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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
185/355

第185話 評価すり替え成功?

(し、死ぬ…)


 ダタンゴ翻弄作戦が始まってから3分しか経過していない。にもかかわらず、この疲労の様子は普通に考えれば異常である。


この異常には理由がある。それを理解するには翻弄作戦の整理が必要だ。


まず“開”状態になるのに3秒。

タダンゴがそれに気づいて高速移動してくるまで2秒。

“開”状態を解除して魔力を放出するのに2秒。

その後ダタンゴがフリーズするのが3秒。


1サイクル計10秒。その内凡太の“開”時間は5秒。また、ダタンゴの優先基準外になるために、レベッカ以下の魔力量になるまで魔力を強制放出するのだが、これも魔力作成時と同様に体力を大きく消費する。よって体力酷使時間は計7秒となる。

休憩はフリーズ時間の3秒のみ。

現在3分経過したという事で19サイクル目となる。このような小刻み高負荷インターバルの場合、3サイクル目くらいで疲労によって力が入りにくくなるような感覚に襲われる(酸欠状態)。本来なら呼吸を整えたいところだが、すればレベッカの身に危険が及ぶので一息つくわけにはいかない。まさにギリギリの状態で時間稼ぎをしているのだ。

大体パワーマックスと同等の負荷ということでアスリートであれば強靭な精神力を持つ為、この苦痛を20分耐えることは可能だ。だが、一般人に少し毛の生えた程度の精神力しか持っていない凡太にはどう考えても不可能だ。現に本人も『どうせ無理だ』とか『もう終わりだ』と思いながらやっている。それでも続けられるのは“まだ体が動くから仕方なく”といった妥協精神とレベッカの為に何とか時間を稼ぎたいという助力精神があるからだ。これによりアスリートの精神力ほどではないが若干の精神耐久性の向上を果たした。


 なんだかんだでこの苦行を5分間耐え抜く凡太。一般人としては上出来だ。

全身の至る所から汗が吹き出し、呼吸はしているが酸素が吸収できている気がしないといった無酸素運動と有酸素運動の境界を行き来するような状態の継続により、当然意識が朦朧としていた。

意識が途切れた一瞬の隙。そこにダタンゴの右パンチが介入する。意識は飛んでいたが、“開”状態だったので無意識下でも虚像探知が発動していたことにより、体はその攻撃に反応することに成功。しかし、不運にもパンチは乱打。両腕を骨折した凡太では当然さばききれない。

 パンチに足裏を合わせる形で地面と平行に後ろに飛ぶ。パンチが当たる表面積を小さくする為だ。衝撃で吹き飛ぶが運よく木には当たらずに茂みがクッションとなって止まる。両足は当然骨折したが、咄嗟の行動により、心臓・肺・脳などの生命活動に最低限必要な臓器の保護には成功した。

 凡太の近くにダタンゴが高速移動してきた。またしても右腕を引いて打ち込む構えをしている。凡太は激痛を感じながらもなんとか魔力を放出し、ダタンゴを一時フリーズさせた。


 フリーズ中に考える。


(激痛で頭がどうにかなりそうだ。あと、疲労感が急にきて体が重い…というより動けない)


 高負荷の運動を5分以上継続していたところで継続していた動作以外の事をするとよくこうなる。例えるならフルマラソン30㎞地点で走るのを止めたらその後勢いよく走り出せなくなったときの感覚(乳酸が蓄積した状態)。それにさらなる激痛が加わったことで集中力が大きく削がれる。


(次の1サイクルが最後だろう)

凡太は静かにそう思った。


 フリーズから解放されたダタンゴが高速移動してレベッカのところへ。

 凡太が最後の力を振り絞り、ダタンゴを呼び戻す。


 いよいよ本当に体が動かなくなる状態まできた。

 やるだけやってそれがあと一歩のところまで来ている事に少し早めの達成感を味わう。彼の顔からはもう生きながらえるという希望は消えていた。


(あとは任せたぞ、レベッカ)


 諦めたような表情で微笑みながら、自分より強く有能な少女に全て託し、死ぬ準備万端になった。


そんな時、レベッカの方から声が聞こえる。聞き取り解読するエネルギーは残っておらず、何を言っているか分からなかったが大体予想はできた。

 

「この勝負は俺の負けだ」


 魔力放出を終え体力を使い切った凡太。フリーズ中のダタンゴを称賛する様に言う。


「だが……」


 フリーズ解放後のダタンゴは機械的にレベッカの下へ。


 空気を切り裂く衝撃音を聞き、男の笑顔の意味が変わった。

 そう、絶望から希望へ――


「その勝負はお前の負けだ」


 この後、体力切れと骨折の激痛により凡太は気絶した。



~~~


 

 数秒前レベッカは凡太に「できたよー!こっちに送って」と言っていた。

 できたのはもちろん集気弾のこと。

 ダタンゴが来る前に迎撃態勢をしっかりとり、ダタンゴが機械的に背後に立った瞬間に気弾を押し当てた。

 集気弾着弾時、ダタンゴは球体内に取り込まれる。そして中を高速回転する気弾によって引き裂かれるようにして消滅した。「ダダダダ……」と自身が乱弾を繰り出すときに発した鳴き声と共に。


 この後レベッカは凡太をおぶってすぐに病院へ行った。複雑骨折が数十箇所と重度の打撲。幸いにも全て重症だったので治癒魔法の効果対象となり骨折と打撲は無事完治することができた。  

完治はしたものの体力は尽きたままなので、レベッカにおぶられながらの退院となった。



~~~


 

帰り道で探索者の2人に会う。


「森の一件は申し訳ない。そして我々を救ってくださりありがとうございました!」

 凄い勢いで頭を下げる2人。

「いいですよ、もう終わった事ですし」少し引きながらレベッカが答える。

その後「なんて器の広さだ」「これが本当に少女の器か?まるで英雄の応答ではないか」と言う2人に対し「大袈裟ですよ」と軽く流すレベッカ。背中で爆睡する男と同様、レベッカも当然疲労していたので内心早く開放してほしかった。


「それにしてもよくぞご無事で」

「そうそう。あんな強敵から生きて帰ってこられるなんて奇跡ですよ。さすがはレベッカさん」

「そんなことないです」(しつこい…)

「いや、そんなこと大ありです」

「ええ、全くもってその通り。我々相手に謙遜する必要はないですよ」

「そうですか。それは失敬」(話長くなりそうだから適当に合わせるか…)

「ところでその男をおぶって逃げて来たんですか?」

「え、えっと…」

 一瞬『私が倒したから逃げる必要がなくなったんですよ』と返答しようとしたが踏みとどまった。世間からすればダタンゴはかなりの強敵であり倒したとなればニュースになるようなこと。さらにそれを少女が倒したとなれば大ニュースになることは必然だ。『そんな面倒な事は御免だわ』と寸前のところで回避したのであった。

 そこまではよかったが、うまい返答が思いつかない。いつもなら切り返せるはずのところが切り返せないのは疲労の為だ。そんな時、ふとあの男がいつもやっている“評価のすり替え”が頭に浮かんだので実行する。


「この人が倒してくれたんですよ」

「嘘おっしゃい」

「え…?」


 レベッカの予想では自分への面倒な良評価は全て凡太にいくはずだった。だが、相手は一般人。察する力が高くないとあの男とそれを結びつけることなどできはしない。


「ということはレベッカさんがダタンゴを倒したという事…さすがだ!」

「ああ、その通りだ。で、倒したとなれば普通の人間なら皆に広めるはず…。だがそうしないのはなぜだと思う?」

「この程度の事、自分にとっては朝飯前だから世間に公表するだけ恥ずかしいってことだろ?分かってる分かってる」

「違います」(何も分かってないんだけど!)

「ご謙遜なさらず。そういうことでしたら世間には公表せずに仲間内だけで広めさせてもらいますね」

「ああ、そうしよう。そうと決まれば早速皆を集めて飲み会開こうぜ」

「了解。それでは俺達もういきますね。今日は本当にありがとうございました!」

「ちょっと待って!おーい!」(盛大に勘違いしてるんだけど大丈夫!?)


 レベッカの制止を聞きもせず、2人は嵐のように去っていった。


 この日以降、探索者の中でのレベッカの呼称は“キノコ狩りのレベッカ”となった。あえて可愛らしい呼称にすることで、キノコ型魔物のマ・タンゴ及びダタンゴを倒したことを世間に気づかせないようにする為の探索者達の配慮である。

 そんなことになろうとは当然知る由もないレベッカは背中で眠る男の得意技“評価すり替え”をくらった感じになり、素直に倒したことを喜べない複雑な気持ちになっていた。

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