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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
138/355

第138話 KYによるKY宣言

 夕方。公園の人気のない隅で、いつもの3人が修行をしていた。

 

「ジョウ、何度言ったら分かる。お前は魔力の使いどころが少し遅い。もっと早く使うように心がけろ。あと、動きが硬い。そんなんじゃいつまでたっても僕に追いつけないよ」

「ご指導ありがとうございます。すぐに取り入れてみます」

 そう言って試すも、

「言ったそばからまたずれているぞ。全く、何度言ったら分かるんだ?ほら、もう一度だ」

「すみません。よーし、今度こそ!」


 ジョウとイコロイが強化魔法からの連撃動作の練習をしていた。最近はずっとこんな感じでイコロイがジョウの指導をしている。凡太はそれを遠目で見てスクワットや素振りをしていた。


「おい、僕に候補を押し付けるな。君がちゃんと指導しろよ」

「えーだって、イコロイの方が教え方うまいじゃん。あと、俺からジョウに教えられることはほとんどないんだよ」

「怠慢だな。よし、今日は例のやつ1本追加する」例のやつ=全力気弾打ち消し

「しょうがない…。やるしかないか」

「しょうがないと思うなら、少しは指導しろよ…」


 魔法と体術の扱いに長けたイコロイはジョウの指導者として適任だ。イコロイの性格上、いくらジョウが勇者候補といえ、弱者を殺すなんてつまらないことはしないだろうからしばらくは安心できる。これで、ほどよくジョウに実力がついたところで凡太が死ねば覚醒効果で力量差を埋めるところまで持っていけるという算段だ。


 そんな順風満帆な日々を過ごしていると突然事件が発生する。

 国王であるメアリーの父がメサイヤと名乗る大型悪魔に殺されたのだ。しかもメアリーの目の前で。メサイヤとメアリーが何か会話をした後、メサイヤは去っていったらしい。

 メサイヤは転移魔法で暗殺を仕掛けてきた。再発防止の為、その日以降、王国全体に転移魔法を封じる為の結界がはられた。

 メアリーはいつまでも落ち込んでいる人間ではないので、騎士団の各部隊の隊長にメサイヤ討伐を命じた。討伐に成功した者には王国で実現可能な願いを1つだけ叶えるといった異例の報酬が入る。今日の昼、城の会議室に隊長が集められ、メアリーの前でその願いを宣言することになっていた。


 強者達の顔が並ぶ中で、場違いともいえる無能のおっさんが紛れ込んでいた。

 

 なぜ彼が紛れ込んでいるのか?


 トーナメント戦の優勝者が隊長に任命される。現にアーノルドもこの場に居たのでここまでは凡太も理解していた。しかし、その後文の“なお、本戦で王女が実力を評価した1名も隊長として任命する”のところを読み飛ばしていたのだ。試合で称賛されるのは最上位者のみという先入観がその文を誤処理してしまったのだ。一応、メアリーが凡太の名前をあげた時、その場に反対派が何人もいたが、学園長と凡太の事情を知る騎士団員達の激推しの勢いに負け、このような結果になった。


 各隊長が願いを述べていく。「兵の訓練場を改装したい」とか「王国の防衛強化の為、城の外装を強化したい」とか「人材育成のハードルを下げ、国民一人一人の力の底上げをしたい」など、国の為を思った素晴らしい願いが続く。ちなみにこの願いは町広場の掲示板に貼りだされるので全国民に知られる。この願いをみて共感した人が、部隊に進んで入隊してくれることもあるので、強い部隊をつくる為には願いの内容が重要となる。討伐に成功すれば絶大な名声を得られるので願い以上の報酬になるだろう。もちろん、騎士団員は基本・真面目なので、強い部隊をつくる為にわざと素晴らしい願いを言うといった下賤な考えを持っておらず、全てガチの願いだ。

 

 続いて願いを言うのは、年齢20代前半・身長190㎝・体格はガッチリ系・銀鎧姿のアーノルドだ。黒髪短髪で顔はイケメン。おまけに校内ランキング1位の最高実力者なので非の打ち所がない超イケメンである。そんなアーノルドが願いを宣言する。


「私に願いはありません。もしあるとするなら、たった1つ。メサイヤを討伐するということだけです」


(願い無しに加え、討伐宣言キター!かっこよすぎだろ!)


 イケメンによるイケメン台詞に凡太を含め室内ほとんどの人が「おお~」と称賛する。ここで、願い宣言式が終了すれば、良い幕引きになったのだが、最後にどうでもいい男の宣言が残っていた。


 その男が、王座に座るメアリーの前で他の隊長と同じように立つ。


「私の願いはたった1つ」


 パクリである。しかもついさっき使われたやつだ。

 この入りによって会場全員の期待感がガクッと下がる。

 そして、その下がり切った期待感をさらに下げ、マイナス方面に突入する一言を放つ。


「メアリーさんのおっぱいを揉むことです」

「はぁ!?」

 

 突然の変態発言に会場のほとんどの人間が驚き、激怒する。それもそのはず。メアリーは父親を殺されたばかりで心が痛む中、その弱った精神を奮い立たせてこの場に来ている。そんな彼女相手にこんな卑猥な宣言をするなどもっての外である。

「ふざけるな!」「けしからん」「無礼者!」「クズが…。お前が国王の代わりに死ねばよかったのだ!」「奴からすぐに隊長の権限を剥奪しろ!」「私も揉みたい!」などと罵声が飛ぶ。

 怒りで凡太に飛びかかろうとするものが現れたが、護衛騎士団によって取り押さえられた。会場が怒りや驚きで混沌とする中、混沌の発生源である男は満足した表情で会場を後にした。苦笑いするメアリーを残して。

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