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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
143/355

第143話 被害者の声

 朝6時。とあるスーパーマーケットにて。


「まーた、あいつか―!!」


 店長は激怒した。

 またしても不具合のあった店内の機器が勝手に直されていたからだ。ちなみに今回は製氷機。

小売店は客へのサービスが命。客に対しサービスをする側が、客にサービスされるというのは屈辱である。しかも彼は人にサービスをすることが好きでこの仕事を始めた人間。かつ自身の仕事に誇りを持っていた。その誇りが、あの男の度重なるメンテナンスサービスによって汚されていったのだ。


 激怒する店長をなだめに副店長がやって来る。


「まぁまぁ、落ち着いて。お客様に迷惑がかからない内に直ってよかったじゃないですか」

「そうなんだが…。この私を相手に(サービスの)やり逃げをするのが許せんのですよ」

「いいじゃないですか。こちらに不都合が生じるわけでもあるまいし。むしろ、好都合だしよいことではありませんか?」

「それが一番まずいのですよ!好都合という事は優良サービスだったという証拠ではないですか!そう思ってしまった瞬間、負けなのですよ」

「負けって、何の勝負をしているんです?そんなことより、9時に修理業者が来る予定でしたよね?キャンセルします?」

「いや、一応見てもらおう。前来てもらった時に少し調整が甘い箇所があって微調整してもらっているし、完全に修理できているわけではないようですし…あっ、立ち合いは私がやるので、自分の作業に専念していて大丈夫ですよ」

「分かりました。お願いします」



~~~



 朝9時。業者がやって来て10分ほどで点検作業を終える。


「ご指摘があった箇所の不具合はないようです。調整の必要もなく正常です。ただ…」

(小さい不具合でしょうか?)

 店長はあの男のサービスに微量ながら欠陥が見つかったことに安堵する。なんの欠陥もなく完璧にサービスされてはこちらの身が持たないからだ。心にゆとりができた様に軽やかな気持ちで業者の言葉の続きを聞く。

「前よりも性能が上がっています」

「はい?」

「魔力変換装置が改造されていて、前よりも製氷時に必要な魔力が少なくてすむようになっています。弊社でもこのような技術を持った者はなかなかいませんよ。よほど機械に強い方が働いていらっしゃるのですね」目をキラキラさせて話す。

「は、はぁ…」

「では、片付けが終わり次第帰ります。今回は交換部品がなかったので、料金は結構です」

「はい、ありがとうございます…」


 呆気にとられる店長。

だが、彼の不屈のサービス精神はこの状況に違和感を覚え、無意識ながらも脳内で違和感に当てはまるものを検索し、整理と推理を開始する。


 業者=魔法研究所のメンテナンス部の人間。

 点検・調整作業は無料で、交換部品が出た時のみ料金(材料費)が発生。

 業者が点検する前に毎回修理していく男。

 男の尋常でないサービス力。

 

 これらのキーワードをまとめると…


 急に店長の目が見開かれる。

 答えに行きついたようだ。しかし、すぐに苦笑いする。


「そんな偶然あるわけないか…。きっと疲れて頭が混乱していただけでしょう」


 頬を叩き、気合を入れて作業に復帰する店長であった。



~~~



 午後、研究所にて。ある2人の会話。


「今日、あのスーパーの製氷機の点検に行ったんですよね?」

「そうだけど、何で知ってんの?」

「そこの予定表に書いてあるじゃないですか」

「そうじゃなくて、何で製氷機を点検した事が分かるのかって意味」


予定表には“スーパー 9時 点検”としか書かれていなかった。


「えっと…よくあのスーパーで買い物していて、帰りに製氷機から氷を取ろうとした時に変な感じがしたので、もしかしたらその点検かなと思っただけですよ」

「ふーん。とりあえず、あのスーパーで今後作業する機会は減るかもね」

「どういう意味ですか?」

「今回の点検は全く異常がみつからなかったんだよ。事前に連絡があった異常箇所がちゃんと直っているどころか、前よりも高性能になっていたし。これはもう、あのスーパーの従業員の中に相当な技術者が紛れ込んでいるって証拠でしょ?だから、今後はその人が直していくんだろうなぁと思っただけだよ。そういえば、何度もあのスーパーの機器点検にいっているけど、2カ月前だったかなぁ?その時も行ったら修理の跡があったんだ。でも、調整が雑で危なっかしかったなぁ。一応再調整させてもらったよ。それ以降も何回か似たような事が続いたっけ。もし、その人が今回の人と同一人物なら相当努力したってことになるし、それはそれで凄いね」

「へぇー。スーパーの従業員兼技術者ってことですか。かっこいいですね」

「だろ?というか、ここにお前が来たってことはいつものあれ?」

「はい、今日もよろしくお願いします」


 男は何カ月も前から機器修理技術を学ぶ為、自身の仕事を最低限片づけた後、研究所メンテナンス部の部長に技術を学びに来ていた。最初は何もできなかったが、何度もお叱りを受けたり、失敗する内に徐々に技術力を磨いた。どこかで実践練習をしていた甲斐もあり、経験値を効率的に稼げたおかげで、その技術力は今やあのスーパーにいるとされる技術者と同等である。

 なお、男の実践練習で発生した部材費は全て自身のポケットマネーで賄われている為、会社の経費に優しいエコ活動でもあった。

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