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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第164話 フクツをタクス

 現在レイナはある男に助けられている。その男は数分前に自分が決別した人間だ。クレベーション対抗による精神疲労で余裕がなくなっていたこともあって、普段なら気づくはずの男の面倒な思考に気づけなかったことを後悔して落ち込んでいた。


 過去の事でいくら落ち込んだところで何も解決しないのは分かり切った事だし、それをやっていても余計に疲れるだけだからさっさと切り替えるべきだ……と分かってはいるが、後悔している時の感じは妙に重くねちっこい為、考えないでおこうとしても考えてしまうものである。さらに人によっては『落ち込んでいる自分、かっこいい』とナルシストモードに入ったり、『誰か落ち込んでいるところに気づいて助けてくれないかな』とかまってちゃんオーラを出したりと他人にアピールをすることがある。それを察した周りの人間は気を遣わざるを得なくなるので、反応(落ち込んでいる内容を聞く)しないといけなくなって鬱陶しがられる。

 なら無理に落ち込んだ気持ちを取っ払おうとする必要はない。それを取っ払おうとしても余計に頭の中で引っ掛かって疲れるだけというのは分かっているのだから、落ち込んだ状態のままでいることを良しとしてみる。落ち込んだ状態を悪い状態だと認識するから抗う必要が出て余計に辛くなるのだ。それが普通だと思っていればとくに抗う必要もないので割とすんなり動き出せる。目の前の事をやっていれば適度に忙しくなるのでいつの間にか落ち込んだ事を忘れてしまう。考えないようにしようとしたら考えてしまうし、考えてもいいとしてしまえば考えなくなる。意思というのは案外天邪鬼なのかもしれない。

 男の行動により少しだけ精神疲労が緩和されたレイナは、落ち込みを受け入れて男と同じように妥協行動を開始する。


「ボンタ様! かわすだけなら私にもできます。なので、フクツアリはこちらにまかせてください!」

「ようやく助け船出してくれたぁ…。ありがとう! できればこっちの3匹の相手も頼む」

「嫌です、そっちは自分で何とかしてください!」(1匹でも精一杯なのに4匹まとめてだなんて無理。それを平然とこなしているあなたが異常なのです)

「うわーん。スパルタだよぉ」

「こんな時に泣き言を言わないでください」(相変わらず面倒な人ですね)


 レイナが戦闘に復帰し、回避に専念する2人。

レイナも的当て経験者。強化魔法なしでも、フクツアリの攻撃をかわすくらいはできるようだ。

2人は数分間回避を続けた。


一体どれほど続けられるのだろうか?


凡太は3個的当てを制限時間ギリギリでクリアできるので、最低でも5分は粘れることになる。レイナも的当ては得意じゃなかったが、自分より過酷な状況で回避を続ける凡太に刺激を受けてなんとかくらいついていた。

無気力ながら回避行動を習慣的にこなす2人。今や自分達がこの後死ぬことなどどうでもよくなっていた。『体が動かなくなるまではとりあえず目の前にあることをやればいい』普段から出し切る派だった2人だからこそできた行動である。

どうせ殺される未来は変えられない。その行動は第三者から見れば無駄な足掻きにみえるだろう。

ところがこの足掻きによって、第三者・アリ達・2人が予想もしなかった事態が起きる。


クレベーションが解除されたのだ。


2人の意欲はとっくに尽きていたので、クレベーションを維持するためのエネルギーが減り続けていたのだ。そして2人の足掻き(時間稼ぎ)によってエネルギーが枯渇するまでに至る。

フクツアリや影3匹が急に動きを止める。この状況に昆虫ながら動揺している様だった。おそらくクレベーションが解除されることは初めての経験だったのだろう。

 辺りを覆っていた嫌な空気が消えた事で解除に気づいたレイナ。これを好機として、一気に畳みかけようとするも体が思う様に動かない。クレベーションによって精神力・体力を削られた反動である。しばらくは戦闘できないと考えたレイナは凡太にそれを託す。


「クレベーションは消えました。攻撃をお願いします!」

「俺は諦めたの。俺じゃ倒せないよ」


 この発言を聞き、凡太もまたクレベーションによって精神を削られていたことを察するレイナ。同情するような顔をする。しかし、この男に同情する必要はない。なぜなら、凡太はフクツアリを倒すことを最初から諦めていたからだ。


 アリ達が動き出せば終わりだとレイナが覚悟した時、予想外の事が起こる。先程諦める宣言をした男が急に膨大な魔力を放出し、それを使って強化魔法をかけてきたからだ。


「どういうつもりですか?」

「いいからじっとしていてくれ」


 突然のことに驚くレイナ。男のこの行動に関しては理由がある。


 フツノアリの進化版のような相手なら弱い自分になすすべはない。だが、レイナがフクツアリを倒すことはずっと信じていた。自分より遥かに強いレイナが負けるはずがないと。無能な自分の助力では何の足しにもならないことは重々承知だったが、ないよりはあった方がいいと考えた。ほんの少しでもいいからレイナの役にたちたいという男の執念が生んだ助力(強化)である。


 この強化が始まって18秒後、


「自分は安全地帯、奴隷は危険地帯…。これぞ…奴隷の正しい使い方よ…。後は任せたレイナ……」


 前に吐いた最低発言を再びレイナにおみまいして倒れていくゴミ男。


「どうしていつも最後は人任せになるのですか…」


 それを見るレイナはひどく呆れた表情だった。男はその表情を最後に見たことで満足し気絶した。

 レイナはアリ達と向き合う。アリの方がこちらに気づいたように戦闘態勢を入っていたことから、沈黙状態は回復したようだった。

 危機的状況も回復したので、レイナが緊張を高めると思われたが…


「ふふ…。これではどちらが安全地帯にいるか分かったものではありませんね」

 

 レイナが男から何の足しにもならないであろう強化を受け取り感想をもらす。彼女が感じていることは男の予想と大分違っていたようだ。


 その証拠に、


「負ける気がしない」


 とんでもない発言をした。

 果たしてそれは本当かハッタリか。解答の鍵を握った影1匹がレイナに挟撃を仕掛ける。


 レイナの体力はクレベーションへの足掻きによって大分削られていた。それに加え、気力を意欲に大量変換した際に精神を酷使したため、精神疲労が酷くて魔法を使うのに必要な集中力を大きく欠いていた。これによりレイナは強化魔法を使いたくても使えない状態になっていた。

男の考えが正しければ、自身の強化はほとんど役に立たない為にレイナの絶不調状態を改善する見込みはない。この挟撃でレイナは倒れるだろう。


 しかし、ここに大きな誤解が生じていた。

男の強化は何の足しにもならないどころか――


 バキッ!


影の両牙がレイナの素手による二撃で折れる。


 ――レイナの潜在能力を遥かに越える形で能力強化を果たしていたのである。

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