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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第169話 健闘と検討

 映像はアクアニードルが発射されたシーンから再開した。


「この水魔法が発射された時は焦りましたよ。どういう魔法か分からなったのですが、速度が遅い事から、分裂・散弾系の変化を備えた魔法と推測しました。進行方向の先には結界があったので、結界に触れた瞬間に変化すると判断しました。その証拠に運営側の方たちが一斉に慌てているでしょう?あれはどう考えても私に危機が及ぶことを察しての行動です。おそらく致死率の高い攻撃の為、貧弱な私を守るにはどのタイミングで突入するかとか強化魔法をどのタイミングで使うかなど対策を話し合っていたのだと思います。こんなところでも人様に迷惑をかけるなんて我ながら情けない話です、はい」

(何かちょっと勘違いしてない?)生徒全員が一斉に心の中でつっこむ。


 誰がどう見ても運営側は凡太を助ける方法でもめていたのではなく、アクアニードルから結界を守る方法でもめているようにみえたからだ。


「で、傑作なのがこの時はどういうわけかこの水魔法に対してできるだけ抗ってやろうと思ったんですよ。それで今気弾を連射しているってわけです。頭がおかしい奴だと思いませんか?弱い私がいくら頑張ったところでたかが知れています。賢くて強い皆さんはこんな見苦しいことしないでくださいね。これも一つ反面教師ってことでご理解よろしくお願いします」

 

自堕落な感じで話す凡太に対し、


(どこが見苦しいの?運営側の対応が遅れているのを見込んで率先して動いた勇気ある行動にしか見えないんだけど)生徒達の大半がそのようにつっこんだ。


 そうこうやり取りをしている間に、映像内の凡太が念動連弾をアクアニードルに向けて打ち込んでいく。そのあまりの数に「凄い…」「なんて量だ」「ペースが衰えない。体力お化けか?」などの感想が贈られる。

 しばし皆が見入って、念動弾の着弾数が1000個を超えた頃、急にアクアニードルが消滅する。これを見てノッポ以外の生徒達は絶句した。


 静かになったことを絶好のタイミングとしたノッポがすかさず質問する。


「あの気弾には何か魔力弱体化の効果でもあるんですか?」

「気弾の威力分だけ魔力を削る効果なので…まぁ似たようなものです」

「それで消滅できたというわけですか」

「まぁ消滅できたのは偶然ですよ。そうなるなんて全く予想してなかったですし」

「そうですか…」(偶然?そんなわけがない。あれだけの気弾数を間髪容れずに打ち込めば消滅するのは当然だ)


 ノッポが称賛する中、先程絶句していた生徒達が沈黙状態から回復して映像観戦は続く。

 

 映像はスライムが100体に分裂したシーンになった。


「いやーこの時は少しホッとしました。何せ相手がようやく10%の力を出して戦ってくれるようになったわけですから」ニヤつきながら話す凡太。

(何言ってんだ、この人?)

 生徒全員が心中つっこみをいれる。100体分裂はスライムの残り魔力が5%を切った時。10%の力を出しているどころか、すでに100%に近い力を出しているということ。よって、生徒達のこの反応は当然である。

 生徒達が特大のボケに面くらっている中でも映像は進む。小型化したスライムが互いに弾き合って高速乱玉状態になった。ついでに高威力の水玉を発射するといううれしくないオプション付きである。そのとんでもない速さと密集具合をみて、


「速すぎる…。こんなのよけられっこない」

「速さもそうだけど、そもそもよけられる隙間がないじゃん。なのにどうしてその中で回避を続けられるのよ…」

「ちょっとめまいがしてきた」

(もの凄くオーバーなリアクションしてくれているなぁ。もしかして…)


 などと驚きながら感想をもらすが、残念ながら彼らは更に驚くことになる。

 映像内の男がその乱玉状態の中で回避を続けていたからだ。


「何でかわせているの?意味が分からないんだけど」

「だよね…。スライムの攻撃の方が速いけど、なんか予想しているみたいにかわしているし。こんなの真似できないよ」

「真似?馬鹿言うな。こんな動きできるわけないだろう?」

「に、人間の動きじゃない…。というか本当に人間か?」

(やっぱりそうか。この子達、俺に気を遣ってスライムを強い感じに表現して俺の弱さがひどい感じにならないようにわざわざ盛ってくれているんだ。なんて優しい子供達なんだ…)


 見当違いな解釈をする男はさておき、先程よりも訳の分からないといった反応を示す生徒達。それもそのはず。スライムの超高速乱玉攻撃をかわし続ける前例はないこととそのかわしている者が未だに強化魔法を使わずにそれを行っているということで異常さが極限にまで達していたからだ。


 生徒達の混乱状態が解けないまま映像は終盤へ向かう。

 試験の制限時間が残り20秒となって凡太が“全開”を使って念動連弾を結界に向かって放つシーン。


「どこを狙っているのでしょう?全然スライムにあたってないじゃないですか」

「まぁ見てろ。面白いことが起こるから」


 子分が慌てる中、結果を知るノッポが嬉しそうに話す。

 生徒達も子分同様、残り時間が迫っている事と攻撃が全く当たっていないことに不安を覚えつつハラハラしていた。だが、映像から目は背けない。『ここまで来たら絶対倒してほしい』と皆の心が一致していたからだ。


 残り3秒になり『さすがにもうダメか』と生徒達が思ったその時、上空から気弾の雨が降り注ぐ。思わぬ方向からの広範囲奇襲攻撃によりよけ切れずに次々と消滅していくスライム達。


「凄い…」

「なっ!面白い事が起こっただろ?」

「はい…」


 自分がやったかのように興奮するノッポ。彼と興奮の経緯は違うが他の生徒も興奮状態になっていた。

映像は残り時間がなくなりスライムが一体だけ残ったシーン。

凡太が締めに入る。


「てなわけで、スライムに10%の力を出させることが精一杯だった哀れな男の記録でした。皆さんはこうならないようにしっかり反面教師にしてくださいね」


 しめたはずだったが、生徒達のガヤガヤが大きくなっていた。凡太の締め台詞が聞こえていなかったようだ。『ここに来てようやく授業崩壊か』と思ったが、そうではないらしい。


「まさかスライムを油断させるためにわざと外していたなんて…。そりゃスライムもびっくりするでしょうよ」

「だねー。てっきりこのまま終わるのかと思っていたからあの展開には痺れたなぁ」

「分かるー」

「そんなことより、環境の応用が凄いんだって。最初からスライムが結界を利用してバウンド攻撃していたのは見ていただろ?おそらくそれを見てあの気弾反射技を思いついたと思うんだ」

「言われてみればそうかも。さすがノッポ君。あっそういえば、中盤の土からスライムが現れたシーンあったじゃん?あそこについてなんだけど――」


 いつのまにか凡太ではなく、ノッポによる映像解説授業が始まっていた。凡太の話題は話しているが、今や誰も本人の存在には気づいていない様だった。これを好機とした彼はコソコソとスクリーンを片付け消えるように教室を後にした。

 後日学園側から授業の事に関して呼び出しされた。教室を逃げるように退散したことについて怒られると思って身構えていたが、そうではないらしい。その内容は怒られるどころか『良い授業だった』と生徒達から好評価を受けていて『機会があれば再び授業をしてほしい』という称賛・催促するものだった。

 自分が称賛されることなど全く予想していなかった為、しばし呆然とする凡太。とりあえず「検討しておきます」と便利な逃げ台詞を吐いてこの場をしのいだ。

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