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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第2章 サムウライ村救済編
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第16話 菓子ブレドーづくりと新展開

凡太は今、菓子パンを作ろうとしていた。


何でも糖分が足りないらしい。


菓子パンに関しては、以前凡太が村の現状把握を行っていた際、パンに似たブレドーという食べ物を見つけたことから、サットウ(砂糖と似た調味料)もあったので作れると思ったのだ。さらに、幸いなことにキッチン系の調理器具も大体そろっていたため、準備万端だ。


現在、ダイズンから抽出した油を使い、ブレドーを揚げている。そして裏表がこんがりとキツネ色になったところでサットウをまぶす。揚げブレドーの完成だ。


 まずは凡太が試食。渋い表情からして味はまずまずのようだ。


 食欲をそそる匂いにつられ、村人が何人かやってきたので、他にも作っていた揚げブレドーを渡した。結果は大好評。皆バクバク食べていった。この評価の高さは元々ブレドー自体が無味だったので、それほどおいしくなかったのもある。

 こうして、満足した村人達であったが、この男は違った。


「糖分だ、糖分がまだ足りない!」


甘党男がそう言うと、生地の方にもサットウを大量に練り込み、ブレドーを焼き上げた。そして、再び揚げブレドーをつくる。これで激甘ブレドーの完成だ。


「うむ、この甘さ申し分ない」


今度は満足する凡太。村にも甘党が多かったらしく、これも村人には好評だった。


「こんなに美味しいのだから、いっそのこと町に行って売り出しませんか?」

「それは面白そうですね。やっちゃいますか」


凡太と村人が盛り上がっていると、後ろからアークと護衛兵5人がやって来た。一応バンガルから、アークの訪問があることを事前に知らされていたので、すぐに気持ちを切り替え接客にあたった。


「これは、これはアーク様。わざわざ遠い所からのご足労、ご苦労様です。」

「白々しい。無能転移者だったか、この前はやってくれたな。だが、次があればこうはいかんぞ」


(それは知っている)


心の中で答える凡太。


戦後、すぐに真空壁をつくった場所にサムウライ側の偵察隊が送られ、周辺を調査していた。おそらく真空波を使った防御は既に看破されており、次に斬空波を撃つ際は真っ先に真空壁を無効化で消滅させてくるだろう。対策が速く、次回は確実に勝つようにする周到さはムサシマルの信念によるものだと容易に想像できる。


(前戦は向こうが初見のものを次々と出すことで対策を考える暇を与えず、動じている内に勢いで押し切っただけだったからなぁ。もう同じ手は2度と通用しないだろう。今回の戦の結果は本当に運が良かった)


「そうですね。次があれば、この村はすぐに滅びるでしょう」

「分かっておるではないか」


凡太の絶望したような顔をみて、上機嫌になるアーク。


「今回の訪問のご用件は何でございましょうか?」


「戦から1週間後、勘違いして調子にのっている馬鹿共の顔が急に見たくなってな。ところで、さっきから皆が旨そうに食べているそれは何だ?」


「揚げブレドーといいます。よかったらお一つどうですか?」


「うむ」


そう言うと、アークは何か魔法を自分にかけた。おそらく毒探知魔法だろう。

安全確認が終わり、食べ始める。


「おお、甘い!そして美味い!これなら何個でもいけそうだ」


食欲が暴走したアークに揚げブレドーをどんどん渡していく。


「村内でも好評でして、町に売り込みにいこうと思っておりました。もし、売れ行きが良いなら生産量を増やし、売り上げを伸ばしていくつもりです」


凡太がそう答えるとアークが何やら考え込む。


(このように旨いものは見たことも聞いたこともない。異世界の知恵か?だとしたら異世界の方でも売れていたものに違いない。今この村に財力が加わると厄介だ。早めに阻止しておかねば…しかし、この食べ物は食べたい。うぬぬ…そうだ!)


ニタリと悪巧みが浮かんだ顔をしたアーク。そしていつも通りの横暴に出た。


「戦では散々サービスしてやったろ? だからこの菓子ブレドーとやらはすべてサムウライの村によこせ。もちろんこれからつくろうとしているものも合わせてな」


(めちゃくちゃだ。こんなの許すはずない)


村人の誰もがそう思った。


その時、


「くっ…仕方ない。その要求聞き入れましょう」


凡太がまさかの承認。唖然としすぎて言葉が出ない村人達。この人は損益の計算ができない頭の悪い人なんだと誰もが思った。


(受けおったわ。まぁ受けなかったら、それを橋懸かりに更なる言いがかりをつけ、村を攻め滅ぼす方向に持っていったがな。それに気づいてわざと受けたのなら賢いが、この者にその知恵はあるまい)


凡太がアークの心中を読みきったのか真相は分からないが、村は静かに救われた。


「ですが、折角つくったものがそちらに奪われるのもあまり面白いことではないです…」


(くくく…やはりそうきたか。いいぞ、反論してこい。そのときが貴様らの村の最後だ)


凡太の次の一言を全員が固唾を呑んで待つ中、ようやく口を開いた。


「1対1の試合を行いませんか」


「は?」


この場にいた全員が同じ反応を示した。


「各村で代表を一人選定します。そちらの村の者が勝てば、アーク様が菓子ブレドーの生産権と所有権を得る。こちら側の者が勝てばその権利を帳消しにさせてもらいます。試合のルールとして相手を殺してはいけないこととし、戦闘続行不可能と判断したときや相手が負けを認めれば終了とします。このまま勝負してもこちらが負けるだけなので修行期間として3ヶ月の有余をいただきたいです。その為試合日も3ヶ月後にしていただきたいのですがよろしいでしょうか?見返りとしてその3カ月間は生産した菓子ブレドーを無償提供します」


(こやつ、やはり阿呆よ。戦闘力の大きな差に気づいてないのか?まぁこちらはその阿呆のおかげで随分と得をさせてもらえるから良しとしよう。仮に負けてもこちらの損はないし気楽だ。しかも、3カ月間菓子ブレドー付き。これだけでも満足だが、もう一つごねとくか)


「試合の件はよかろう。だが、3ヶ月は長すぎる。待てん」


「ではそちらが勝ったときの条件に私の公開処刑を足します」


「ククク…公開処刑か。その話乗った。3カ月待とうじゃないか。そういえば、試合の場所を決めてなかったな。サービスだ、私の村の闘技場を使うがよい」


「ありがとうございます!」

(これで村の3カ月の安全は確保。そして、この試合に負けたとしても村人の労働量が増えて辛くなるかもしれないが、菓子ブレドーをつくり続ける限り命は保障される。戦前も戦後もなんだかんだで村がいつ攻め滅ぼされてもおかしくない状況だったから、ようやく一息つけるな)


この男、無能にしては考えていた。わざわざ自ら不利な条件の提案をしたのはすべて村人達を守るためだったのだ。そんな事とは知らず、情けない姿を見た村人達は凡太の評価を下げる。その評価を下げることすら凡太の計算だと知らずに。


(それにしてもほぼ負け確定試合と公開処刑、村の延命。これぞ、よくやった系の死んでも仕方のない状況だ。我ながらよくここまで見事なシナリオを描けたものだ。前回の戦では結果的に仲間に裏切られる形で未遂に終わったが今度はいける。待ってろよ、神様! もうすぐこの村での恩を返してそっちに逝くぜ!)


勘違い男が自らの作った縛りプレイのクリア目前宣言をする中、アークが尋ねる。


「ところで、うちはノーキンを代表として出すが、そちらは誰を出すつもりだ?」


「今夜の会議で代表を決めるので、明日の朝伝えるということで構わないでしょうか?」


「構わんぞ。ワシは寛大だからな。それくらい待ってやろう」

(誰を選ぼうと結果は同じことよ。しかし、良い取り引きをしたな)


こうしてアークは上機嫌で帰っていった。

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