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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第146話 厳守事項は守ろう

 レイナとアイは早朝から例の男を怒っていた。男がボロボロの運動靴をはいて朝練に向かおうとしていたからだ。


「急に破れでもしたら怪我するでしょう?」

「私も同意。そんなんじゃ思い切り運動できないでしょ」

「運動する分には問題ないよ。それに怪我するならそれでいいと思っている。誰にも迷惑がかからないんだし、どうでもよくないか?」

「どうでもよくないです!心配するこっちの身にもなってください」

「そうよ。あと、みすぼらしいものはかれるとこっちの気分までみすぼらしくなって迷惑なのよ。だから、いいかげん新しい靴を買いなさい!」

「そうしたいところは山々だが、金がないんですわ」


なぜかドヤる男。非常に腹立たしい表情をしている。


「そんなことで威張らないでください。…分かりました。今度の休日、私達と靴を買いに行きましょう」

「行く分にはいいけど、金がねぇ」ドヤッ

「靴のお代は私が払うのでご心配なく」

「それは駄目だ。断固として拒否する」

「あなたに拒否権はありません。黙って私の言う事に従ってください」

「やだよぉ。行きたくないよぉ、勘弁してよぉ」泣きつくふりをする男。

「あん?」殺気を混ぜた視線を放つレイナ。

「喜んで行かせて頂きます」圧倒的な力の前に速攻で屈する男。


 結果、自身の奴隷に命令されて脅された挙句、従うことになった哀れな男。この2人の主従関係はいつのまにか逆転していたらしい。これではどちらが奴隷か分かったものではない。その滑稽さに気づいたアイがクスクスと笑う。


 そして休日。アイがなぜか「急に予定が入ったから、2人で行ってきて」とドタキャンしたので2人で買い物に行くことになった。アイがこの時、レイナに向かってファイトポーズをしたのは気のせいだろう。


 町の靴屋までは寮から歩いて20分ほどかかる。その余暇を会話でうめる2人。


「さっきからどうしたんだ?妙によそよそしいぞ」

「両腕がなおったことにどうしても慣れなくて…」


 主人の両腕が自身の目の前で切り落とされた衝撃はレイナの中で少しトラウマになっていた。そのことから、自身が近くにいることで切り落とされたり、大怪我するのではないかと心配をするようになった。アポリクスの呪いによる不幸体質はデマであり、彼女はすでに呪いにかかっていなかったが、その名残は残っていたようだ。それに気づいた男がこう返す。


「腕がなくなったとしてもまた生えてくるさ」カッカッと笑う。

「トカゲですか、あなたは」


 つられてレイナもクスクスと笑う。少しは心配が緩和されたらしい。


「そういえば、神様に腕を直してもらったときに若返らせてもらったのですよね?羨ましいです」

「そうか?」

「そうですよ。女にとって若さは武器ですからね」

「若い方が容姿を美しく保ちやすいから良い的なことか?さっぱり分からん」

「あなたには特に分からないでしょうね…」

「それでもレイナが綺麗だってことは分かるぞ」

(呪いが解けてからのことを言っているのでしょうか?)

「ありがとうございます。あと、贅沢な悩みができまして、呪いが解けて容姿が元に戻ったのは良いものの、戻ったことで気を遣わないといけなくなりました。今まで呪いで容姿が悪いということを言い訳に逃げていた容姿を磨く厳しい鍛錬に急に戻された感じです」

「ごめん。やっぱり、容姿の話はさっぱりだ。レイナの綺麗なところは呪い前も後も対して変わらないと思っているし…」

(容姿のことで綺麗と言っていたのではなかったの?では、単なる皮肉?いや、この人がそんなことを言うはずがない。だとすると……)


 男がレイナの何に対して“綺麗”と言っていたのかが分かった瞬間、呆れ笑いをする。


「ありがとうございます。でも、そんなことを言うのはあなたくらいですよ」

「そんなことないだろ。こんなにも分かりやすいんだから他の人も気づいているって」

「それでもこの綺麗さに気づけるのはあなたぐらいですよ」

「またまた~。…あっ、あれか?あまりにも褒めるところが無いから仕方なく褒めてやってる的なやつだよね?」

「はぁ…本当に面倒ですね」

「よく言われます」テヘペロ

「アイの様に殴ってもいいですか?」

「すみません。調子に乗りました。勘弁してください」

「よろしい」



 そんなこんなで店に到着し、運動靴を購入がすぐに終わる。どうやらレイナは何を買うか始めから決めていた様だった。


 予定より早く買い物が終わり時間が余ったので靴のはき心地確認の為、公園で軽くトレーニングを行い、汗を流す。お互いに程よく疲れたところで寮へと帰宅する。


「いやー凄くはき心地よかったよ。買ってくれてありがとう!」

「どういたしまして」

「今度絶対お礼するから待っていてくれ」

「別にお礼はいいです。私が好きでやった事なので」

「そうはいかん。好きでやったことにしろ、買ってもらったことは事実。だからお礼させてくれ」

「はぁ…。分かりましたよ、好きにしてください」

「ああ。好きにする!」


 子供の我儘を聞く親の様に男の要求を受け入れるレイナ。男が感謝するということに敏感であることを知っているからだ。男がお礼は何にしようとウキウキしながら考えている時、ふとレイナの厳守事項の内容を思い出す。項目1は“自分の夢や目的を実現させることを最優先とせよ”だ。本来なら彼女の宿敵であるアポリクスの討伐に躍起になっているところ。だが、レイナの普段の生活を確認してもそれに該当する行動は起こしていない。確かに日課のトレーニングは続けているが、ハードなものではない。後の時間は主人の近くにいたり、研究所で働いているだけである。疑問に思い「厳守事項は毎日ちゃんと守っているんだよね?」と確認しても「ええ、もちろん」と毎回自信満々で返される。

 今日も念の為それを確認する。


「厳守事項の項目は今日もちゃんと守れているのか?」


 今日はレイナと男がしゃべって軽くトレーニングしたくらいで特に夢の実現につながるような行動をしていないはずだ。故に凡太は否定の返答を期待して待つが……


「ええ、今日はいつも以上に守れていますよ」

「そ、そうか…。それはよかった」


 いつも以上に自信満々で返され、男の思考はKOされた。

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