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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第167話 初見ショック

 凡太の授業の前日。A組の教室で担当の先生が生徒達に連絡事項を伝えていた。


「明日の特待クラス特別授業の講師はタイラ・ボンタさんです。彼は皆さんと同等の身体能力にも拘わらず、様々な功績を残しています。そんな彼から学ぶ事は多いと思うので、積極的に質問して自分の能力向上に役立ててください」

「はーい」


 素直に聞き入れる生徒達。その目は皆輝いていた。凡太が想像するようなガッカリした表情や面倒な表情の生徒は1人もいなかった。

 ご察しの通り、凡太の低評価認識は全て勘違いだ。反対に最近は評価が上がってきている。きっかけは胸揉み消し事件の真の功労者が巷に広まり出したこと。広めた人物はもちろんアイである。大っぴらに知らせようとするとあの男が阻止してくると考え、行きつけのカフェを起点に噂話として人づてに少しずつ広めていったのだ。小さい波紋のような行動だったが、世間とは狭いもの。1週間ほどで国民の8割がこの話を知ることとなった。未だに凡太はおっぱい隊長と呼ばれることがあるが、それは胸揉み消し事件を解決した者を称賛しての粋な呼称としてで、決して卑下する意図があって呼んでいるわけではない。卑下されていると感じているのは本人だけである。


 A組に一際凡太の授業を喜んでいる生徒がいた。彼の名はノポリタン・ケチャブ。過去に凡太がノッポと呼んだ男だ(※87話)。クラスでは愛称でノッポと呼ばれている。

彼は凡太とスライムの試験をこっそり会場で観戦してから、凡太の戦術や能力が気になって図書館で映像分析を毎日のように行っていた。分析する度に凡太の異質さに気づかされるので興味は絶えない。そんな中この授業の知らせを聞けば、当然喜ぶといったわけだ。


「ノッポさん、良かったですねぇ」ノッポの子分が手もみしながら言う。

「ああ。彼自らが授業をしてくれるだなんて夢のようだよ。明日が待ち遠しい…っていうか早く明日にならんものか!」

「それはさすがに無茶ですよ…」


 こうしてノッポの1日は異常な興奮状態のまま終わる。



~~~



凡太の授業当日。授業が始まる前の休み時間、教室内は凡太の授業内容の話題でいっぱいだった。


「どんな授業をしてくれるんだろう?できればあの事件を解決したときの経緯を詳しく知りたいなぁ」

「それ私も!」

「俺はスライム戦の話一択なんだけど」

「えー?それは映像データがあるからそれで十分でしょ」

「全然十分じゃないよ。映像で知り得ない様々な戦術の組み立てがあったはずだ。俺はそれが知りたいんだよ」

「ノッポ君らしいね。最近は他の授業中も先生の目を盗んでタイラさんの分析ばっかりしているし」

「そりゃそうだろ。あの人の戦闘はいくら時間があっても足りないくらいの情報量を秘めているからな。分析が追い付かんのだよ」

「へぇー。じゃあ一式まとめ終わったらどんな事が分かったか教えてね」

「ああ、分かった」


 などとノッポ達が楽しそうに会話をしていると教室のドアが急にスライドして、ある男が入室してきた。生徒達はその姿を見て緊張と好奇心が半々くらいの気持ちになって急いで着席する。皆早くその男の授業を受けたいからだ。


期待が高まる中、第一声が入る。


「えー知っての通り、私が校内ランキング最下位、おっぱい隊長ことタイラ・ボンタです。よろしくお願いします」

(そうだ…それが凄いんだ。最下位ということは戦闘能力が低いということ。にも関わらず、胸揉み消し事件の犯人を追い詰めた。犯人は元特待生で戦闘能力もかなり高かったと聞く。普通に考えれば追い詰めることはまず不可能。一体どんな戦術を使ったんだ?気になる…気になるぞ!)

 ノッポが目を血走らせながら凡太に注目していた。他の生徒もノッポほどではないが注目する。自己紹介をした後も自身の言葉を誇らしげに思うかのように威風堂々とした顔をしていた。自分に絶対の自信を持つかのような姿。弱者だが、心は強者であるとでもいうようなその風貌は生徒達に勇気を与える。これにより生徒達の期待はさらに高まった。


「なんか雰囲気が違うね」

「それ私も思った。あれで能力低いとか嘘でしょ」

「そうだよね。そんな弱い感じしないもん」

ヒソヒソと感想を漏らす女子生徒をノッポが『おまえら、タイラさんの授業を邪魔するな』と訴えるような目で睨みつけて黙らせた。


 そして第二声。


「私はこれといって皆さんに教えられるほどのものと能力は持っていません。なので、ある映像を皆さんと一緒に見てそれに解説を加えながら授業を行いたいと思います」

(映像?ということはスライム戦の解説である可能性が高い。良い流れが来ているじゃないか)


 興奮高まるノッポ。そうしていると教室が暗くなり、ホワイトボードの前にワイドスクリーンが用意され映像が流れる。映像は彼が待ち望んだスライム戦だ。


(やったぁ!神授業決定!しまった…この授業の映像記録許可を事前申請しておくんだった…。一生の不覚)

喜んだり悲しんだりと忙しいノッポ。他の生徒達もノッポほどではないが喜んでいる様子でノッポに気づかれないように「楽しみだねぇ」とヒソヒソと話す。


「何か質問があればおっしゃってください。何でも答えますよ」

(有難い。色々あるのだが、いきなり質問攻めにしては迷惑がかかる。もう少し映像が進んでからにしよう)


「えー見ての通り、最初は相手の出方をうかがう為に回避に徹しています」


 この場面を見てノッポ以外の生徒が全員唖然とした。彼らはノッポほど凡太に興味があったわけではないので、このスライム戦映像を見るのは今回が初。故に初見ショックを受けた。スライムの体当たり攻撃は上級戦士が強化魔法を全力でかけてようやくかわせるほどの速度であると共に一撃で悶絶させるほどの威力を持つ。その一撃を映像内の男が簡単にかわしていたとなればショックを受けるのは当然である。皆が『能力が低いのに、どうやったらあの攻撃をかわせるんだ?』と思っている中、一人の生徒が手を挙げて質問する。

「出方をうかがっているという事はこれがスライムとの初戦闘だったのですか?」

(くだらん質問をするな!)心の中でぶちぎれるノッポ。

「はい、そうです」

「では、事前に情報を揃えてから挑んだのですよね?」

(事前に情報があったらかわせるというレベルではないんだよ、素人が…)

「いいえ。これは相手の事前情報を全く仕入れなかったからこそ回避をせざるを得なくなっている愚行の一例です。是非反面教師にしてください」

(意味のない質問をしやがって。反面教師にするのはあいつだろ?)

そう思って先程質問した生徒を睨みつけるノッポ。


授業は始まったばかり。初めからこの調子ではまだまだ荒れそうだ。

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