第18話 代表者の成長性
(やはりバンガルさんか兄さんだろうな。私なんて蚊帳の外だ。でもそれでいいし、自分が選ばれないであろうことに安心してる。なんて私は弱いんだ…)
アイが卑屈になっていたときに放たれた凡太の一言、
「アイさんが良いと思います」
(なんで私なの?)
アイがそう思うように他の皆もそう思った。
「おい、2択だったはずだろ?貴様はなぜそこに選択肢を増やし、ややこしくするのだ。それに1番してはならない選択だ」
「アイにはちと悪いが、相手はあのノーキンじゃ。こちらもそれなりに戦える者を選ぶ必要があるのは当然じゃろ?違うか小僧」
ゲール、ゼノンの意見は最もである。現に皆の頭にはバンガルかレオの2択しかなかった。ところが、凡太はその選択肢外からの選定。故の反論である。
(当然反論するよね。分かってた。アイさんを選んだ理由はこの中で1番成長性が高そうだったからなんだけど、そんな不確定要素じゃ納得してもらえないだろうしなぁ。どうしよう…)
凡太が返答に困っている処、代わりになぜかバンガルが答える。
「おい、忘れたのか?前回の戦での事を」
バンガルの言葉にハッとする二人。何かを思い出し、示し合わせたかのようにこう答える。
「納得はせんがそういうことなら仕方ない」
「愚問じゃったのう。すまん、小僧」
(バンガルさん、前回の戦の事って何?ゲールさん、そういうことってどういうこと?こちとらまだ理由すら言ってないよ?それにゼンさん、愚問をしているのは明らかにこっち!)
謎の聞き入れの良さに混乱しながらも各々に対して的確に疑問とツッコミを返す凡太。
そんな彼を尻目に話はなぜかまとまる。
「ということで、ガンバール村の代表はアイさんとします。皆さんよろしいですね?」
「え?ちょっと待――」
「異議なし」
「以上で会議を終わります」
こうしてあたふたする凡太が置いてきぼりにされる中、波乱の会議の幕は閉じた。
前回にも置いてきぼりされた経験が活きていたのか凡太はすぐに立ち直り、レオ・アイ兄妹を引き止めた。
「ボンタさん、そんなに慌てて何の用ですか?」
「ちょっと聞いておきたいことがあって。君達はなぜ反論しなかったんだい?」
「反論する必要がなかったからです」
「私もです」
何かを悟ったかのように言う2人。その“何か”に身に覚えがなく困る凡太。
「それより、アイを選んでくれてありがとうございました。僕も以前からアイの潜在能力は高いと睨んでいたので、ボンタさんにそう評価してもらえてうれしかったです」
「兄さんったら、嘘ばっかり…」
(なんて妹思いの良いお兄さんなんだ。って関心している場合じゃない。なんで反論しないのかが謎のままなんだが。必要がないということは俺の勝算を見込んでか?どんだけ買い被られてんの俺?)
反論がない理由を理解しきれず苦しむ凡太。その意標をつくようにアイが質問する。
「なんで私を選んだんですか?」
「あの中ではアイさんが一番成長率が高いと思ったからだよ。現段階ではバンガルさんやレオ君の方が強いかもしれないが、熟練されていて伸びしろが少ないと思った。それに相手はあのノーキンだから、正直に言うと今の所勝算は限りなくゼロに近い。だから、その勝算を上げる為にはちょっとやそっとの伸びしろじゃ足りず、かなりの長さの伸びしろが必要だと考えた。そうして、伸びしろの長さの消去法をしていった結果がアイさんだったってわけ」
アイは戸惑った。自分にそんな伸びしろがあるのかと。もしかして冗談で言っているかもしれないと考えたが、凡太は自分の命を懸けてまで3カ月の修業期間を獲得したのだ。そのような冗談を言えるはずがない。自己評価が低い為、伸びしろの件には納得がいってなかったが、アイはこの選定を絶対に断ることができなかった。なぜなら、
「私には前戦であなたに命を助けてもらった恩があります。不服ですが黙って従いましょう」
(命を助けた?何の話?逆にこちらが命を助けられたんですけども)
凡太はノーキンの投げた槍からアイを助けたあの時、無意識状態であったためにこの恩の経緯について知る由もなかった。
(まぁいっか。選定は受けてくれるみたいだし)
「それでさらに不服になると思うけど、明日から俺と一緒に修行しようか。場所はいつもの広場で早朝集合ってことで」
アイに一瞬「え?あんたと?」みたいな顔をされたが、
「分かりました」
良い返事を聞くことができた。
「妹を…アイをよろしくお願いします!」
「ああ。レオ君も興味があったら覗きに来てくれ」
「ええ、是非とも」
こうして約束を交わし、お互い帰路についた。
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こちらは別方向の帰路。
バンガル、カレン、ゼノン、ゲールが話している。
「ボンタさんは自分の命を軽く扱い過ぎです!」
カレンが納得のいかないといった表情で言う。凡太が修行の有余として3ヶ月をもらう際、その代価として自分の命を払ったことについてだ。
「前の戦のときもそうじゃったが、自分の命に対して執着心がまるで感じられん。ワシのような老いぼれなら分かるがのう」
「ボンタじゃなくても他の誰かの命じゃ駄目だったのかなぁ、俺とか」
「それは奴も当然考えただろう。それを踏まえた上で自分の命を交渉に使った。つまり、俺達の命はその3ヶ月分の価値すらない非力なものだったということだ」
この不甲斐なさにはいつもなら皮肉の一言でも言うゲールですらそのまま黙るしかなかった。
「せめて今後ボンタさんが動きやすいように陰ながらサポートしていきましょう」
「そうだな」
こうして反省会のような空気の中、各々自宅へと帰っていった。