第139話 おっぱい隊長
宣言式が終わった30分後、各隊長の願いが町中央の掲示板に公開される。イケメン宣言をしたアーノルドの名は一気に広まり、彼の下に入隊希望者が続出した。反対に、おっぱい宣言をした凡太の名はアーノルドより広まったものの、入隊希望者はゼロだった。名は名でも汚名の方を広めたからである。以後、その汚名は町中で“おっぱい隊長”という形で広まった。
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城内メアリーの部屋にて。
レミとは別のメイドがメアリーに物申す。
「メアリー様、あの男は下賤すぎます!今からでも部隊編成するのをやめさせてはいかがでしょうか?」
「一応決定事項だから取りやめることはできないんだ。ごめんね」
「そうですか…」
「すまないが、レミと話したいことがあるからしばらく出て行ってもらっても構わないかな?」
「畏まりました」
そう言って、メイド2名が部屋を後にする。
メアリーが、緊張が解けたかのように脱力して話始める
「いやー恐れ入ったよ」
「ええ、全くです。まさか、自分の隊に誰も入隊させない為に問題発言をするなんて、誰が思いつくのでしょうか」
「思いつくのは自己評価が下がることを気にしない彼くらいだろうね」
凡太の性格のことを理解していたメアリーとレミは、凡太があの宣言をした時に、それが嘘であり、真意は別にあると考えを巡らせていた。その甲斐あって凡太の真意に到達する。
「騎士団の皆はさすがって感じだったね。みんな自分のことより国の事を優先していたし。アーノルド君も立派な解答だった。でも、ちょっと悲しいかな」
「と、いいますと?」
「本当は彼らに自由に考えてほしかったんだ。国とか関係なしにね」
「では、皆がタイラ様のような発言をしろと?」
「うーん。さすがに全員があんな風に言うのは勘弁してほしいかな。でも、私の体を触らせる程度で済む願いならいくらでも叶えようと思う。それで何人もの命を救えるのなら安いものだよ」
「さすがです、メアリー様」
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夕方の修行。公園でジョウとイコロイに会う。
「やぁ、おっぱい隊長」
「うーす」
「さすがです、師匠。自分の評価が下げる宣言をあえてすることで、自身の精神修行の場を作ってしまうとは。感服しました」
「違うんだけど、それでいーや。もう好きに解釈して」
投げやり・無気力状態の凡太だったが、入隊希望者がゼロという結果に満足していた。最弱である自分の隊に入隊すれば、死亡率が増す。他の隊に入隊した方が安全なので、自分の部隊に誰も入隊させたくなかったからだ。問題は補佐としてすでに入隊したことになっている団員。こんな実力も評価も最悪な地獄のような環境で一緒に戦ってもらうのにかなり同情していた。正直はやく脱退してほしい。このおっぱい騒動でドン引きして幽霊部員になったり、無言脱退してくれるとありがたいと思っていた。
凡太が今後の事を見据え、更なる自己評価の低下策を考えていると、イコロイが話しかけてきた。
「君の隊に入隊したいんだけどいいかな?というか、させろ」
「怖っ…。まぁ、一応規則違反でもないし。条件も満たしているからOkだよ。でも、どうして俺なんかの隊に?」
「君は今回の宣言で味方側にもたくさん敵をつくっただろ?その味方側の敵が君を襲ってきた際には遠慮なく殺せると思ってね」にこやかな顔で恐ろしい事を言う。
「どういうこと?」
「人数不足かつ強敵の襲来可能性がある非常時に、味方の数を減らしに来る馬鹿は戦場にいるだけで邪魔だからいらないだろ?」
「あっているような感じはするけど、最後の“殺す”とか“いらない”って言葉が物騒過ぎる。もう少しお手柔らかに頼むよ」
イコロイは「ちっ」と舌打ちしたものの嫌々頷き、一応了承してくれたようだ。
「師匠、自分も入隊します!」
「その心は?」
「師匠ばかり精神修行に励んでいてズルいと思ったからです」
「そういうわけじゃないんだけどね。何か断っても無駄そうだし許可するよ」
「ありがとうございます!」
(はぁ…。君らと接する事の方がよっぽど精神修行になるよ)
こうして、凡太の部隊はイコロイとジョウ、団員の2人を合わせ計5人となった。
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研究員寮にて。
凡太は帰宅早々、アイとレイナに正座させられお叱りを受けていた。お叱り内容はもちろんおっぱい宣言の件だ。
「どうやらあなたにはデリカシーがないようですね。メアリー様が傷つくとは思わなかったのですか?」
「彼女なら気づいてくれるはずだと…何でもないです。すみません」
「本当に反省しているの?あまりにも醜い顔だからいまいち反省が伝わってこないんだけど?」
「アイ、それは逆効果よ」その言葉通り、微妙にニヤける変態。
「そうだった…。とにかく、そういう発言はきちんと時と場所を選んでする事。分かったわね?」
「先生、あの発言が適切な時と場所が浮かばないんですけ…ドッフ!!」
「あんたはいつも一言余計なのよ」懐かしの腹パンを頂く凡太。
「で、あなたのことですから、どうせ自分の隊に入ると危険が増すからってことで、入隊を阻止するためにあの発言をしたのでしょう?」
「ご名答。さすがはレイナ」キリッとした顔で言う。
「はぁ…。面倒なところは相変わらずですね」
「そうよ。いちいち付き合わされて迷惑するこっちの身にもなってよね」
「だったら見捨てればいいのに」ボソッ
「あん?」グーを見せつけられる。
「すみません。2度と言わないので勘弁してください」
「まぁ今後どうしても揉みたくなった場合は私がしゃーなしで揉ませてあげるわ、変態さん」
「私でもいいですよ。他の方に被害が及ばないだけマシですしね」
アイとレイナがクスクスと笑いながら、同情するような冗談を吐く。すると、
「おい。例え冗談でもそんなこと言うなよ?」
今までしおらしくしていた男の空気が急に変わる。
「2人とも自分の価値を全く分かっちゃいねぇ…」
只ならぬ威圧感を放つ男に今までマウントを取って余裕があった2人の顔から笑みが消える。男の威圧感に恐怖を抱いているようだ。
緊張感漂う空気の中、珍しく男の逆説教が始まった。