第15話 戦後の交流
凡太は現状把握の方が一段落したので戦跡地に来ていた。
あのときの騒がしさはどこへやら、のどかな雰囲気だった。
「花なんか地面から咲いちゃてきれいだな。ん?」
前方に何か埋っている。
(案山子?人の上半身のようだな)
不思議に思って近づいていくと見覚えのあるシルエットが、
「モーブさーん!」
地面に埋っていたのはモーブだった。
2日前のあのときからずっと埋ったままだったのだ。
凡太は急いで掘り起こし救出した。
(それにしても2日間埋められたままとか、モーブさんどれだけ嫌われてるんだ?そんな辛い思いをしている人にかける言葉がみつからない)
凡太が話を切り出せないでいると、モーブが口を開いた。
「最初に俺を助けた人物。俺はその人にすべてを捧げると誓っていた。これからはよろしく頼む」
「は、はい…」
この後、従者扱いはさすがに重すぎるとなったので親友(仮)となった。
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この一週間はサムウライ側からの接触はなく平和だった。
村内での作業は特に変わりはなかったが凡太への反応は戦後から大きく変化していた。
アンに関しては、魔法で済ませられるような運搬作業にわざわざ凡太を呼び、やってもらったりしていた。「若いもんは働いてなんぼ」という彼の言葉の下、結構な頻度で呼び出されるので他の村人の様に「ゼンさん」と呼ぶようになった。ゼノンの小僧呼びは相変わらずだが。
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「コトナさん、何か手伝えることないですか?」
「それでは村の防御策で使った部材の出費のまとめと今後の防壁増築の際の必要最低予想出費をまとめてほしいです」
「分かりました」
(この辺はいつもゼンさんに手伝わされているから大体分かる分野だ。そう見込んで仕事を振ってくれたのかな。さすがだ)
「それが終わったらこっちもまとめてほしいです」
「はい!」
あの2日目の夜からコトナの過労が気になっていた凡太はちょくちょく事務作業を手伝いに来るようになった。はじめは「タイラさん」と呼んでいたコトナも度々現れる唯一の仕事仲間に安心してか「ボンタさん」と呼ぶようになった。凡太もいつのまにか「カレンさん」と呼ぶようになった
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スグニに関しては、戦以降凡太に会う度に、
「隙だらけではないか」
「もう少し警戒心を持てよ」
「これじゃいつ暗殺されてもおかしくないぞ」
など、ネチネチ言うようになった。
最近はスグニのアークの偵察頻度も多く、偵察内容は凡太の今1番欲してる情報であるため、必然的に会う回数が増え、ネチられる回数が増えた。
あまりにもネチられるので、本当は呼び捨てにしてやりたい所を堪え「ゲールさん」と呼ぶようになった。
そんなゲールの偵察で気になる点が一つあった。アークが定期的にサムウライの村を抜け出し、どこかにこっそりと向かっている点だ。もちろん、このとき隠蔽魔法で気配を消したゲールが見張っている。村近くの森を何百メートルか進んだ後、毎回同じような場所で撒かれるそうだ。自分に隠蔽魔法を使う分には害がない為、たとえ振れようが無効化することはできない。一応見破る系の魔法もあるそうだが、それを使ってもダメだったらしい。全くもって隙の無い状態になっている。
以上のことからアークの警戒が堅いことが分かっている。だが、これは知られてはいけないものが確実にあることを意味しているので、もうひと押しといったところだろうか。
(アークの警戒網を破るには…やはりこちらから仕掛けて隙をつくるしかないな)
そう考える凡太だが、うまい仕掛けが思いつかない。
(仮にアークを直接攻撃すると、サムウライの人達が盾にされるだろうし、迂闊に攻撃できない。あと戦闘力に差があり過ぎるのもあるから弱体化が必須になってくる。だが弱体化魔法はマイナス要素の魔法だから魔法無効化で効かない)
ちなみに致死毒や麻痺毒などの即効性のある毒物を探知・解毒する魔法があるらしく、毒盛弱体化ができないことを以前ゲールから聞かされていた。
「アークの周りの戦力をどうにかして、アーク自身の身が危険にさらされれば慌てるしかないし、隙もできると思うんだけどなぁ。駄目だ、思考が堂々巡りしている。それにしても疲れたなぁ。疲れた時には糖分を。ん?まてよ…」
ピカーン
突然何かを閃く。この追い込まれた状況でこのパターンはもしや……
「そうだ、菓子パン作ろう」
この男、やはりただの無能である。