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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第178話 仲良し罪人

 今度はアイの話題になる。


「マリアさんが仕事の進捗で困っている時、相談に乗ってあげたそうじゃないか。ありがとな」

「何で知っているのよ。あとあんたが礼を言うのはおかしくない?」

「2人が話しているところをたまたま見かけましてなぁ。マリアさんを研究所に連れてきたのは俺だし、上司みたいなものだと思っている。だとすれば、彼女の仕事の責任は俺の責任でもある、ということになるだろ?」

「そうね」(『ならないわよ!というかどんだけ過保護なの』って言いたいけど、こいつと言い争っても絶対意見を曲げないだろうし時間かかるだけだからこっちが先に折れた方が後の疲労度的には幾分かマシだわ)

 

 妥協したアイに対し、自身の考えが理解されたと勘違いして気分よく話を続ける凡太。


「あと研究室内のペンのインクが切れかかっていたやつが全部処分されて、新品に入れ替えられていたなぁ。やったのはどこのどいつだろうなぁ?」

(こいつ…知ってて聞いているでしょ)

 アイはチラチラと自分の方をみながら言う凡太に腹が立っていた。意地悪い姑にネチネチ言われるみたいで鬱陶しくなったので切れ気味で自白する。


「私だけど?」

「やはりアイだったかぁ。おかげで今日はイライラせずスムーズに事務作業ができたよ、ありがとう」

「大袈裟よ。こういう共同備品の管理とかの小さい作業は余裕のある人がやればいいと思っているしわざわざ褒められることでもないんじゃないの?」

「確かに“わざわざ”は違う感じがするが…甘いわ!こういうのこそ褒められるべきなの!小さい作業ってことは誰でも敬遠したがる面倒な仕事って事だろ?それをやってくれたという事はそれだけでありがたい事なんだよ。面倒な事の犠牲になってくれたってわけだしな」

「犠牲って…本当に大袈裟ね」

「大袈裟な表現くらいがちょうどいい。こういう陰での地味な作業の積み重ねが職場の環境をよりよくしていく中で一番大事なんだよ」

「これに関しては私も同意です。アイ、ありがとう」

「だから、そんなにお礼を言われるようなことはしてないよ」


レイナもお礼に加わり、少し恥ずかしくなるアイ。アイの中で次の人が使いやすいように作業していくという事は当然のことだったので、そこを掘り返されるとは思ってもいなかったようだ。

アイの善行に対し、険しい顔をした男が判決を言い下す。


「有罪。仕事張り付きの刑に処す」


 アイが『やっぱりかぁ』というような面倒なものをみるような顔になった。


「…と思ったけど、アイの仕事の進捗は良いし手伝えることが特にないんだよなぁ。ってなわけで何か俺にしてほしいことあるか?」

レイナのように『何で私の仕事内情に詳しいのよ』と心の中でツッコミつつも凡太にしてほしい事を考える。すぐに浮かんだのは『またデートしてほしい』だったが、これを言えばあの男なら『俺みたいに価値の無い人間とのデートだなんて苦行にしかならんだろ!却下だ』と言われるに決まっていた。なので、実現可能な簡単な願いにした。


「家に帰ったらマッサージしてほしいんだけどいいかしら?」

「そんなことでいいのか?」

「ええ、お願い」

「分かったよ。ってか、疲労に気づけなくてごめん。今度からはちゃんと気づけるようにするよ」

(しっかり気づけているわよ。いつもありがとう)


 凡太はアイやレイナの鍛錬メニューや身体能力を熟知していた為、2人の疲労度が感覚的につかめていた。それもあり、普段2人に疲労がたまったと感じた場合『すまんが、マッサージさせてもらってもいいか?』と自ら懇願してマッサージを行っていた。なお、下手に出ている理由は自分みたいな奴が美女で価値のある者の体を触ることが失礼に値すると考えている為である。

よって、今回アイに疲労はなかった。


 こうして2人にお礼をする予定が決まり満足げな表情を浮かべる凡太。そんな彼に思わぬ反撃が入る。最初の一発はアイからだ。


「そういえば、研究室のドアのスライドがスムーズになっていたんだけど誰がなおしてくれたんでしょうね?」


 凡太を見ながら言うアイ。対する凡太は「知らんなぁ」を押し通し、挙句の果てには「きっとメンテナンス部の人がコッソリ直してくれたんだよ」と犯人すり替えを図った。これを聞き「分かったわ」とアイが意外にも素直に引き下がる。心底ホッとする凡太だっすぐさまレイナからの2発目が飛んでくる。


「今朝研究室に入ると私の作業机の上に置いた覚えのない本が置かれていました。しかも付箋まで着いて。付箋のページを開くとちょうど研究で私が悩んでいた内容の答えが書かれていました。あの参考文献を用意してくださったのはどこのどなたでしょうか?心当たりはありませんか?」

 凡太を見ながら言うレイナ。対する凡太は「知らんなぁ」を押し通し、挙句の果てには「きっと本の妖精が悩むレイナを救う為に用意してくれたものだよ」とかなり苦しい犯人すり替えを図った。これを聞き「分かりました」とレイナがまさかの引き下がりを見せる。この反応に対し、絶対に裏があると心底怯える凡太。その予想通り、レイナがA4サイズの半透明スクリーンを魔法でつくり出し、そこにある動画を再生した状態で凡太にみせる。それは研究室の防犯カメラの映像だった。


 時刻は深夜。挙動不審の怪しい男がレイナの作業机の上に本を置いていた。この映像を見ていた怪しい男は冷や汗をかく。その様子を見たレイナが微笑みながら別の動画を再生した。その動画も研究室の深夜の映像で、少したつと男がドアの前に現れる。先程の本を置いた怪しい男と同一人物だ。男はスライドドアを一度取り外し、上下レールガイドを入念にチェックする。数分後下レールをブラッシングし始めた。どうやらゴミや付着物が溜まっていたらしい。それを除去してドアの下部も軽く清掃してから再びドアを取り付けた。ドアがスムーズに開閉するのを確認してから男は去っていった。


(映像データは偽装映像に差し替えてあったはずなのにどうして現物が?うっかり差し替え忘れたとかか?くそっ、これで全て水の泡だ)


言い逃れのできない状況。アイとレイナの目の前にいた怪しい男は観念して自白する。


「私がやりました…」


大罪を犯したような顔をする男。レイナとアイがヒソヒソと話し合い何かを決めている様子。数分後2人が頷き合い、判決が下される。


「有罪。仕事張り付きの刑に処す」


 男はそれを聞き「どうかそれだけは勘弁してください。つい出来心だったんです」と嘆いていたが無視される。


「確か特殊手袋の材料改良で困っているところでしたよね?過去の文献でそれに有効な材料をいくつか見た覚えがあるので色々と試して最善なものをみつけていきましょう」

「そんな感じの材料なら結構種類持っていたかも」

「以前採取で取り溜めしていたと言っていたものですね?助かります」


 男が『何で俺の研究内情に詳しいんだ?』と思っている間にウキウキしながら話を進めていく2人。


 こうして仕事張り付きの刑返しをくらい、男は2人と同様に悔しい反面、幸せな気持ちになるのであった。

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