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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
152/355

第152話 事件後日

 アイは今、凄く苦い顔をしている。

 事件が解決した次の日、アイは前に勤めていた警備会社から犯人逮捕の功績を称えられ、感謝状と金一封が授与された。元同僚達や上司が「さすが!」「すごいぞ」「できたらまた戻って来てくれるとうれしい」などと大絶賛している。

アイは確かに犯人を逮捕した。しかも危険な囮役を引き受けた手前もある。アイもここまでの流れは理解できた。だが、この感謝会で評価されたのはアイ“だけ”だったことに関しては理解できなかった。あの男の名前が一文字も出てこなかったからだ。

 男は捕らわれたアイを救出し、犯人を無力化させた。逮捕は彼の敷いてくれたレールにのっていたらできた感じなので、アイからすれば棚から牡丹餅のようなものだった。そんな間接的に逮捕へ協力した一番の功労者が評価されないなんておかしい。そう思ったアイが元同僚達にその話をしても「タイラさんが?何を言っているんだ、君は」とか「彼はいつもその時間帯、公園で修行しているんじゃなかったっけ?」と言われて全く信じてもらえない。


 アイは凡太が逮捕前の1週間、警備員に監視されていたことを思い出す。

(警備員の監視期間中、あえて習慣っぽい行動で1日のスケジュールを埋めておくことで、この人は“規則通りに動く人だ”と認識させて突飛な行動をとらない人物像をつくりあげたんじゃないかしら。だから、当日私を助けに来るなんて突飛な行動をとったという事実を、思い込みが邪魔して受け入れようとしないんだわ。一度肯定してつくりあげた認識を再構築しなおすのって面倒だから、それを利用したのかな。うーん…。考えすぎかな?)

 今までの凡太の行動・思考を散々目の前で見てきたアイだからこそできる推測であるが、今回は若干行き過ぎて憶測っぽくなっていた。

(でも、あいつならやりかねないんだよなぁ…。何にせよ、これで結果はあいつの思い通りってわけね。あーもう!何で評価されるべき人が評価されないのよ)

 再び苦い顔になるアイ。

 世の中、陰で知らず知らずの内に立ちまわってくれていて自分の動きやすいようにフォローをしてくれている人間が、探せば何人かはいるものだ。こういう人は見返りを求めずにこの行動をしている。目的は自己満足の為なので、自己中な感じがするが、見返りを求めてフォローする人間と比べれば雲泥の差だろう。凡太はもちろん前者だ。しかも彼の場合、自分に見返りがきた時、それを別の誰かにすり替えてくるので非常に質が悪い。今回の感謝会の件がまさにそれだ。見返りをすり替えられたことに気づかなければそれでよいが、気づいてしまったら最期、善意行動故にすり替えた本人を怒るわけにも注意するわけにもいかないし、モヤモヤした気持ちでいっぱいになってしまうのである。


(仕方ない。一肌脱ぐか)

 モヤモヤから脱却するべく、アイが静かに決心した。



~~~



 研究所、休憩時間にて。

 アイが凡太に質問していた。


「えっ?何かしてほしい事があるかって?」

「うん。この前の犯人逮捕に協力してくれたお礼だから遠慮しないでいいからね」

「別に勝手に協力しただけだからお礼なんていらないんだけど…あっそうだ!あの日の帰り、アイにおぶって家まで送ってもらったし、それでチャラな」

「何がそれでチャラよ。あんたは私を助けたせいで歩けなくなったんだから送るのは当然じゃないの。却下よ、却下」

「むぅ…。あっ、そういえば、大事なことを忘れていた。アイにおぶられることは役得なんよ」

「役得?」

「そう。だってこんなに可愛い子におぶってもらったんだぜ?世の男にとっては家宝級の経験よ」

「私が可愛いですって?あーはいはい。いつもの気遣いありがとうね」流そうとするアイ。

「気遣いじゃなくて本当の事を言っただけなんだが…。もう一度言う。アイ、お前は可愛い」

真顔で真剣に言う凡太。彼がこの顔の時は忖度なしの第三者目線で意見を言っている時である。それに気づいたアイは赤面していく。


「それなら私だって役得だったわ」赤面は続いている。

「こんなおっさんをおぶることのどこが役得なんよ?」

「幸せな気持ちになったわ」顔だけでなく耳も赤くなる。

「そうか…」

 『俺も幸せな気持ちになった』と返そうと思った凡太だが踏みとどまる。堂々巡りになりそうだったからだ。これを抜け出すにはアイの心中を分析するしかない。

思考を巡らす凡太。

 おぶる…幸せ…おっさん…役得…役……

(そうか…介護だ!不自由そうな人をしれっと助ける。アイはそれで幸福を感じていたんだな)

 一つの答えを出す凡太。役得お礼回避は諦めて、改めてアイのお礼に向き合う。


「うーん…。すまんが、保留は無理かな?全く思い浮かばん」

「無理。っていうか、何でもいいって言っているんだからさっさと決めてよね」

 さっき赤面させられた腹いせか、急にマウントをとったような口調になるアイ。しかし、あの男は怯むことなくくいつく。

「“何でもいい”ってお礼のやり方はやめなさい。それでもし相手が卑猥なお願いをしてきたらどうするんだよ」

「大丈夫だよ。このやり方はあんたにしかしないし」

「それもそれでまずいんだって。俺も男だ。いつ欲望が爆発するか分からんのだぞ」

「そのときはこっちが力で制圧するからお構いなく」

これには黙って納得する凡太。

(まぁあんたの場合、自分の性欲よりも相手を幸せにしたい欲望の方が強いからそうはならないだろうけどね)


しばしお礼探求が続く。

「えーと…お礼…できればアイにメリットがあるお礼…」真剣に悩む凡太。

「あのー声に出ているわよ」その姿をみて笑うアイ。

 呟きながらグルグルと部屋の周りを回り、急に立ち止まる。


「“今度の休日、好きな人とデートをすること”でどうだ?」


返答やいかに。

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