサシマル自宅の居間。10畳の畳部屋だ。
ムサシマルとノーキンが偵察隊長から凡太とアークのガンバール村での騒動の報告を受けていた。
「…以上です」
「うむ、わかった。報告ご苦労であった」
「はっ!」
隊長は返事をすると、再び任務へ戻っていった。
「試合の相手はアイ殿か。パウワとの力量差は歴然。故にこの3カ月という期間は怖いな。力量差を埋める為、確実に向こうは何か仕掛けてくるに違いない。決して油断してはならぬぞ」
「御意」
どんな相手でも慢心しないムサシマルの姿勢にノーキンがいつも通り関心したところで話題は変わり、
「それにしても、奴の横暴ときたらひどいものよ。バンガル殿に申し訳が立たぬ」
「ですなぁ。そんな中、あの転移者は自身の命を代価にうまくかわしましたね」
「タイラ・ボンタのことだな。前戦は自身を除き、自軍の負傷者は無し。さらに我が軍までも負傷者無しで終わらすというとんでもない芸当をしてのけたのはおそらく彼だろう」
「敵である我らを気遣った可能性がありますね。もしや…」
「うむ。それほどの戦略を練れる男だ、すでに我らがアークに弱みを握られ従わざるを得ない状況になっていることに気づいておるだろう。それを踏まえると恐ろしいな。彼は戦前からすでにそれを察し、こちらが無傷で終わるように戦略を練っていたことになる。かつ、圧倒的な戦力差で不利な状況の中、自身の村も守りつつだ。仮に私が同じ立場だったとして、彼と同じ戦績を挙げられるだろうか、怪しいものだ…」
「ほぅ…ムサシマル殿にそこまで言わせるとは。やはりつまらぬ男ではなかったということでしょうな」
凡太の底知れぬ知略に感心するムサシマル。
ムサシマルを感心させる凡太に感心するノーキン。
彼らの中で凡太への評価と信頼が確実なものになっていく中、急遽先ほどの偵察隊長が戻って来た。
「ムサシマル殿、ノーキン殿!至急村入口まで来てください」
呼び出されて、2人が村の入り口まで急いで行くと、そこには木箱10箱が並べられ、中には包装された大量の今までに見たことがない食べ物があった。食欲をそそる良い匂いを発している。
「なんだ?この大量の食べ物は?」
「そちらのキツネ色の食べ物が揚げブレドーでこちらの黄色い丸い形の食べ物が蒸しブレドー、そちらの棒状のものはジャムブレドーと呼ぶのだそうです。ガンバール村から送られてきました」
「なるほど。これがアークがごねて勝ち取った食べ物か。それもこんなに大量に」
「なお、3か月間毎日この量が村に届くそうです」
「3か月間も?ぐ…またしてもガンバール村に辛い思いを…益々申し訳が立たぬ」
そう言い、ムサシマルが落ち込んでいると、村人がその食べ物を食べていた。
「これうまいぞ!皆も食べてみろよ」
その声にぞくぞくと村人が集まり、試食していった。そしてどの村人も笑顔でおいしそうに食べていた。
「まぁそう落ち込んでいても何も始まりますまい。ムサシマル殿もお一つどうです?」
そう言って、ムサシマルに揚げブレドーを差し出すノーキン。
落ち込む心を慰めるようにそっと一口噛み、味わうムサシマル。
「む…?」
突然何かに気づくムサシマル。
「どうされました?まさか毒?」
「ああ、確かに毒だ。うま過ぎるというな…」
ニヤリと笑うムサシマルに、ホッとするノーキン。
「皆の者!これよりガンバール村から送られてくるこのブレドーは毎日食べよ!廃棄することは許さぬ」
「はっ!」
こうして、サムウライ村の3カ月間3食菓子ブレドー生活が始まった。