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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第153話 休憩デート

 凡太は今、凄く苦い顔をしている。


 今日は仕事の休日、アイが好きな人とデートする日になる……はずだった。

 あの提案後、アイに「それだと私が得をするだけじゃない」と却下される。「でも、それしか浮かばないし…」とウダウダやっていると、

「いっそのこと私とあんたがデートをするってことにしましょうよ」

「いきなり何言っているんだ?」

「これならあんたも私も得をするからいいじゃないかしら」

「いや、どう考えても俺しか得しないだろ」

「私もちゃんと得をするわよ」

「おかしいって!デートってのは、お互いを好いている価値のある者同士がする行為。価値の高いアイと無価値の俺では価値の差があり過ぎるだろ」

「私の中であんたは無価値じゃないし、むしろ私より少し価値が高いと思っているわ。っていうか、自分の価値観を人に押し付けないでくれる?」

 自分が評価されている事に対し、いつもなら反論する凡太だが“価値観の押し付けはよくない事”と人を不快にさせない為の基本原則をアイに正されたことによって何も言えなくなる。そして「ごめんなさい」と素直に謝った。

「じゃあ、次の休日にね」

 苦い顔で承諾する凡太であった。


 このようなことがあって、現在はアイと絶賛デート中である。


(価値観は人それぞれだからしょうがないとしてデート成立のもう一つの条件である“好いている者同士”が欠落したままなんだが…。アイが俺を好いているわけがないだろう。アイは責任感からお礼の建前上仕方なく彼女役を演じてくれているだけ。きっとそうだ…そうに違いない)


 独自の切り替えしで納得することに成功し、苦い顔から復活する凡太。


(そうと決まれば、このデートでアイにしっかり休んでもらわないとな。嫌々演じてくれていて精神的に参っているだろうから考えさせるのは野暮だ。極力俺が色々提案する様にしよう)


 デートをするとは言ったが、何をするかは特に決めておらず、2人とも当日に丸投げしていた。その為、現在公園をぶらぶらと歩いている状態だ。


「アマティカフェにいこう」

「うん。分かった」


 アマティカフェとはアイがよく利用するコーヒー店である。休日一人で読書を楽しむときや友人と話すときなどに利用している内にすっかり常連客になっていた。凡太はこの店に入ったことはなく、店について詳しいわけではない。が、アイについては詳しい。いつもの通い慣れた場所にいることで、脳に面倒な新情報が入ってこない為、情報処理機能を節約できて自然と休憩になる。どうしたら楽しんでくれるか、どうしたらリラックスしてくれるか、つねに人のことを考えて模索しているからこそ大して悩むことなくこの提案ができたのだ。


 店に入ると女性店員が寄ってくる。

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます。お二人様ですか?」

「はい」

「畏まりました。席はお好きなところへどうぞ」


 奥の空いているテーブル席に移動して向かい同士で着席した。店内の色はダークブラウンが多めに使われて全体的に落ち着いた雰囲気になっている。基本的に凡太の世界にあった喫茶店と構造はそっくりだったので、特に驚かずにすんでいた。


 席に着いてすぐにさっきの店員がやってくる。

「ご注文は何に致しますか?」

「抹茶カフェラテとガトーショコラをお願い」

慣れた感じで言うアイ。いつも頼んでいるものらしい。

「同じのでお願いします」

メニューを一切見ずに伝える凡太。メニューをあれこれ見て考えている時間が店員さんにとっては苦痛になるといった彼なりの小さい気遣いから生まれた手法である。それに気づいたアイと店員が少し微笑む。

「畏まりました。では5分ほどお待ちください」


 店員が去り際に、凡太に聞こえないような声でアイとヒソヒソ話す。


「あれがアイさんの話によく出ていたボンタさんですね?確かに話通りの人で驚きました」

「気をつけた方がいいわよ。気を抜いているとすぐにまた気遣いしてくるから」

「はーい。接客側が接客させられないように頑張りまーす」

「うん。頑張ってね」

 軽く手を振り別れる。アイはレイナとよくこの店であの男の愚痴を漏らしてストレス発散していた。その会話内容があまりに異質で愉快だったので、店員はすぐに興味を持つ。そして会話に度々混ざる内にアイとの仲もよくなっていった。


 注文の待ち時間、朝練を話題に話し始める。

「最近ラスト1キロのタイム縮まった?」

「うん。というか、タイム教えてないのに何で知っているの?」

「なんとなくそう思っただけだよ。この前試していたフォームの微改良がうまくハマった感じだったしね」

「その通りよ。おかげで大分余力を残してラストまでいけるようになったわ」

「あのフォームでアイの若干右側に偏っていた重心が均等化されたから、負担も少し減ったんじゃないかな」

「言われてみれば、右膝の疲労感は前より減っているかも」

「やっぱりね。よかった、よかった」

(何で私より私の事に詳しいのよ)


 注文したものが届いてからも他愛もない会話を続ける2人。特に注意しなくてもいい内容の会話を続ける事で脳はすっかり安心し、精神の休憩がなされていた。

 デートの趣旨は置いておいて、アイに休んでもらうという当初の目的は無事クリアした。

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