第182話 ダタンゴ
マ・タンゴを倒して数分経過。既にタンゴの周りにいたマ・タンゴ集団もまばらになり残り2体になっていた。レベッカがその残りを狩る。
(これで99体。よかった、ギリギリね)
倒した数を記憶していたレベッカが安堵しながら心の中で呟く。
タンゴの体液を採取し「今日の採取も無事終了」と凡太の下へハイタッチしにいこうと駆け出す。しかし、ふと騒ぎ出した探索者達の事が気になってそちらの方を向く。すると、彼らがマ・タンゴと対峙していた。
「マ・タンゴ!」独特なウニョウニョ声を発するマ。タンゴ。
「気をつけろ。一撃で倒さないと増えるからな」
「分かってるって。俺の強化魔法をなめるなよ」
そう言って剣を振りかぶる。どうやら既に強化済みらしい。
「ちょっと待って!」珍しく大声を出すレベッカ。
レベッカの制止の言葉が終わるのと同時にマ・タンゴを倒す探索者。
「お気遣いなさらず。私でもこの程度のことはできますので」
息を切らしてやって来たレベッカが自身を心配して来てくれたのだと思いつつ、その必要はないというような得意げな感じで言う。
「今すぐここから逃げてください!」
「…?」
レベッカがもの凄い剣幕で離脱を進める理由が分からず困惑する探索者2人。残念なことにその理由がすぐに分かってしまう。先程倒したマ・タンゴの体がブクブクと泡立ちながら肥大化していき破裂。すると中から体長50㎝ほどの小さなマ・タンゴが現れる。
「あれはダタンゴ!まさかこんな出現条件だったなんて」
ダタンゴは体長こそ小さいもののマ・タンゴの攻撃威力・速度・防御力を数倍にした完全な上位互換生物である。
高速移動ができるようになり逃走は難しい。
気弾を連発することができる上、中級戦士の強化した肉体でも1発あたれば骨折してしまうほどの威力を持つ。
ダタンゴ自体の知名度はそこそこ高いが、その出現条件については知られていなかった。レベッカが知っていたのは1カ月前に発行された図鑑“良く分かる魔物の生態”にその出現条件“10分以内に100体以上のマ・タンゴを倒す”が書かれていたのをたまたま読んでいたからだ。それまでの図鑑や本にはダタンゴの強さに関する事しか記述はされていなかった。なので、特殊出現する魔物ではなくタンゴのようにどこかにひっそりといるような個体種だと認識されていた。ちなみにマ・タンゴの防御力は高く上級戦士でも苦戦するほどなので10分以内に100体以上倒すのはかなりの高難度条件である。これもあってダタンゴは希少種とされていた。
「ダダダダダダ!」
ダタンゴがウニョウニョ声を出しながら先程マ・タンゴを倒した探索者に向かって気弾を乱射する。突然の事に何の防御態勢も整っていない。それを見たレベッカが慌てて間に割って入り、自身も気弾を乱射することでダタンゴのものを相殺させていった。
「今の内に早く逃げてください!」
「は、はいっ!」
『少女に助けられた挙句、置いて逃げるのか』と一瞬躊躇するも、足手まといになることは目に見えていたので2人とも素直に立ち去った。
それを見たレベッカがホッとする。しかしその時生まれた一瞬の隙によって相殺できなかった気弾1つがレベッカの左脇腹へと向かう。目の前の残り気弾の相殺に集中する為、その1つの回避は諦めて被弾と痛みを覚悟するレベッカ。だが、待っても痛みはやってこない。レベッカが『何で?』と疑問に思っているとその答えを持つ男が「大丈夫か?」と声をかけてきたので「大丈夫、ありがとう」と答えた。レベッカは男が念動弾でダタンゴの気弾を打ち落としたことを瞬時に理解した。男はレベッカの隣に並びシレっと気弾相殺に加わる。
「これからどうする?」
「とりあえずレベッカは先に逃げてよ。で、アイとレイナを呼んできて。あの2人なら倒せる」
「呼んでくるのは賛成なんだけど、その間ボンタはどうなるの?」
「俺のことは心配するな。殺されるかボコボコにされるかのどちらかだし大して問題ないだろう?まぁ2人が来るまでは粘って見せるさ」
「問題大ありじゃない!しかも前者の殺されるっていうのが一番まずいじゃないの!」
「雑魚が1人死ぬだけだぜ?何の支障もないから大丈夫だって」
「私には支障になるからダメ!そういうことだったら私も残るわ。というかボンタが逃げて2人を呼んできてよ」
「それは駄目だ。多分こいつ(ダタンゴ)はまだ本気じゃないだろうし、急に攻撃パターン変えられたら今の拮抗状態が解かれて不利になると思う。レベッカを危険な目に合わせるわけにはいかないし、頼むから先に逃げてくれ」
「その話を聞いたら尚更逃げるわけにはいかなくなったわ」
「どうして?」
「ボンタの死亡率が上がるから」
「えっ…それに何か問題でも?」
「馬鹿!ちゃんと話聞いていたの?あなたの死は私にとってまずいことなの」
「意味が分からん。どこかで頭でもうったのか?」
「うってないわよ!」(この人の自分の命を何とも思わない考え方が一番意味分からない)
このような言い争いが数分続く。そうしながらも2人は器用にダタンゴの連弾を相殺させ、今のところは被弾ゼロだった。
さらに数分経ちダタンゴがさすがに少し疲れたのか連弾を止めて数秒間小休憩に入る。
『ねぇ一旦休戦しない?この件については家に帰ってからでもできそうだし』
『奇遇だな。俺もそうしようと思っていた』
「じゃあ一時休戦ってことで」
「了解。そうと決まれば、ひとまず――』
「ダダダダダダ!」
凡太が言い終える前にダタンゴの乱射が始まる。が、先程と同じように作業的に乱射をさばきつつ途切れることなく言葉を続けた。
「あいつをなんとかしよう」