第183話 集気弾
「ところでダタンゴも分裂能力があるんだっけ?」
「ええ、あるわよ。でもボンタの念動弾なら問題ないと思う」
「なら粘ればなんとかなりそうだ。ただ向こうも持久タイプなら詰むな」
それを聞きレベッカが残念そうな顔をして黙る。それに気づいた凡太が問う。
「持久タイプってことか?」
黙って首を縦に振るレベッカ。凡太はしばらく思考する。
(さらに強化魔法をレベッカへかけて攻めるのはリスクが大きい。中途半端に強い攻撃では分裂させてしまって状況を余計不利にするだけだろう。それなら……)
「一撃必殺を狙うしかないな。アレでいこう」
「アレって集気弾の事?」
「そう」
集気弾とはその名の通り気弾を集合させることで威力を高めた技である。自身の前にバスケットボールの様な丸い球体をイメージして魔力を練ることで半透明の球体を作成。その球体に向かって気弾を撃ち込むと中で気弾がくるくると内周を回転していく。中が気弾で満たされると半透明が白色に変わり完成する。これを正拳などで押し出し対象にぶつけて攻撃する。威力は強化鉄板を一瞬で粉々にするほどの高威力。欠点として完成に10分ほど時間がかかるということ。また、その間は当然隙だらけになるので誰かのサポートが必要になるという大欠点も抱えている。
元々凡太が念動弾の威力の低さをカバーする技として開発していたもの。定期体液採取で時間が余った時に凡太が練習しているのを見てレベッカも真似して練習するようになった。その練習時、実戦としてマ・タンゴに使って試していた。ちなみにそのとき集気弾を受けたマ・タンゴは一瞬で消滅した。
「レベッカが集気弾をうってくれ。俺の集気弾じゃ威力が中途半端で無駄に分裂させるだけだと思うし」
「えぇ…、でも私2回くらいしか成功させたことないよ」
「成功させたことあるだけで充分だって。失敗してもまたやり直してつくればいいだけなんだから」
「それではダメよ。私が作っている間はボンタが1人でダタンゴの相手をしないといけなくなるから何回も失敗している時間はないでしょ」
「俺がダタンゴに殺される…足枷がなくなってレベッカが逃げやすくなる…強化されたレベッカなら簡単に逃げきれる…助けを呼びに行ける…アイかレイナがダタンゴを倒す…万事解決じゃん」
「最初の時点でダメじゃないの!…やっぱり1回で決めるしかなさそうね。はぁ…緊張するなぁ」
「緊張すんなって。気楽に行こうぜ」
「馬鹿はちょっと黙ってて。ならしばらくの間相手をお願い。頑張ってね」
そう言ってレベッカが抜けたタイミングは丁度ダタンゴの乱射が終わり数秒の小休憩時。
馬鹿であることを自覚しているのでしっかりと黙る凡太は無言のまま親指を立てて答えた。レベッカは凡太の5m後ろで半透明球体を作成し、それに気弾を撃ち込み始める。そのすぐ後に休憩を終えたダタンゴが乱射を開始する。
体魔変換・開を使ってからダタンゴの気弾乱射をかわしていく凡太。かわしきれない気弾はかわしながら自身も念動連弾を放ち相殺させる。こうすることで意外と呆気なくレベッカの抜けた穴を埋めた。それを見ていたレベッカは驚く。
(どうしてあの速さの乱射を一人でかわし続けられるのよ。しかもボンタは自分に強化魔法を使えないんじゃなかったっけ?使えないのにあんな動きができるものなの?)
凡太の無能力者とは思えない動きを見て混乱する。このままでは集中できないと思い、凡太から目をそらして目の前の球体と気弾の打ち込みに再集中する。
(相当速い気弾と量をうってくるけどあの地獄と比べればマシだな)
凡太の言う地獄とは魔改造的当て3個バージョンである。マシに思えるのはダタンゴが高速移動を使う程度で瞬間移動を使ってこないからだ。人間最悪を経験していればいるほど状況慣れしていくものである。そんなわけで凡太も一般人からすれば最悪な状況を妥協しながら乗り越えていた。
一応かわした後余裕ができたときはちゃっかりと連弾をダタンゴに当てる。
こうして10分ほど粘る凡太。レベッカの方は集気弾の作成に慣れていないこともあってまだ作成途中だ。
そちらの方には変化はなったが、ダタンゴの方には変化があった。全身真っ赤に染まっていったのだ。
(あれはダタンゴの魔力が半分まで減ったときに起きるとされている変化。気弾乱射で魔力をある程度消費すると言っても10分でこの変化は早すぎる。…ああ、そっか。ボンタの念動弾は魔力を削る効果があるからそれで予想以上に減ったんだわ。それにしてもよけるだけじゃなくて攻撃を当てて削っていくだなんて…ダタンゴは化け物だけど、ボンタも同じくらい化け物よね…)
引きつつも作成を続けるレベッカ。そこに凡太からの質問が飛んでくる。
「赤くなったらどうなるの?」
「今までよりさらに速くなって威力の高い攻撃をしてくるわ。気をつけて!」
レベッカが言い終えた瞬間、赤ダタンゴがレベッカの背後に高速移動して右腕をひく動作をする。それに気づいた凡太が慌ててダタンゴに向かい連弾を放つ動作をした。その瞬間、ダタンゴが凡太の背後に高速移動する。右手は引いたままだ。
「一本取られたよ」凡太は清々しい気持ちで笑いを浮かべた。