第147話 胸揉み消し事件
最近王国では若い女性が誘拐される事件が多発していた。特に狙われているのは夜19時以降で仕事帰りの女性達だ。か弱い女性を狙う卑劣な犯行と、通常なら思うところだが、奇妙な事に誘拐された女性達は割とすぐに解放されているらしい。
戻ってきた女性の証言によれば、帰宅中に気を失って、気がついたら手足に錠、目隠しされた状態で椅子に座らされているそうだ。こちらが起きた事に気づくと、野太い男性の声が聞こえて、質問してくる。
「すみませんが、胸を揉ませてくれませんか?」
これを聞き、女性は拘束されている恐怖もあり、嫌々申し出を受けようとする心情になるが、すぐ我に返って断固拒否したそうだ。すると「どうしてもダメでしょうか?」と残念な感じで聞いてくる。「ダメです」と再び拒否するも、しつこく「ダメでしょうか?」と聞いてくる。これが5分くらい続き、女性が疲れてきたところで、急に気を失う。再び目覚めると拘束はとかれ、女性の家のドア前にいたのだそうだ。他の女性の証言も内容は一緒だった。犯人が執着して同じ女性を誘拐しないことやすぐに開放すること、仕事終わりで疲れていて思考能力が鈍っていたこともあり、幸いにも女性達は特に事件の事はトラウマにならず、何事もなかったかのように生活している。
犯行が非常に素早く、隠蔽がうまいこともポイントだ。女性に気配を気づかれることなく気絶させ、周りに気づかれることなく移動している。すでに10件以上起こっているのに、目撃者が未だに一人もいないというのは驚異だ。
また、誘拐された女性の中には元特待生もいたが何の反撃もできずに拘束されたらしい。このことから、犯人は高い戦闘能力を持っていると推測できる。
この奇妙な事件は、犯人の痕跡が煙のように消えることと、被害者から胸揉み懇願の記憶が消え、事件性が揉み消された感じになることから“胸揉み消し事件”と呼ばれている。
そんなわけで、犯人としてまず容疑をかけられたのが凡太である。公の場での胸揉みたい宣言により、彼の“おっぱい隊長”としての知名度は、校内ランキング1位・期待度NO1のアーノルド隊長を遥かにしのぎ、この町のトップである。最初は1週間監禁される予定だったが、メアリーの計らいで監視員を3名つけて通常生活を送ってもらうという事に緩和された。その計らいに対し、おっぱい隊長はメアリーに深く感謝し、最近彼が趣味で作っている手作りプリンを贈呈する。一応城の料理ではプリンもでるそうだが、メアリー的には彼のものの方が好みらしい。
凡太の監視員は騎士団員だったので、顔見知りである。彼らはたまに凡太との模擬練習で接待を受けており、彼と一緒に生活することで何らかの成長があるかもしれないと期待していた。そのような監視兼鍛錬のような思考だった為、凡太の日課である朝練には自主的に参加してきた。締めのタバタ式もしっかりとこなす当たりがさすが騎士団である。
午前の授業、午後の仕事中は見学。そして、夕方のトレーニングの時間がやってきた。アップを終え、ジョウが的当て2個をクリアしたことに度肝を抜かれる。たまに凡太から的を借りて的当てをやっているのだが、未だに1個すらクリアできていないからだ。監視員3人がお互いに顔を見合わせながら「嘘だろ…」とか「これは現実なのか…」と驚いていた。そんな彼らがさらに驚いたのはイコロイの遊びである。これにより、体力が限界近くまで削られ、ジョウと共に地面を抱擁しながら息を切らす。「きつい…」と思わず音をあげる監視員に対し、イコロイが「明日はもう一本追加でやるから覚悟しておいてね」と監視員全員の精神に止めをさして帰っていった。その後に凡太が「1本追加かぁ。実際2本行けそうなんだよなぁ…妥協したら後悔するしなぁ。どうしたものか…」と呟いたことを聞いてしまいショックを受け、自分達が疲労で倒れている横でスクワットをし出す姿をみてさらにショックを受けた。
こんな感じで、監視員は鍛錬がメインで監視はオマケという充実した勤務を送って1週間を過ごす。その間に例の事件が発生した為、凡太の無実が判明した。無実が判明したことで、監視員は必要なくなり、警備勤務に戻る予定だったが、鍛錬内容が気に入ったらしく監視(鍛錬)を続けたいという始末。近日模擬試合をやることを条件になんとか引き下がってくれた。
犯人逮捕の為、19時以降の警備体制を強めるも、犯人の姿を一度も捉えることなく、逆に犯行を許してしまう結果に。犯人捜索は泥沼状態となる。そんな時、アイに囮捜査の依頼が入る。今回の依頼はその元同僚からである。アイも未だに姿が分からないという犯人に興味があった為、腕試しも兼ねて快く依頼を引き受けた。
囮捜査当日はアイにOLっぽい恰好をしてもらい19時頃の人目の少ないところを歩いてもらう。アイの様子は500m離れたところから警備員3人が見守り、何かあったらすぐに駆け付けることになっている。一応アイの服に発信機をつけているので転移や高速移動で遠くに一瞬で逃げられた場合でも対応できるようにした。
夕方になり、アイが囮捜査に向かおうとすると凡太がアイの肩をポンポン叩き「気をつけてね」と心配する。そんな凡太に向かってアイは「返り討ちにしてやるわよ」と力強く答えた。