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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第161話 フクツアリ

(あの表情になったという事は…)


凡太が不気味な笑みを浮かべる時は決まってロクでもない事を思いついた時。いつもなら呆れるレイナだが、現在生存確率が限りなくゼロに近い絶望的な状況の為、呆れるのを通り越して逆に期待していた。何をやっても無駄だと思えるこのマイナス環境下でのロクでもない事はプラス方向にしかいかないからだ。


(きっと何か打開策を提案してくれるのでしょう)


 レイナは男の次の言葉を期待して待つ。

 すると、男が真面目な顔で話し始める。


「で、結局あのアリは何なんだ?」


 ズコー!と頭の中の自身の分身が盛大にこける。そして分身が『そこからですか!期待して損しました!』としっかりツッコミを入れてから本体のレイナが話し出す。


「あれはフクツアリです」


 赤・青・黄のフツノアリを倒すと現れるアリで、現れた瞬間にクレベーションと呼ばれる魔法無効化が効かない結界が発生する。この結界内ではフクツアリ以外の生物のやる気・闘志などの行動意欲となるエネルギーが急速に吸い取られていく。そのエネルギーはクレベーションの維持に使われる。クレベーション自体に大量の維持コストが必要となる為、良い循環関係になっている。また、クレベーション内ではバフ効果がすべて無効化される。一応結界内で転移魔法は使えるが、大概の転移魔法は詠唱時間が長いので詠唱途中で意欲がなくなり唱え切ることができなくなる。

 フクツアリは現れた時から召喚魔法を数分詠唱する。詠唱終了後に赤・青・黄の影が現れ、攻撃してくる。この3匹を倒しても新たなフクツアリが生まれることはない。無限ループでないことが唯一の救いだ。

 フクツアリの戦闘能力はフツノアリと変わらないが、行動意欲を失った生物は動けず戦闘不能状態になっているので、容易にとどめをさせる。よって、この結界内に相手を放りこんだ時点でフクツアリの勝利が確定するのだ。ちなみにフツノアリ3匹の内、一匹でも残っていれば24時間経つと倒された色のアリが復活する。

 この厄介な特徴を戒めておくべく、図鑑や資料集では数十ページに渡って説明されている。現に凡太が読んだ図鑑でも10ページ分のフクツアリ情報が記載されていた。特徴よりも読み飛ばした部分に意外と重要な情報が書かれている事があるというのが一番厄介である。

 なお、対戦相手が死んでクレベーションが消えるとその一時間後に召喚した影とフクツアリが消えて新たなフツノアリ3匹が生まれる。


 以上がフクツアリの説明だ。実際にこの長ったらしい説明をして時間を無駄にするわけにはいかないので、レイナは手短に伝えた。


「フクツアリの結界内では強化系の魔法が無効化される上に意欲が猛烈に吸いとられます。なので、それがつきる前に…3分以内に止めをさす必要があります」

「その3分っていう数字はどこからでてきたの?」

「過去にフクツアリと戦闘した戦士の平均戦闘時間からです」

「まて、それならそこまで恐れる必要はなくないか?平均時間がとれるほどの人数がフクツアリを倒したってことだし、勝率は高いはずだろ?」

 それを聞いたレイナは残念そうな顔をしている。


 (あーそういうこと)


 凡太は察して理解できたようだがレイナが一応説明する。

「戦士達が戦闘で“生きていた“時間の平均時間です。未だにフクツアリを倒したという話は聞いたことがありません」


 ちなみに映像データは戦士の死体から後日回収したものだ。さらに絶望的な話として、この3分は大体フクツアリの召喚魔法の詠唱が終わる時間となっている。つまり、詠唱終了後に瞬殺されているということだ。


「持久戦の方がよくないか?これだけの効果の結界の維持は相手もかなりきついだろうし勝手に消耗して自滅してくれるんじゃないか」

「持久戦は愚行かと。この結界はフクツアリ以外の生物の意欲エネルギーで賄っているようです。なので、持久戦の場合倒れるのはこちらが先になるでしょう」


 凡太が思考ポーズをするのをみて策を練り直すのかとレイナが思った瞬間、


「もう駄目じゃん。諦めよう」


 即答ならぬ即放棄。呆気にとられたレイナだったがこれに即返する。


「諦めるとはどういう意味ですか?」

「言葉のままの意味だよ」

「まだ足掻ける時間は残っているのですよ?それなのに諦めるというのですか?」

「うん。もう何を考えても無駄だろうしね。だったら、潔く諦めた方がよいだろう?」

「本気…なんですね?」拳を強く握りながら質問する。

「うん」

「そうですか…。よく分かりました」

(この人に期待し過ぎた私も悪い。人間だもの、これが普通の反応よ)


 何か吹っ切れた感じのレイナ。切れたものは男との信頼関係である。


「では、これからあなたの言う無駄な事をやってきます。今までお世話になりました」

「お疲れ様DEATH。頑張ってねー」

 異世界人には通じないデスジョークを放つKY男。どうやら今後の展開はどうでもいいらしく投げやりモードに入っていた。きっとクレベーションにより普段からただでさえ少ない意欲を根こそぎ吸い取られたからだろう。男の顔は今や無気力感で満たされていた。


「あとはレイナが何とかしてくれるだろう。自分は安全地帯、奴隷は危険地帯へ。これぞ、奴隷の正しい使い方よ」


 男の最低な一言を聞いたレイナはこの男との決別を心の中で告げた。その姿が、嫌な事はすべて自分に押し付けてきた元主人達と一致したからである。

レイナがゴミでも見るような目で凡太を見てからフクツアリの討伐へと向かう。


 こうして、最期の最期に念願の自己評価のガタ落ちを成功させる凡太。あのレイナの目を見たことによってニタリ顔が強烈になり、口角がひきつりそうになるほどのキモさをみせていた。

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