第157話 ちぐはぐ称賛
モクモックモを倒した後も、次々と強そうな魔物の襲来に合う。が、すべてレイナによって葬られていった。
昼過ぎに軽食を済ませ、捜索に戻る。その10分後、またしてもモクモックモの集団と戦闘になるが、レイナによって瞬殺された。凡太が「楽勝だね」とレイナに向かってグッと親指を立てるもレイナは苦笑いしていた。疑問に思った凡太が理由を聞こうとする前にその理由が発覚する。丁度最後のモクモックモを倒した辺りの地面が急にボコボコと膨れ上がり始めて破裂した。中からはモクモックモの倍の大きさはある銀色のクモが現れる。
カチカチクモ。モクモックモを24時間以内に30匹倒すと出現する巨大クモで、その名の通り硬度が高いことが特徴。一流の剣士が全力で強化した一撃を入れても少しヒビを入れるので精一杯の硬さだとか。体毛が常時硬化状態で硬度も高くなっているので、体毛散弾の威力が桁違いに上がっている。しかも重装移動兵器みたいな見た目のくせに素早さがモクモックモと変わらない。つまり完全な上位互換生物ということだ。
カチカチクモが周りの木をなぎ倒しながら周囲をカサカサと移動する。異常なのは木が全く障害になっておらず、移動時の減速がない点だ。
「どんなパワーしているんだよ…」呆気にとられる凡太。
その姿をみれば誰でも躊躇して一端距離を置こうとするだろう。現に凡太も警戒して距離をとっていた。だがレイナは違った。躊躇することなく真っ先に巨大クモに切りかかったのだ。
ガキン!と、金属音が周囲に響く。相当堅かったのかレイナが一端剣を置いて指をグーパーしていた。一撃が当たったお尻の真上を見てみると小さいヒビが入っていた。
それを見たレイナがため息をつきながら言う。
「少し時間がかかりそうです」
「まぁそう落ち込むなって。ヒビが入れば一流って証だろ?大したものだよ」
「ありがとうございます」苦笑いするレイナ。
レイナの攻撃によって気合が入ったのか、クモがいきなり体毛を散弾させてくる。周囲の木や動物たちが次々とハチの巣にされていく。モクモックモの時のようにレイナが斬撃を放ち打ち落としにかかる。しかし、体毛の威力は衰えず、斬撃を突き抜けて飛んできた。
「よけてください!」
「あいよっ!」
レイナと凡太が難なく体毛をかわす。一応体毛散弾の速度は速いが、魔改造的に比べればそれほど速くなかったからだ。
(おそらくレイナの最初の一撃は様子見の一撃だろう。ってか、様子見の一撃で一流クラスとか何なん?ドン引きなんですけど。とりあえず、勝てそうで良かった。まぁそういうわけだから――)
「次のレイナの一撃で終了だな」
凡太の言葉を聞いて驚いた表情になるレイナ。
(『全力じゃないのバレちゃいました?』みたいな反応乙。これで様子見一撃だったのは確定。もう余裕じゃん。なんかちょっとムカつくなぁ。よし、憂さ晴らしにあれやっとくか)
凡太が悪戯を思いついたような顔をしているとレイナがすっとぼけ顔で質問してくる。
「それはどういう意味でしょうか?」
「どういう意味って…?言葉通りの意味だよ。とにかく自分の力を信じれば良いんじゃないかな?」投げやりになる凡太。
「なるほど…分かりました。自分とボンタ様を信じます!」
「おう。頑張ってね」
(白々しい!ってか、こんな場面でも主人を立てるとか奴隷の鏡やないか…)
凡太がレイナの気遣いに感激する。
レイナが足に踏ん張りを加え、全力の高速移動の構えをとる。そして、パッと凡太の目の前から消える。現れた先はクモの正面。迎撃態勢に入るクモだったがもう遅い。
レイナの一振りが入った…のか、抜刀が速すぎて凡太の目でとらえることができなかった。凡太が見たのは切り終えたレイナが剣先を鞘におさめる姿だった。
クモが一歩目を踏み出そうとすると、体が徐々にずれていき真っ二つに割れる。ズシン!という重い音と共に地面に沈むカチカチクモ。
「すげー!やっぱり一撃だったな。さすがレイナ!」(やはり全力を隠していたか)
「いえ、さすがなのはボンタ様です。あなたの強化がなければ一撃で倒すことは不可能でした」
「強化?な、何のことかな?」
誤魔化しをスルーして『ありがとうございました』と頭を下げるレイナに凡太はまたしても『奴隷の鏡…』と思って感激する。その感激する凡太を横目にレイナが思考する。
(高速移動が終わって抜刀する瞬間、一瞬だけどもの凄い圧を感じた。おそらくあれがボンタ様の強化魔法…。初撃の時のようにあの時も全力強化していたんだけど、私の強化魔法より遥かに質が高かった。他人の強化という一点だけに絞って鍛錬を続けた結果がこれですか)
真っ二つになったカチカチクモの残骸を見る。
(ヒビを入れるだけで精一杯の相手にヒビを入れるどころか綺麗に両断させるなんて…今回切った時の反動が全くなかったのも異常でした。まるでゼリーを切るような感覚でした…)
レイナが全力だったことと、自分の強化魔法が役に立ったこと、レイナの感謝の気持ちなどを知らずにこの後もひたすらレイナを称賛する凡太。二人の認識はちぐはぐだったが、お互いに称賛し感謝する気持ちだけは見事に一致していた。